IR Universeは9月12日、学士会館(東京都千代田区)で「第10回バッテリーサミット」を開催した。報告の第2回では、TDK株式会社の佐野篤史氏、株式会社ノリタケの吉金隆宏氏の講演を紹介したい。いずれも一見関係のない既存技術がバッテリー生産に結び付いた瞠目する講演だった。

 

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■TDK、カセットテープ技術生かし多様な電池を生産

　佐野氏はTDKのエナジーデバイスビジネスグループに所属する。TDKといえば一定以上の年齢の読者が思い浮かべる製品の１つがカセットテープだ。実は、佐野氏によれば「磁気テープと電池は同じ製造プロセス」という。どちらも混錬・塗布→プレス・スリットという工程をたどるためで、TDKはカセットテープ生産で高精度・高速塗布の技術を培っていたことから、電池事業を展開することができた。

 

TDK佐野氏

 

 

　もう1点、TDLの電池事業を考える上で重要なのは、今や車載電池で世界最大手となった中国の寧徳時代新能源科技(CATL)との関係である。CATLは2011年にアンプレックステクノロジー(ATL)という香港企業の出身の中国人2人が創業した企業が、このATLはそもそも、TDKの上釜健宏元会長の中国赴任時代の日本人部下たちが香港で立ち上げたスタートアップだった。こうした関係から、現在もTDKとCATLは合弁関係にあり、中国では工場の敷地も共有する。

　

　そんなTDKは現在、携帯用品向けの小型電池から、ドローンや蓄電池など向けの中・大型電池までを多彩に手掛ける。佐野氏は小型と中・大型の2つに分け、同社のそれぞれの特長とコア技術を紹介した。

 

 まず小型電池の場合、⑴シリコン負極技術⑵マルチタブ技術⑶積層技術――の3コア技術がある。⑴はシリコン負極によりエネルギー密度を向上させることで、製品の小型化や薄型化が可能になる。⑵のマルチタブ技術では、製品の温度上昇が抑制でき、急高速充電や長時間の製品使用に耐えうるようになる。また⑶の積層技術では、大電流での充放電が可能になり、製品の異形化も実現できる。

　一方、中・大型電池の場合は⑴リン酸鉄正極の超長寿命化⑵ジャンボパワー(タブレス構造)――の2つの特長がある。⑴は正極の寿命を延ばすことにより、エネルギー高電システムの製品寿命もこれまでの15年程度から25年程度まで引き延ばすことができる。また、家庭用畜電池などに⑵のジャンボパワーを使えば、急速充電や高出力を実現できるにもかかわらず温度上昇を抑えられるため、高い安全性を確保できる。佐野氏は「現在は家庭用蓄電池の市場シェアでTDKは業界2位にとどまるが、今後は特長を生かしてシェアを広げていきたい」と話した。

 

演者紹介:第10回BatterySummit 講演者紹介 TDK株式会社 エナジーデバイスビジネスグループ　佐野 篤史氏 | MIRU (iru-miru.com)

 

■ノリタケ、食器の焼き付け技術から電池生産に欠かせぬ焼却炉を

　続いて登壇したのは株式会社ノリタケ　エンジニアリング事業部ヒートテクノ部設計1グループリーダーの吉金氏。ノリタケと言えば皇室御用達で名高い正統派の食器メーカーだ。この食器づくりの技術が電池づくりに生かされるというから驚きだ。

 

ノリタケ吉金氏

 

　食器づくりには画付焼という工程があり、図柄や金箔などを施すにあたり、均一な加熱が欠かせない。ノリタケではこの加熱工程のため、多様な焼却炉を備えており、一部がリチウムイオン電池や太陽電池、燃料電池などの生産工程に用いられる。吉金氏はリチウムイオン電池の正極・負極材に分け、それぞれの生産工程での焼却炉利用について解説した。

 

　まず、正極材の生産工程では、ニッケルなどの原材料を焼成するにあたりロータリーキルンという焼却炉を用いる。その後の乾燥や真空乾燥の工程でも、真空乾燥炉といった専用炉が用いられる。特に、ハイニッケル系の正極材の生産工程では焼成が一次二次と二度にわたるため、ローラーハースキルンという高温の焼却炉も投入される。負極材の生産工程では、やはり原材料である黒鉛(グラファイト)を球状処理した後、混合・焼成(コーティング)の工程がある。

 

　吉金氏は焼却炉設備のトラブルについても動画で紹介した。轟音とともに炉内が破損したり発火したりし、会場からは小さな悲鳴も上がった。焼却炉設備を向上させれば、メンテナンスなどのコストも結果的に抑制できる。吉金氏は「ローラーの選定なども失敗するとトラブルに結び付く」と話し、正極材製造においての焼却炉の重要性をまざまざと感じさせた講演だった。

 

演者紹介: 第10回BatterySummit 講演者紹介 ノリタケ株式会社エンジニアリング 吉金 隆宏氏 | MIRU (iru-miru.com)

 

 

(IR Universe Kure)

 

 

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