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よくわかるIRA 「中国除外」資源に波及、インドネシアやコンゴの鉱物も実質排除

 米政府が同国の電気自動車(EV)購入支援策インフレ抑制策(IRA)について、中国企業が生産した電池部材や重要鉱物を使っている場合は除外する方針を発表してから半月余り。当初は中国の完成車や部品などへの直接的な影響が注目されたが、現在は中国企業が関わる資源採掘への影響も本格的に懸念され始めている。

 

■「懸念される海外企業」、ついに中国含める

 

(出所:米政府ホームページ)

 

 米国は2022年8月成立のIRAで、気候変動対策としてEVを対象に最大7500ドル(約110万円)の購入支援策の導入を決めた。当初は主に以下の条件があった。

 

(1)完成車の希望小売価格の上限が普通車5万5千ドル、バン・SUV・ピックアップトラック8万ドル

(2)車の最終組み立てが北米(米国、カナダ、メキシコ)であること

(3)車載向けバッテリー材料として使われている重要鉱物が一定割合(後述①)以上、米国ないしは米国と自由貿易協定(FTA)を結んでいる国で抽出されるか処理されている、あるいは北米でリサイクルされている(控除額3750ドル)

(4)使われているバッテリーの部材が一定割合(後述②)以上北米で製造されているか組み立てられている場合(控除額3750ドル)

 

*① 使われている重要鉱物の最低割合:2023年40%、2024年50%、2025年60%、2026年70%、2027年以降80%

*② 使われているバッテリー部材の最低割合:2023年50%、2024・25年60%、2027年80%、2028年90%、2029年以降100%

 

 さらに、

2024年以降はバッテリー部材が懸念される海外企業によって製造・組立されたものであってはならない

2025年以降はバッテリーの重要鉱物が、懸念される海外企業によって抽出・処理・リサイクルされたものであってはならない

 

 今回はこの「懸念される海外企業(Foreign Entity of Concern、FEOC)について、最終的に中国を含めることを決めた。これにより、中国企業が生産した電製品について、電池は2024年から、重要鉱物は2025年から、それぞれ中国製を使用したEVを支援策の対象外とする。 米企業の子会社も含め、中国などに本拠を置いていたり、政府による経営支配権が25%以上に及んでいたりするEVメーカーも除外対象となる。

 

関連記事: インフレ抑制法 中国との合弁企業は税制優遇措置から除外? | MIRU (iru-miru.com)

 

■実は「中国産」インドネシアのニッケルも、コンゴのコバルトも

 ただ、発表が後回しになったことでもわかるように、「懸念される海外企業」に中国を含めることについては、「IRAの優遇措置対象になるEVは存在しなくなる」という声も上がるなど、米国内でもかねて議論があった。特にバッテリー材料である需要鉱物分野で顕著である。

 例えばニッケル。現在、世界のニッケル鉱石の半分ほどはインドネシア産だが、インドネシアで生産事業を手掛けているのは、青山集団や華友コバルトなどの中国企業と現地企業や外資系の合弁企業だ。インドネシアのニッケル業界では特に製錬関連で中国企業の関与が大きく、全体の7割ほどを占める。

 

インドネシアのニッケル精錬所の資本関係

(出所:JOGMECの2023年レポート)

 

 コバルトも同じで、世界の生産量の7割を占めるコンゴ民主主義共和国(DCコンゴ)で採掘事業を手掛けるのは、中国金属採掘大手の洛陽モリブデン業(チャイナ・モリブデン、CMOC)などの中国企業だ。同じくリチウム、レアアースなどでも、生産「国」がFTAを結んでいても、実際の「生産現場」は事実上、「中国」に該当するケースは多い。 

 

■中国は重要鉱物の確保に一直線

 一方の中国は、これ見よがしにと重要鉱物の生産増加・確保を進める。12月17日の日本経済新聞朝刊は、「中国政府は12月15日、例外的に2023年のレアアース(希土類)の生産枠を追加したと関連企業に通知した」と伝えた。2023年通年の生産枠は前年比2割増の25万5000トンとなるという。報道によると、生産枠増加の対象になったのは主にEV車載電池の材料となる軽希土類だとも伝わった。

 中国の重要鉱物確保への積極姿勢は他にもみられる。チャイナ・モリブデンは2023年、DCコンゴでの2つの大型鉱山の操業を再開した。チャイナ・モリブデンによると、れょう鉱山のコバルト生産量は4万5000-5万4000トン程度の見通し。2022年のコバルト生産量はおよそ20万トンだから、チャイナ・モリブデンの生産増加分だけでも世界のコバルト生産量は2割ほど増えることになる。背景としては、中国の備蓄当局がコバルト備蓄を増やしているとの情報があり、中国政府からの命令でせっせと生産を増やしているのが実情のようだ。

 

 一方で、企業レベルでは米中対立を回避しよう迂回して米国市場に食い込もうとする試みも盛んだ。中国コバルト大手の華友コバルトは2023年7月、韓国鉄鋼大手のポスコ・ホールディングスとの合弁LIBリサイクル工場を韓国内に設置した。米国とFTAを結ぶ韓国での工場設置で、IRAの恩恵を受けられるようにしようとする意図が透ける。

 

関連記事: 中国の電池企業、韓国経由で米国目指す IRA1年、合弁や工場設置で規制回避へ | MIRU (iru-miru.com)

 

■米中対立は資源を巡る我慢比べに

 結局のところ、米中のEVや付随する部品、電池、そして電池材料としての重要鉱物を巡る対立は、我慢比べの様相を呈し始めている。英フィナンシャル・タイムズは12月1日、今回の中国除外の決定について「2024年だけでなく、長期的な供給網(サプライチェーン)確立のための動き」との米政府関係者の見方を伝えた。米側はオーストラリアやカナダなどからの重要鉱物の調達を急ぐ一方、コバルトフリー電池など重要鉱物を使わない動力の開発も進める。

 対する中国側は、前述のように豊富な資源備蓄を武器にEV事業を展開する姿勢だ。短期的には米側が不利になることは否めず、もし米側が重要鉱物の半分を米国や自由貿易協定を結んでいる国から入手したとしても、その分のコストが製品価格に反映されてEV価格が高騰すれば、世界市場で米製EVが競り負けることになるからだ。

 

 どちらが早く音を上げるか、根競べは始まったばかりだ。

 

関連記事: 米中対立が先鋭化 米インフレ抑制法から中国除外、中国は黒鉛輸出規制を開始 | MIRU (iru-miru.com)

 

 

(IR Universe Kure)

 

 

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