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岸田首相訪米の成果  米→日本へのEscrap輸出促進から重要鉱物対策まで

岸田首相は、4月8日から14日まで日本の首相としては9年ぶりとなった国賓待遇で米国を訪問した。4月10日の日米首脳会談や公式晩餐会に合わせてホワイトハウスから発表されたファクトシート(Fact Sheet)は日米同盟があらゆる分野でより強固なパートナーシップへと深化している事実を再確認し、将来への展望を示している。今回はその中でも二国間の経済協力と重要鉱物サプライチェーンに焦点を当ててみた。

 

 

技術革新が21世紀の日米同盟を牽引する

AI、量子、半導体、クリーンエネルギーといった新たな技術分野でも日米両国は引き続き緊密に協力し、投資を相互に促進し続け、その好例として以下の2事例を紹介している。

 

シリコンバレーにおいて日本のスタートアップ企業を支援するジャパン・イノベーション・キャンパス(Japan Innovation Campus)が発足

日本政府が掲げる「スタートアップ育成5か年計画」の取り組みとして、経済産業省が主催するシリコンバレーのイノベーション拠点で、2023年12月に加州のパロアルトで開設され、企画・運営は森ビルパロアルト株式会社が担当している。会員として現在約50のスタートアップが名を連ねており、2016年に東京大学の100%資本で初の投資事業会社として設立された東大IPCも含まれている。

 

東京にて「グローバル・スタートアップ・キャンパス」を設立予定

このキャンパスはまだ準備段階だが、イノベーションを促進するため日米両国への投資を加速させることを目的としている。日本政府は、「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」において、グローバルな社会課題の解決と国内の経済成長を目指し、ディープテック分野におけるイノベーションとスタートアップのエコシステムの構築に取り組むため、東京都心(渋谷・目黒)にその拠点を開設し、スタートアップ創出の種となる発見や技術の研究開発とこれらの成果を活用した事業化支援を実施するとなっている。米国のマサチューセッツ工科大学との協同で行われる模様のようだ。

 

民間部門投資

日米両国の経済関係をより力強く活気あるものとし、両国間への投資を加速させることを後押しするとなっており、以下の民間部門投資の事例を歓迎するとしている。

マイクロソフト社は、AI、クラウドコンピューティング及びデータセンター、300 万人を超える人材を育成する拡大デジタル・スキリング・プログラム、日本におけるマイクロソフト・リサーチ・ラボの設立、並びに日本のサイバーセキュリティの強じん性の向上を目的とした日本政府とのサイバーセキュリティ協力のために、今後2年間で 29 億ドルを日本に投資すると発表。

グーグル社は日本へのデジタルコネクティビティの拡張に10 億ドルを投資し、2023 年 10 月に発表した太平洋接続構想の拡張および新たな2つの海底ケーブル(ProaとTaihei )を構築することを発表。他のパートナーと協力して構築するこれらのケーブルは、2022 年 10月に発表した日本デジタル未来構想の一環であり、米国大陸と日本の間に新たな光ファイバーケーブルを配設することで、米国大陸と日本、そして複数の太平洋諸国間のデジタル接続の信頼性と可用性を高めるものと期待される。

第一三共は、オハイオ州ニューアルバニーの同社施設に、新しい製造施設、研究所及び倉庫を建設するために、3億 5,000 万ドルを投資する予定。同社は、米国において3年間で 900 人の雇用創出を見込んでいる。

アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)社は、日本における AI その他のデジタルサービスの基幹となる既存のクラウドインフラを拡大するため、2027 年までに、日本に約 150 億ドルを投資すると発表。同社は、この投資計画が日本の GDP に最大 370億ドル貢献し、日本の地元経済において毎年平均 3万人分を超えるフルタイム雇用を支えると見込んでいる。

トヨタ自動車は、電気自動車及びプラグインハイブリッド車のバッテリー生産能力を強化するため、ノースカロライナ州グリーンズボロにて約 80 億ドルを追加投資し、3,000 人超の追加雇用を見込んでいると発表。この工場はトヨタにとって、北米初の自動車用バッテリー工場であり、現在までの投資総額は約139億ドルに上り、5,100 人の雇用を創出することが見込まれる。

ホンダ・エアクラフト・カンパニーは、ノースカロライナ州における新型モデル「ホンダジェット 2600」の生産に、5,570 万ドルを追加投資することを発表。これにより、ノースカロライナ州におけるホンダジェット事業への投資総額は5億7,340 万ドルとなる。

UBE 株式会社は、Justice40 コミュニティであるルイジアナ州ワガマンの電池用電解液溶媒設備プロジェクトに、5億ドルを投資すると発表し、これにより 60 人の新規雇用の創出を見込んでいる。

• 安川電機は、ウィスコンシン州及びオハイオ州にあるロボティクス及び半導体のモーション・ソリューションのための新たな製造施設に、約2億ドルの投資を行い、この投資により約 1,750 人を雇用し、同社の米国における拠点が約 25%拡大予定。

三井 E&S とその米国拠点子会社パセコ社(米国加州)はカナダの投資会社ブルックフィールドとの協力で、カリフォルニア州における港湾クレーンの最終組立を行うことを検討している。米国でこのような港湾クレーンの最終組立てを行うのは、1989 年以来のことであり、米国の港湾インフラの安全確保に貢献することが期待される。これは米国港湾でシェア8割にも達している中国製の港湾クレーン、例えば、上海振華重工(ZPMC)製を国家安全保障上の理由から米国製に置き換えるというバイデン政権の政策によるもの。

富士フイルムは、世界的な細胞治療薬の医薬品製造開発受託機関(CDMO)の能力を強化するため、米国の子会社2社に2億ドルを投資することを発表した。この投資はウィスコンシン州マディソン及びカリフォルニア州サウザンドオークスで予定されており、同社は、この投資により、最大 160 人の新規雇用の創出を予定。

 

 

強じんな重要鉱物サプライチェーンの構築

日米両国は、重要鉱物の主たるサプライチェーンを多角化することをはじめ、「鉱物安全保障パートナーシップ:Minerals Security Partnership」及び「強靱で包摂的なサプライチェーンの強化に向けたパートナーシップ:Partnership for Resilient and Inclusive Supply-chain Enhancement」を通じた共同プロジェクト推進、日本、米国及びインド太平洋地域の志を同じくするパートナーにおける電気・電子機器廃棄物のリサイクルに関する取組を支援することを決意。

 

そのために、米国は、PGII の「ロビト回廊」注1)の開発に対する我々の共通のコミットメントと整合する、日本のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とコンゴ民主共和国(DRC)のジェカミン社(GECAMINES)との間の覚書(MOU)を歓迎。

 

注1)ロビト(Lobito)回廊プロジェクト

アフリカ南部の資源を大西洋に面したアンゴラのロビト港から欧米へ輸出するための鉄道整備計画。このプロジェクトは、中国の一帯一路に対抗する狙いもあり、G7のグローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)の一環として進められている。ロビト回廊は、アンゴラを横断し、コンゴ民主共和国南部とザンビア北部の鉱山地帯を結ぶ計画で、鉱物資源を大西洋を経由して欧米へ運ぶ狙い。このプロジェクトにより、南部アフリカ開発共同体(SADC)は、ザンビアとコンゴ民主共和国の輸出市場に向けた代替戦略ルートを提供し、これら2か国の主要鉱業地帯を大西洋へと結ぶ。

 

(関連記事)→ JOGMEC、ザンビアの日本向け鉱業投資セミナーを開催 鉱山大臣ら講演

 

この計画は、クリティカルミネラルの安定供給を目指す中で、中国と西側諸国の競合が進行中で、特にコバルトは、再エネや蓄電池などのクリーンエネルギー技術に不可欠で、その埋蔵・生産は中国やコンゴ民主共和国など特定の国に偏在している。このプロジェクトは、アンゴラ、コンゴ民主共和国、ザンビアをつなぐロビト大西洋鉄道の修復と、ザンビアへの延伸800キロの新規鉄道建設を含んでおり、約5年後の完成の暁には、クリティカルミネラルの輸送時間を数週間から数日に短縮できるとしている。

 

JOGMECのウェブサイトによると、2023年8月、西村経済産業大臣(当時)の南部アフリカ諸国(ナミビア共和国、アンゴラ共和国、コンゴ民主共和国、ザンビア共和国、マダガスカル共和国)の歴訪に同行し、重要鉱物の確保に向けて、ザンビア共和国においては覚書(MOU)、ナミビア共和国及びコンゴ民主共和国においては実施合意書(SW)に署名した。また、ザンビア共和国においては同国への本邦企業の鉱業分野における投資機会創出を目的として、経済産業省及びザンビア共和国政府との共催にて本邦企業を招待し、ビジネスラウンドテーブルを開催した。

 

米国から日本への電子スクラップ(E-Scrap)輸出の促進

日米両国は、「回収作業が行われる廃棄物の国境を越える移動の規制に関する理事会決定」、所謂経済協力開発機構(OECD)による規制が全体的にバーゼル条約よりも手続が簡素化・迅速化されているなかで環境上適正なリサイクルのため、年間1億 7,000 万ドルの米国から日本への電子スクラップ輸出を引き続き促進し、脱炭素化及び環境への負の影響の削減に不可欠な重要鉱物及び原材料の循環性の増加に関する政策対話の促進を通じて協力を強化する。

 上記を翻訳すれば、バーゼル条約の国内実施法として「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」(バーゼル法)と「廃棄物の処理および清掃に関する法律」(廃棄物処理法)が施行されているが、輸入ニーズが高い廃電子基板等の電子部品スクラップ(金、銀などの金属を含む)の米国から日本へのリサイクル目的での輸入を一層促進することのようだ。

 

最後に

中国が着々とクリティカルミネラルの供給体制を築きあげる中、米国を中心とする西側諸国は危機感をにじませ、2023年5月に広島で開催されたG7では、首脳コミュニケに「重要鉱物の重要性の高まり、および脆弱なサプライチェーンに起因する経済および安全保障上のリスクを管理する必要性を再確認する」という文言が加えられたのは記憶に新しい。今回のホワイトハウス発表のファクトシートも重要鉱物のサプライチェーン構築の必要性が再度確認され強調された所以である。

 

 

 

(IRuniverse H.Nagai)

世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。

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