Arata AbeのELV RECYCLE Report vol.87 ロシア向け禁止措置後の中古車輸出(6):ハイブリッド車
Vol5.からの続き。ロシア向けの自動車の輸出禁止措置の対象には、ハイブリッド車や電気自動車も含まれる。これら品目は排気量等に関係なく禁止されていることから、禁止措置以降は輸出実績がゼロとなっている。ロシアはこれら電動車の主要仕向地だった。今回と次回は乗用車に絞り、ハイブリッド車(ガソリンエンジン搭載)、電気自動車の動向を示す。なお、バスや貨物車においてもハイブリッド車はあるが、微少であるため省略し、本稿では乗用車のものを単に「ハイブリッド車」と呼ぶこととする。また、ディーゼルエンジン搭載のハイブリッド車の数量も微少であるため省略し、ガソリンエンジン搭載のハイブリッド車を単に「ハイブリッド車」と呼ぶこととする。
図1は、乗用車のハイブリッド車の中古車輸出台数(全仕向地)を月別に見たものである。これを見ると、ロシア向けの禁止措置があった8月に前月よりも減少しているが、前年と比べると増加している。その後も前年を上回る月が続き、2023年は全ての月で前年を上回っている。2024年もしばらくはこの傾向が続いていたが、2024年5月、6月は前年を下回っている。
対前年比については、2023年5月、6月、7月は161%、156%、176%だったが、8月以降は130%台から140%台であり、若干下がっている。2024年も対前年比はさらに下がっており、直近の5月、6月は前年を下回り、それらの対前年比は91%、83%である。増加の伸びは鈍化しているということだが、いずれにしろ、現時点では全体的にハイブリッド車の中古車輸出台数は拡大している。
図 1 中古車輸出台数の月別推移(ハイブリッド車(乗用車))
出典:財務省貿易統計より作成
注:ガソリンエンジン搭載のもの
2023年のハイブリッド車の中古車輸出台数を仕向地別に見ると、ロシアは、モンゴル、ニュージーランドに次いで3番目の仕向地である。ただし、禁止措置前の2023年1月から7月の合計ではロシアは最大の仕向地であった。2022年の年間合計でも同様である。
図2は、2023年のハイブリッド車の中古車輸出台数の仕向地上位6か国(モンゴル、ニュージーランド、ロシア、アラブ首長国連邦、イギリス、バングラデシュ)において、中古車輸出台数(ハイブリッド車(乗用車))の12か月移動平均の推移を示したものである。これを見ると、2021年の最大の仕向地はモンゴルで、ロシアが首位となったのは2022年7月からになる。2023年9月以降のロシアは輸出実績がゼロであるため、12か月移動平均も急降下している。その分、モンゴルが上昇しているが、モンゴルは禁止措置以前から上昇傾向であり、禁止措置があって輸出が増えたというわけではない。アラブ首長国連邦も似たような状況である。ニュージーランドは上昇傾向にあり、モンゴルと同程度であったが、2023年後半になって横ばいとなり、近年は下降気味でモンゴルとの差が広がっている。
図 2 主要仕向地別中古車輸出台数(ハイブリッド車(乗用車))の12か月移動平均の月別推移
出典:財務省貿易統計より作成
注:主要仕向地は2023年の中古車輸出台数の上位6か国。ガソリンエンジン搭載のもの
図3は、ハイブリッド車の2024年1月から6月の中古車輸出台数について上位20か国・地域の数量を示したものである。これによると、ニュージーランドとイギリスを除いた18か国・地域で前年同期の数量を上回っている。図の範囲で2024年の対前年同期比が最も高いのはパキスタンの338%であり、ミャンマー(276%)、シンガポール(214%)、南アフリカ(189%)、オーストラリア(189%)が続く(カッコ内は対前年同期比)。前回の記事で示した韓国は、この期間の仕向地では22番目になり、図の範囲外になっているが、前年同期比は32275%と際立っている。中国は29番目であり、前年同期比は1438%である。
図 3 ハイブリッド車の主要仕向地別中古車輸出台数
出典:財務省貿易統計
注:主要仕向地は2024年1月から6月の合計の上位20か国・地域。
(次回は電気自動車の動向を紹介する)
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阿部新(Arata Abe)
山口大学 国際総合科学部・教授
2006年一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。
同大学研究補助員を経て、2008年より山口大学教育学部・准教授
2020年より同大学国際総合科学部・教授
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