REIA2024レアアースシンポジウムを聞いて その感想と現実的な提案 小西功 新金属協会顧問

REIA2024レアアースシンポジウム(IRUNIVERSE(MIRU)、JOGMEC共催)が6月19日、20日 東京都内で開催された。
REIA(国際希土類産業協会)は2019年ベルギー ブリュッセルに本部を置き設立され、16の企業、団体が加盟した。日本からは当初、(一社)新金属協会、レアメタル商社のマテリアアル トレーデング カンパニーであった。現在は80余の企業、団体が加盟している。グローバルなマテリアル バリューチェーンの持続可能な開発に貢献し、促進し、前進することを目的としている。
今回のREIA&JOGMEC&MIRUによる国際レアアースシンポジウムには約300人が登録し、欧米を中心に80%以上が海外からの参加であった。欧州からの参加者が多かったのは、2023年3月16日の欧州委員会による欧州重要原材料法案」(the European Critical Raw Materials Act)の公表がある。
欧州域内での掘削、加工、リサイクル能力の強化、調達先の多様化等があり、更に法案付属書では、「戦略的重要原料リスト」に磁石用レアアース(7元素)が指定される。特に永久磁石におけるリサイクルの義務化が含まれており、2030年には磁石製造でのリサイクル材の最低含有量を義務化するとある。
主たる発表は資源開発と精製、磁石用ネオジム・プラセオジム及び重希土分離、希土磁石製造、磁石リサイクル、投資であった。すべての発表が自由圏でのネオジム磁石生産とそれのサプライチェーンに集約され、ネオジム磁石の発明が無ければ世界のレアアース産業はこれほど注目されていなかったのではないかとの印象を持った。
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シンポジウムの背景には中国において、レアアースを戦略資源とする位置付けでサプライチェーンをコントロールしようとする傾向が強くなり、更に希土磁石の製造技術の禁輸発表などもあり、30件に及ぶ発表と4テーマのパネルセッションで活発な質疑応答があった。
基本的な課題は鉱石精製時に発生する放射性物質の処分、溶融塩電解技術、ストリップキャスト合金法による磁石用合金製造技術とその人材である。
発表の傾向として鉱山企業が川下まで、可能であれば磁石の製造までの一貫製造を目標にしており、鉱山企業の発表をまとめてみる。
米国カリフォルニアのMP Materialsは2017年にMolycorpを買収、水処理施設を改善して、Mountain Pass鉱山のバストネサイトの精製を再開、分離を中国に委ねていたが、2023年後半よりNdPr酸化物の製造を開始した。年間6,000トン製造予定。またテキサス州でNdPr金属、NdPr合金の製造を経て、年間1,000トンの磁石製造まで一貫生産の計画を進めている。GMをはじめユーザーとのつながりが必要としている。住友商事が日本向け酸化物の代理店となっている。
因みに筆者がMountain Passを見学した1979年はMolycorpが世界のレアアース界を席巻していた。中国がレアアース界に本格進出の以前のことだった。
カナダの大手磁性材料メーカーNeo Magneqench(Neo Performance Materials)は中国、タイで年間6,000トンのボンドNdPr磁石合金を製造している。最大ユーザーの大同特殊鋼と重希土フリーのEV/HEV用の磁石を共同開発している。
エストニアのシルメット生産施設で希土の分離精製を行う一方、2025年初めには金属製造、焼結磁石製造の新工場を稼働し、年間20,000トンを目指す。親会社Neo Performanceはタイで分離精製を行い、更に米カリフォルニアでも分離精製を計画している。またブラジルのカルディラ社から年間3,000トンの酸化希土購入のオフテイクを締結し、Neo Magnequenchiのエストニアの工場に送る。
米国のウランメーカーEnergy Fuelsはモナザイトを購入し精製、8月には溶媒抽出による総合分離を開始する。メタル化そしてGMと共に磁石製造を開始したいとしている。NdPr炭酸塩を年間6,000トン製造予定。また1,600万ドルを投じて、ブラジルにおいてモナザイト鉱石を30,000トンから50,000トン処理し、2026/27 年NdPrを6,000トン製造する計画を持っている。更に2027/28年には重希土であるジスプロシウム、テルビウムを年間200-300トン製造を計画している。ウランのほか鉱石に放射性物質を含むバナジウム、チタン製造のすべての認可を受けていることは、without Chinaとして重要な鉱石処理拠点と成り得る。
2011年にレアアース業界の雄、フランス企業ローディアを買収したベルギーのSolvayは溶媒抽出分離法でレアアースの全元素分離を行っており、2025-2027年に向け事業の一つに磁石スクラップを原料として数100トンのNd,Prの回収を計画しているが、投資のためには磁石用レアアースの価格が安すぎ、投資を難しくしている。
重希土の確保について真剣に討議されたパネルディスカッションの後で、大同特殊鋼の顧問佐川眞人氏から発表があった。
EV,FCB駆動モータ用新磁石の紹介があった。Dyを使わず、Tb酸化物を厚さ2mmの成形磁石の表面に0.5重量%挟み込み、20枚重ねて、ホットプレス、焼結して1ケの磁石とする積層磁石。成形は微粉をに詰めるNear Net Shape Manufacturing(NNSM)Processで,切削、研磨加工を要しない。エネルギー積は現行最高値47MGOeを上回る世界最高の50MGOeでこれから量産される。
更に、これまで40年間の研究以上の磁石をAIを駆使して見つけてほしいと、新たなNdFeB磁石の奇跡の3条件が示された。誰が3条件を満たすことができるか。これから希土類鉄時代がやってくる。
東京大学加藤泰浩教授からは、南鳥島における深海5000mでの「レアアース泥」揚鉱の発表があった。発見されたのは2011年。海底面下2~3mに、中国鉱山の約20倍の濃度の7,000ppmを超える高濃度のレアアース泥が存在し、Th,Uを含まず重希土が多い。船上から圧縮空気を送り込み、鉱石に空気を混ぜ、浮力によるエアリフト方式にて引き揚げる。試験揚鉱からレアアースを精製分離して酸化物のからLED電灯が試作されている。環境保全に留意し、1日3,500トンの採取を予定している。課題は多いが、揚泥から製錬までの一連の生産プロセスを実証し、わが国国産レアアース資源の産業化、実用化にめどを立てる。
リサイクルについてパネラーから、モータからどのようにして磁石取り出すか、シュレーダーにかけられない。いかに外すかが一番問題。自動車メーカーはがちがちに作っており、ローターに磁石が組み込まれてしまっている。
欧米にはまだ磁石リサイクルの実証モデルがないようだ。日本ではサマリウムコバルト磁石の製造工程粉のリサイクルは50年前に始まり、ネオジム磁石に引き継がれている。累計数1,000トンのリサイクルがされてい る。欧米には日本のようなリサイクルセンターがなく、これから模索するのであれば日本での経験を学べばよいのではないか。
会場では北海道の鈴木商会から2040年EV/HEV/HEV,HDD、ロボット等の磁石需要からリサイクル磁石の推定量が発表され、リサイクル例の紹介があった。タイをリサイクル拠点とするようであるが。
コンサルタント企業やカナダの日本大使館では、レアアース市場は投資には金、銅に比べてマーケットが小さすぎるとみている。一方彼らからカナダのVital Metal ,北米のRare Element Resources、豪州のArafura Resourcesも紹介された。
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筆者はレアアースの老舗(株)三徳に53年勤務、現在は(一社)新金属協会 顧問。日本磁性材料協会 評議員にて、現在もレアアースに関っている。
勤務中は営業職に加え、磁石製造工程発生のスクラップのリサイクル処理を行う関係会社社長。世界初のストリップキャスト製造工場の建設とその工場長を歴任した。一方家電リサイクル工場から出る使用済み磁石の収集及びリサイクルを行い、自動車解体工場でのモータ解体実験、非鉄金属スクラップヤードでの小型風力発電機からの磁石回収実験も行った。HDDからの磁石回収は再生アルミ工場にて回転溶解炉を活用し、コンスタントに磁石用合金原料として回収していた。
今回のREIA2024シンポジウムに参加しての印象として、すべてのプレゼンテーションがwithout Chinaを背景としたレアアース磁石製造に供する鉱物資源、精製、分離、金属精錬、合金製造、更に磁石リサイクルに関するものであった。その感想は以下の通りである。
・それぞれのプレゼンターの相互連携はなかった。
・鉱石処理から磁石製造を目指すプラン、あるいはそれに近いプランの発表はあったが、分離精製後のメタル化、ストリップキャスト合金製造の技術導入のめどが全く立っていないケースがあった。あるいは分離精製後の工程を遠隔の国外で行い、再び自国で磁石生産する場合はハンドリングコストと時間を要するコストアップになるケースもあった。
・一貫生産を目標とすると、各工程の製造ノウハウを習得する必要があり、全ての工程が計計通りに進まなければ最終製品にたどり着けないことになる。
・金属精錬すなわち酸化物溶融塩電解は自由圏では、三徳、エストニアのシルメット、ベトナムの中国系企業、そして供給能力は多くないようだが英国LCMがある。とりわけ三徳の電解技術、ストリップキャスト合金技術は突出している。
・ストリップキャスト合金の製造については、現状ではプロテリアルの製造特許使用許可を必要とする。
・工程スクラップとなるネオジム磁石研磨粉は含水状態で水素ガスを発生するため、一定期間屋外で静置し、ガスの発生の終わるのを待つ。長距離トラック輸送には危険を伴う。振動で水素ガスが発生、乾燥すれば自然発火の危険性がある。
そのようなことから、今回のシンポジウムの発表の中には現実を直視出来ていないように感じられる発表もあった。5年後without Chinaの道筋が見えているだろうか。
日本の磁石生産量は世界の生産量25万トン超からすると1万トン台で非常に少ない。
国内の優れた溶融塩電解技術、ストリップキャスト合金技術は技術担当者、現場作業者が定年退職ほかの要因で少なくなり、技術の継承が危機に瀕しているように思う。
また、消費地生産を基本として、日本のほか、北米大陸、欧州、東南アジアの3拠点の地域内にレアアース精製、金属精錬及び合金製造、磁石製造の専門企業を配置し、リサイクルも域内で行う。一社で原料から磁石までの生産はそれぞれの工程の技術開発、生産管理のノウハウを必要とするので実現は難しい。しかもマスプロ効果を上げられなく、それぞれが顧客を探し、磁石スペック対応をしなければならない。発表では各社年間1,000トンからMax5,000トン程度の計画が多いが、中国では1社で30,000トン以上製造する企業がある。
中国では早晩国内需要に供する原料不足が生じ、輸出余力が無くなることが考えられる。特に重希土原料ではミャンマーからの輸入に頼り、その供給にも環境問題から不安視されている。これからは中国外の資源を中国と取り合うことになる。
しかし、without Chinaと言いながらも、これからも中国との接触は軽視できない。
5年後の世界のレアアース地図はどうなっているだろうか。
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一般社団法人 新金属協会
顧問 小西 功
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