欧州からの風:2024年4月#8 EU電池規則で設置されるバッテリーパスポートとは?②

シリーズで報告しているバッテリーパスポート②では、フォーマット・スペック・スコープについて、そのコンセプトに触れる。
【関連記事】欧州からの風:2024年4月#6 EU電池規則で設置されるバッテリーパスポートとは?①
バッテリーパスポートとは、電池規則の要件に基づき、電池のライフサイクル全体における情報・データが電子化された「記録」である。欧州委員会は、デジタル製品パスポート(以下DPP)について、ユニークID
によりアクセスできる「製品データの構築型収集」と定義している。では構築型収集とはどのようなものか?
バッテリーパスポートが機能するためには、大きく分けて以下の4つの過程が必要となる。
- データ収集:電池のライフサイクル全体のプレーヤーからデータを収集(上流部門に関しては静的データ・下流部門に関しては静的データと動的データ)
- 採鉱業者
- 精錬業者
- 前駆体/活物質メーカー
- セル/モジュールメーカー
- パックメーカー
- 自動車OEM
- エンドユーザー
- リマン・リユース・リパーパス業者
- 回収業者/解体業者
- リサイクラー
- 収集データの交換:電池バリューチェーン上の参加者により必要なデータが交換される
- データ処理:バッテリーパスポート上で収集されたデータを処理する
- バッテリーパスポートと登録機関経由で収集されたデータへアクセス:アクセスについては、一般的な情報とより繊細な情報について分けられており、アクセスできる権利はそれぞれの立場によって異なる
- 一般
- 市場監視機関や欧州委員会などの特定組織
- アクセス権利を持つ自然人・法人
それでは次にバッテリーパスポートの対象となる電池について詳細を見ていく。電池規則では、バッテリーパスポートが必要となるのは、EV用、軽輸送手段用、産業用電池となっている。自動車のSLI電池、産業用に設計されていないポータブル電池、一般消費者用の一次・二次電池は対象外となっている。
- EV用電池:EVおよびハイブリッド車の駆動用電池で自動車カテゴリーL(25kg以上の場合)または自動車カテゴリーM/N/O
- 軽輸送手段用電池:キックボード・電動自転車など二輪車の駆動用電池(自動車カテゴリーL(25kgあるいは25kg以下)
- 産業用電池:産業用に設計されたもの・産業用に使用する目的でリパーパスされた電池、そのほかの電池で5kg以上かつEV用・SLI用・軽輸送手段用電池に属さない電池。
※ここでの産業用電池とは、産業活動に使用されるもの、エネルギー貯蔵用、通信インフラに使用されるもの、発電や送電に使用されるもの、農業活動に使用されるもの、線路・海運・航空・オフロード機器などの輸送手段で駆動用として使用されるものを指す
- 産業用には、サブカテゴリーとして定置型電力貯蔵用電池が設けられている
最後に、バッテリーパスポート対応義務は誰が負うのかについてだが、規則は「電池を市場に出す経済事業者(エコノミックオペレーター)」がバッテリーパスポート義務を負うと記載している。つまり上述カテゴリー含まれる電池を製造する業者およびそれを輸入する業者である。ここでの製造業者とは、自身の名前あるいは登録商標名で電池を設計・製造・販売あるいは自身の目的のために電池をサービスとして運用する自然人・法人。輸入業者とは、EU域内において第三国から輸入された電池を市場へ出す自然人・法人を指す。また、EU域内に拠点のないオンライン販売業者によるEU市場における電池の販売も製造業者・輸入業者とみなされ、バッテリーパスポートの対応が必要となる。
上述の経済事業者が負うバッテリーパスポートへの対応義務については、バッテリーパスポートへのアクセスを可能にするQRコードに紐づけられるユニークIDの作成、バッテリーパスポートに搭載される情報の正確性、完璧性および情報が更新されているかについての確認、パスポートに搭載される情報の保存などがある。なおバッテリーパスポートにおける義務は、以下の2件のケースについては移行する。
- ケース1:電池がリユース・リパーパス・リマニュファクチャリングされる場合は、新製品として市場に出されるものとみなされるため、バッテリーパスポートへの対応義務は新しい製造者・輸入業者へ移行する
- ケース2:電池のステータスが「廃棄物」となった場合は、拡大生産者責任を負う生産者あるいは生産者責任組織(PRO)または廃棄物管理業者がその義務を負う。
次回は、パスポートに搭載されるコンテンツ要件について詳細を報告する。
Battery Passport Content Guidance- Executive Summary
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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