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ハパックロイドが紅海危機の中、サウジ内陸横断ルートを発表

 ドイツ海運大手のハパックロイド(Hapag-Lloyd)は、他の船社と同様、紅海でのフーシ派による船舶攻撃を避け喜望峰経由の航路を継続しているが、この危機的状況の中で、同社は1月末、ウェブサイト上での顧客向け声明の中で、サウジアラビアの内陸輸送網を構築し、同国西岸、紅海側のジェッダ港(Jeddah)と同国東岸、ペルシャ湾岸のジュバイル港(Jubail)、ダンマーム港(Dammam)、更にはUAEのジェベルアリ港(Jebel Ali)との間の内陸シャトル・サービスを開始したと発表した。

 

この内陸ルートだと、確かに、紅海入り口のバブエルマンデブ海峡通過、更にはイエメン沖航行も避けることができ、ジェッダからスエズ運河を通過し、地中海への近道だ。問題は、サウジ内陸通過に要する日数や追加費用といった細部だが、まだサービス開始の日が浅いことからデータが公表されていない。

 

ハパックロイドは中近東一帯で55の港と53の内陸デポを繋ぐ一大ネットワークを有しており、紅海危機が今後長引くことになれば、喜望峰経由ルートへの代替オプションとしてこの内陸ルートが有望視される大きな可能性を秘めている。

 

サウジの鉄道

この時期に来て残念なのは、サウジアラビア鉄道公社 (Saudi Railway Company, SAR)が計画しているサウジアラビア横断の高速鉄道「サウジ・ランドブリッジ」が未だ完成していないことだ。首都リヤドとジェッダ間を高速鉄道で結び、旅客と貨物を運ぶ計画で、着工は2025年予定といわれており、総工費が総額70億ドルと見込まれている。

 

砂漠の地ゆえの砂嵐による線路への砂のたい積、それによる列車の減速走行等の列車運行上解決せねばならない特異な問題もあるが、早期の完成が待たれるところである。

 

ハパッグロイドは今回の発表が紅海情勢の悪化に伴った緊急対応であり、状況が改善次第、スエズ運河通航ルートに戻る意図らしいが、今後の推移を見守りたい。

 

 

中近東内陸輸送網とランドブリッジ(陸橋)

今回のハパックロイドの発表に際して、海外メディアで中近東の物流業者によるその他の内陸輸送網の実例を調べてみた。

 

UAE, バーレインとイスラエルを結ぶトラック輸送網

イスラエルのデジタル貨物市場を運営するトラックネット・エンタープライズ(Trucknet Enterprise)が軸となり、アラブ首長国連邦のピュアトランス(PureTrans)、そのパートナーであるDPワールド、バーレーンのコックス・ロジスティックス、エジプトのWWCSと提携し、ドバイのジェベル・アリ港(Jebel Ali)とバーレーンのミナ・サルマン港(Mina Salman)をトラック輸送で結び、そこからサウジアラビアとヨルダンを経由してイスラエルのハイファ(Haifa)とエジプトのポートサイド(Port Said)に内陸輸送網を築き、そこから貨物をヨーロッパやその先の仕向地へ向かわせるもの。

 

トラックネットはこのランドブリッジ(陸橋)を「特急」サービスとして売り出し、海上輸送ルートが10日間短縮されると主張している。通常、コンテナ貨物の積み降ろしや積み込みのため、コンテナ船が UAE からイスラエルのハイファまで移動するのに約 2 週間かかるが、陸橋のおかげで、ジェベル・アリで降ろされてトラックに移されたコンテナ貨物は、わずか 4 日でハイファに到着することができるという。

 

コストは約15~20%程高くなるが、イスラエルからUAEに空車で戻るトラックの数を減らすことに同社が注力していることで、輸送コストを下げる余地がまだあるとのこと。

 

 

中近東ランドブリッジの今後の展望

今後の状況次第だが、喜望峰経由での航路変更とその結果としての輸送時間の長期化と海上運賃の上昇を考慮すると、今後、中近東でのランドブリッジ(陸橋)による内陸輸送が安価になるか否かは今後の実績次第ということのようだ。

 

紅海危機が長期化し、小口コンテナ貨物のスピードアップが求められ、中近東ランドブリッジの需要が増えるにつれ、輸送費も下がりうるし、荷主からの照会・注文も増える筈だ。

 

ただし、明らかな欠点は、コンテナ船と比較して陸路で扱えるコンテナの数が極めて限られていることだ。

 

アジアと欧州を結ぶ要衝である中近東での海路に代わるランドブリッジの構想計画は今に始まったことではなく、かなり以前からイスラエル、サウジアラビア、ヨルダン、UAE, バーレイン、またイラン、イラクをも巻き込んで様々なものが存在してきている。残念なことに、国内の政治状況と地政学的な理由によりその実施状況が安定的とは言いがたいのが常だ。

 

今回のハパックロイドによるランドブリッジ・サービスは、「湾岸協力理事会」(Gulf Cooperation Council)注1)で陸海空の輸送協力体制を主導するサウジアラビアからの更なる協力・支援を得れば今後さらに発展することが期待される。

 

注1)1981年に設立された、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートによる地域協力機構。本部事務局はサウジアラビアの首都リヤドに置かれ、正式名称はCooperation Council for the Arab States of the Gulfだが略称のGulf Cooperation Council(GCC)が多く使われる。

 

 

 

(IRuniverse H.Nagai)

世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。

 

 

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