SMMウェビナー「米IRAで変わる世界のリチウムイオンバッテリー」
miru がメディアパートナーを務める中国の金属情報メディアSMM(Shanghai Metals Market, 上海有色網)は2月6日、「米インフレ抑制法(IRA)で変わる世界のリチウムイオンバッテリー (The Global Li-ion Battery Pattern Is Changing Under The Influence Of IRA Policy)」と題する会員向けオンラインセミナーを行った。中国企業を中心にIRAへの対策が練られている様子を紹介した。
■レアアースの現状は中国がやはり強い
スピーカーは同社新エネルギー部アナリストのトーマス・フン(Thomas Fun)氏。同氏はまず、リチウムイオンバッテリー(LIB)の生産は中国勢がリードしており、日韓企業が後を追っている現状があると紹介。生産拠点は世界中に散らばっていると指摘した。ただし、前駆体やニッケル、コバルト、硫酸マンガンなどの原材料はさまざまな資源国に集中しているとも指摘した。
世界の主なレアアース関連企業
レアアース各工程での世界の国々
中国はリサイクル市場でも、2022年段階では処理能力で一歩抜きんでている。欧米などは冶金段階の能力が不足しており、改善が待たれる段階とした。
■米国にとってのIRAのメリットと問題点
そこで米国が打ち出したのがIRAだ。IRAは、車載バッテリーの主要鉱物原料であるリチウム、コバルト、グラファイト、ニッケル、マンガンについて、米国または米国と実効的な自由貿易協定を締結している20カ国、または北米で一定の割合の抽出と加工を満たさなければならないと規定する。リサイクル率と適用比率要件は、2023年の40%から2027年以降の80%に年々増加する。また、北米で生産または組み立てられた車載電池の認定電池部品(電極活物質、電池、電池モジュールを含む)の価値が一定割合を満たさなければ3750米ドルの補助金を受けられないと規定しており、2023年の50%から適用を開始した。
米国側のメリットとしては、同国内でのバッテリー製造を進めることで貿易赤字の低減につなげられる。また、輸入コストを抑えられる分、米国産バッテリーはコスト面で競争力が高いとしている。
さらにIRA には「懸念される外国企業 (FEOC)」の概念がある。中国企業は2023年12月、このFEOCの適用となり、米国の中国企業除外の方向性が鮮明化した。
関連記事: 米中対立が先鋭化 米インフレ抑制法から中国除外、中国は黒鉛輸出規制を開始 | MIRU (iru-miru.com)
もっとも、IRAの実行には問題点も多い。1つ目は:産業チェーンの完全性が不十分であることだ。特に原材料である鉱物資源と正極材は、米国内での生産規模が小さい
問題の2つ目は中国に対し欧米はコスト競争力で劣ること。人件費に加え、米国は工業生産における大気および水排出指標の要件が高く、対応する処理コストは中国の約3倍に及ぶ。
米国の環境コストは中国の3倍
さらに、規制された海外企業、特に中国企業側も策を練る。米国と二国間貿易協定(FTA)を結ぶ国を経由して米国に進出するなどの動きが広がっている。フン氏は「米IRAを受けて中国企業の迂回輸出が進んでいる」と指摘した。
中国企業の迂回輸出が進む
■ねらい目は「再生エネルギー」
こうした状況を踏まえ、フン氏は、海外企業がIRA補助金を受けようとするならば、ねらい目は「投資税額控除 (Investment Tax Credit=ITC) 」だと指摘した。
ITCは従来からあった再エネ設備投資への税額控除だ。適用は太陽光発電システムを含む、再生可能エネルギーの設備投資。IRAはやみくもに投資条件を厳格化したわけではなく、ITCについては10年間という長期間に延長した。
コストの多くを占める分を米国産にできればITCへの道が開ける
フン氏は「バッテリーがエネルギー貯蔵システムの最大かつ最も重要な土台であることを考えると、この方法はIRA補助金を取得するための次善の策として最良だろう」と述べた。
関連記事: よくわかるIRA 「中国除外」資源に波及、インドネシアやコンゴの鉱物も実質排除 | MIRU (iru-miru.com)
(IR Universe Kure)
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