Arata AbeのELV RECYCLE Report vol.86 ロシア向け禁止措置後の中古車輸出(5):韓国、中国向けの増加
Vol4.からの続き。日本の中古車輸出においてこれまで近隣の韓国や中国は全くと言ってよいほど実績はなかった。しかし、2024年になりこれらの国向けの中古車輸出が目に留まるようになった。これまで見たようにロシア向けの自動車の輸出禁止措置により、2023年8月以降のロシア向けの中古車輸出は一時的に大きく減少した。この動きと関係づけることは難しいが、今回は韓国と中国を取り上げることとする。
まず、図1に韓国向けの中古車輸出台数の推移を示す。これを見ると同国向けは年間数百台で推移してきたが、2024年の輸出実績は7千台超と際立っている。しかも2024年は1月から6月までの半年の実績である。また、2023年も2.7千台であり、それまでの数年の実績と比べると急激に増加している。なお、図では示されないが、月別で見ると2023年は9月から急増しており、同年9月から12月までの4か月の合計は2.5千台(年間合計の92%)である。タイミング的には、ロシア向けの輸出禁止措置と関係がありそうだが、偶然の可能性もある。
また、図1は品目別でも示している。2024年1月から6月の実績で最も多かったのが、1500cc超2000cc以下のガソリンエンジン車であり、電気自動車、ハイブリッド車、2000cc超3000cc以下のガソリンエンジン車が続いている。1900cc以下のガソリンエンジン車を除けば、これら全てはロシア向けの輸出禁止措置の対象である。
一方で韓国でも2024年2月下旬から2000ccを超える自動車の輸出を禁じるようになっている(Yonhap News Agency, The Korea Economic Dailyほか記事より)。そこにハイブリッド車や電気自動車も含んでいるか否かは確認できていないが、日本から輸入したものも韓国の規制に該当することは想定される。さらにはカザフスタンやキルギスへ迂回してロシアに輸出されている事情も報道されている(The Korea Economic Daily記事より)。これらの構造は複雑であり、慎重に整理することが求められる。
なお、税関別で見ると、2024年1月から6月までの韓国向け中古車輸出台数のうち、54%が名古屋からのものであり、それに堺(26%)、木更津(8%)、神戸(7%)、川崎(4%)が続く。ロシア向けの税関別では同期間で伏木(24%)、木更津(22%)、富山(19%)、舞鶴(11%)の順で多く、韓国向けとは異なる。
いずれにしろ、実態はわからない。純粋に韓国で使用される可能性もあるし、ロシア以外の他国に再輸出されている可能性もある。
図 1 日本から韓国向けの中古車輸出台数の推移(バス、乗用車、貨物車)
出典:財務省貿易統計より作成
注:図中の「その他」を除いた4品目は全て乗用車。そのうち「1500cc超2000cc以下」「2000cc超3000cc以下」はガソリンエンジン車。
一方、韓国ほどではないが、中国向けも増加している。図2は2017年以降の中国向けの中古車輸出台数の推移を示す。実は2016年まではさらに輸出実績は多い。2011年は6.4千台であり、2016年も1.7千台である。図を見やすくするために2017年以降のものを表示している。
これを見るとわかるように2024年は半年の輸出実績であるにもかかわらず、それまでとは際立った数量である。その内訳も異なっており、ハイブリッド車のほか、1500cc超2000cc以下が多い。これらは韓国向けと類似している。もちろん、中国国内で使われる可能性もあるし、ロシア以外の他国へ再輸出される可能性もある。
図 2 日本から中国向けの中古車輸出台数の推移(バス、乗用車、貨物車)
出典:財務省貿易統計より作成
注:図中の「その他」を除いた5品目のうち、「5トン以下2000cc以下」は貨物車でガソリンエンジン車。他の4品目は全て乗用車であり、そのうち「1500cc超2000cc以下」「2000cc超3000cc以下」はガソリンエンジン車。
(次回はハイブリッド車の動向を紹介する)
参考文献
- Oh Seok-min (2024), “S. Korea to enforce tougher export ban on Russia, Belarus this week”, Yonhap News Agency, February 20, 2024.
- Sul-Gi Lee (2024a), “S.Korean used cars flow into Russia via Central Asia” The Korea Economic Daily Global Edition, February 16, 2024
- Sul-Gi Lee (2024b), “South Korea tightens export controls to Russia, Belarus” The Korea Economic Daily Global Edition, February 20, 2024
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阿部新(Arata Abe)
山口大学 国際総合科学部・教授
2006年一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。
同大学研究補助員を経て、2008年より山口大学教育学部・准教授
2020年より同大学国際総合科学部・教授
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