Americas Weekly 27 ウラン大国カザフスタンの突然の増税発表がマーケットを揺るがす

いつ、どんな玉が飛んでくるのか分からないのがマーケットだが、「こう来るとは思わなかった」と北米の投資家がうなったのが、世界最大のウラン生産国カザフスタンの資源採掘税のアップだ。2025年1月以降、ウラン生産に対する税率が段階的に引き上げられる。カザフスタンでのウランの減産圧力になることから、コモディティ市場ではウラン価格の上昇につながった。
カザフスタン政府によると、増税は2段階の行程で行われる。まず2025年1月から、現在の6%が9%に引き上げられる。2026年からは、ウラン鉱石を化学処理した「イエローケーキ」と呼ばれる八酸化三ウラン(U3O8)の生産量と、ウランの市場価格によって変動する複雑な課税体系が導入される。
イエローケーキの生産量が500トンまでは税率が4%となり、生産量が増えるにしたがって税率がアップする。1000トンまでは6%、2000トンまでは9%、3000トンまでは12%、4000までは15%、4000トンを超えると最大の18%になる。
さらにイエローケーキの市場価格が一定基準を上回ると、追加税率が適用される。イエローケーキが1ポンド70ドルを超えると0.5%の追加税率が加算され、価格が上昇するたびに追加税率が上がる。追加税率の最大は1ポンド110ドルを超えた場合の2.5%だ。
カザフスタン政府は今回の大幅増税について「予算の均衡と公平な富の再分配を目的とした広範な経済改革の一環だ」と説明している。
クアンティロフ経済相はロイター通信の取材に対し「カザフスタンの資源採掘税率は世界的にも最低レベルである。これによって、税率は10~20%までに引き上げられると考えている」と述べた。
カザフスタンの増税は7月10日にロシアのインターファクス通信が最初に報じ、直後のマーケットは揺れた。
増税によりカザフスタンのウラン生産は減少するだろうとの見方から、コモディティ市場ではウラン価格が上昇し、7月15日には1ポンド辺り86ドルを超え、この1カ月での最高値となった。
7月に入って、材料不足などから価格がほとんど動かなかったウラン相場だが、「脱炭素の切り札」といわれほど注目される原子力発電所の燃料として、この先、世界で争奪戦が繰り広げられることが確実となっているウランに「休息の場」はないということを、改めて思い知らされる出来事となった。
株式市場では、ウラン関連株が軒並み上昇した。特にカナダのトロント証券取引所では、カザフスタンの増税が伝わるとカメコやネクスジェン・エナジー、デニソン・マインズなどウラン関連企業の株価が6%以上の大幅な上昇となった。7月10日の株価指数の上位銘柄のすべてがウラン関連会社だった。
オーストラリア・シドニーのオーストラリア証券取引所でもパラディン・エナジーやディープ・イエロー、ボス・エナジーなどのウラン関連企業の株価が6~9%近く上昇した。
今後のウラン需給は、最大生産国カザフスタンを追うカナダやオーストラリアのウラン企業の動向が左右するが、カザフスタンの増税のニュースをきっかけに投資資金が一気にこうした企業に流れた。
一方で、今回の増税で最も影響を受けるとみられるのが世界最大のウラン生産会社であるカザフスタン国営のカザトムプロムだ。増税による財務への影響が危惧され、ロンドン証券取引所で株価が一時5%以上下落した。
カザトムプロムは、カザフスタン政府の発表とほぼ同時に、新しい税率などの説明を盛り込んだプレスリリースを公表し、ウラン採掘を行う合弁会社や子会社に新しい税率が適用されることを明らかにした。ただ、2024年の業績見通しについては、変更がないと強調している。
カザトムプロムの2023年の連結売上高は約31億9000万ドルで、2022年に比べ43%増加した。イエローケーキの年間生産量は約2%減少したものの、世界的な核燃料需要の増加により販売量は約10%拡大している。
世界原子力協会によると、2022年のカザフスタンのウラン生産量は2万1227トン。この年のカザトムプロムの生産量は1万1373トンで、世界生産量の約23%にのぼっている。
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Taro Yanaka
街ネタから国際情勢まで幅広く取材。
専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。
趣味は世界を車で走ること。
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