ビスマス価格が9年ぶり高値 中国査察の影響長引く、原材料供給が構造的ひっ迫
パワー半導体材料や鉛フリーはんだの添加物、医薬品などに使用されるビスマス価格が上昇している。欧州市場での国際価格は6月27日に仲値$6.75/LBと2015年7月以来9年ぶりの高値を付けた。7月に入っても同水準で推移している。生産の多い中国で、6月まで実施の政府の環境査察の影響が長引いている。原材料となる鉱石の供給がひっ迫し、高止まりしている。
過去10年間のビスマス価格の推移(EU spotmarket)($/LB)
世界の供給の5割超を加工する中国での酸化ビスマス価格も追随して上昇し、2015年夏以来の高値圏にある。6月27日の仲値は$14.032/kg。
過去10年間の酸化ビスマス価格の推移(99.9% min China)($/kg)
■供給ー中小生産業者、コスト拡大に対応できず
ビスマスは中国やペルー、メキシコなどを主な生産国とし、鉱石に関しては中国が9割を占める。上海有色網(SMM)の6月13日の報道によると、2024年5月の中国の精製ビスマス生産量は1198トンで、前月比35%減少した。前月割れは2ヵ月連続。中国政府は5月初旬から6月半ばまでの約1か月間に渡り環境査察を実施し、ビスマスを含む多くの金属の採掘業者が操業を停止した。特にビスマスは環境負荷の大きな鉛の副産物として生産されることが多く、査察に伴い多くの鉱山で業者が操業を取り止めたもようだ。このため、6月後半に入っても原材料となる鉱石の供給ひっ迫感が続き、精製価格の押し上げ要因となっている。
さらに、ビスマス鉱石のひっ迫には、構造的な問題もある。中国のビスマス生産業者は総じて小規模で、中国景気の低迷の影響をまともに受けているためだ。
ビスマスは鉛やタングステンなどの副産物として生産される。不動産不況の長期化などを背景に中国景気の低迷が続く中、中小零細規模の企業が多いレアメタルの採掘・抽出業者はコスト拡大で生産が続けられなくなっている。ビスマスの生産業者に関しては、コロナ後の景気回復遅れや不動産不況が顕在化し始めた2021年後半から減産や操業停止が出始め、その後も春節(旧正月)などの連休を機に操業を停止して再開できない企業が多いと伝わる。
関連記事:ビスマス業界の現状、ビスマス価格の動向及び主要生産企業の紹介 | MIRU (iru-miru.com)
■需要ージェネリック医薬やEVバッテリーの材料として注目
需要を巡っては、主に酸化ビスマスが胃腸薬などの医薬品向け、金属ビスマスがはんだなどに用いられる。世界的な製造業景気の低迷を受けてこちらも数年間にわたり盛り上がりに欠ける展開だった。
ただ、インドなどでジェネリック医薬の生産が伸び、酸化ビスマス需要に貢献している。金属ビスマスを巡っても自動車のブレーキ合金への添加剤としてのほか、電気自動車(EV)の車載電池材料として注目が集まり、需要はじわりと拡大している。
日本のビスマス需給
(出所:JOGMEC)
■需給バランス安定に期待も構造的な供給ひっ迫がネック
今後は「環境査察の影響が和らぎ、原料の供給ひっ迫が一服する」(SMM)との見方はあるものの、中小企業のコスト懸念という構造的問題があることから供給面では気は抜けない。需要はやや改善傾向で、当面、高止まりが続きそうだ。
(IR Universe Kure)
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