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元鉄鋼マンのつぶやき#43 中国語の周期律表

 20年ほど前のことです。上海に東北大学の水渡教授が来られてお会いした時、研究室の皆さんにどんなお土産がいいか? という話題になりました。私は少し考えて「中国語の周期律表などはいかがでしょうか?」と答えました。上海の徐家匯は、近くに復旦大学や上海交通大学があり、理科系の専門書を扱う大型書店が複数あります。そこで周期律表のポスターも求められます。

 

 「どうして周期律表を?」という質問に、私は説明しました。

 

 「元素名を著す中国語の漢字が面白いのです。一文字でその元素の性質を表すようになっているのです。具体的には、漢字のヘンで物質の状態を表し、漢字のツクリで、元素名の発音を表すのです。常温常圧で固体金属の場合はヘンは金偏ですし、非金属の固体なら石偏になります。常温で液体の元素なら「水」が文字に入ります。最もこれは水銀だけで、漢字は汞です。常温で気体の元素については「氣」が文字に組み込まれます」。

 

「だから理科の初学者であっても、周期律表のどの範囲に金属が分布し、どの範囲に非金属や気体が分布するかを即座に理解できるのです」。

 

元素の中国語名称 - Wikipedia

 

 「さらに面白いのは元素を表す漢字のツクリの方で、古代からある金、銀、銅、鉄、錫、鉛などは、そのままですが、西洋の自然科学が紹介した金属には、その発音を当てています。例えばアルミニウムは、金偏に「呂」で「ルゥ」となりますし、マンガンは金偏に「孟」で「マウ」、マグネシウムは金偏に「美」で「メイ」という発音になる訳です」とやや得意になって説明しました。

 

 水渡先生は「理科の初学者」という部分にちょっと引っかかったみたいですが、それはともかく「これは面白い。是非手に入れましょう」と通訳の女性に、買うように伝えていました。しかし、この中国式の元素名には実は問題があります。それは新元素が発見される度に漢字を新に作る必要があるということです。

 

 中国は漢字の国です。ちょっと新聞を読んでも3000種ほどの漢字が登場します。今は誰も読まない毛沢東語録には6000種の漢字が登場するそうです。1000種類に満たない漢字で文が書ける日本語とはだいぶ違います。

 

 中国の少年少女たちにとって、この膨大な漢字を学習することは、それなりに負担であり、その分自然科学の勉強に割く時間を減らすことになります。だから中国政府は漢字の簡略化と、種類の削減を進める訳ですが、一方で新しい漢字を作らざるを得ない場合もあるのです。

 

 そして漢字は基本的に表意文字なので、1元素に1文字の対応となり、前述の通り元素の性質をある程度示すのですが、その分表音文字としての機能は不十分です。例えばネオジウムは金偏に「乃」または金偏に「女」と表記します。しかし、この文字を発音しようとすれはツクリの「乃」から「ニュウ」と読むか、「女」から「ニィ」という発音がイメージできるものの、ネオジウムと発音するのは無理でしょう。カタカナ表記の方が楽です。

 

 そしてレアアース(希土類)やレアメタル(希金属)となると、似た性質の多くの元素が並びますから、その区別も難しくなります。レアアースとされるのは、ランタン系列とアクチニウム系列の2系統であると理解しますが、似たような性質の金属元素が並びます。

 

 中国が日本への嫌がらせとして、ネオジウムとディスプロシウムの輸出をストップしたことがありますが、ネオジウムは前述の通り、金偏に「乃」、ディスプロシウムは金偏に「啇」の鏑と書きます。ちなみに「鏑」は日本では鏑矢の先端部の音が出る部分を意味し、全く別の意味です。

 

 しかし、新聞に「日本に対し、釹と鏑の輸出を停止した」という記事が載っても、多くの人には何のことか分からなかったはずです。もっともカタカナでネオジウムとディスプロシウムと書いたとしても、その意味を正確に理解するのはMIRU.comの読者ぐらいでしょうが・・・。

 

 科学技術もそして政治・経済も進むにつれて、中国の漢字表記の限界点が見えてきます。

 

 そしてもう一つ、元素は年々増えていきます。私が中学で理科を勉強した50年以上前、元素の数は104でした。今は超ウラン元素を発見(正確には製造)したため、114種類くらいあります。ちなみに第二次大戦前は、100種類未満でした、

 

 新発見または新開発した元素には、しばしば発見した国名や研究機関名が付けられます。しかし中国語の漢字では、その国名や研究所名自体でなく、あくまで発音が最も近い字を当てはめます。国の名前は無視したいようです。例えばキュリー夫人が発見し、祖国の名前にちなんで命名したポロニウムは、ポーランド(波蘭土)から、金偏に「波」でもよいのですが、実際には金偏に「ト」で表します。

 

 そして、113番目の超ウラン元素は日本で発見されニホニウムと命名されました。元素記号はNhです。なんだかANAの飛行機の便名みたいです。

 

 中国語の漢字は金偏に「尓」です。「尓」は中国語の二人称で、ニーと発音しますから、ニホニウムの発音に合わせた・・と言えるのですが、日本(リーベン)を全くイメージさせません。何だか日本の名前を消し去りたいという中国人の思いが透けて見えます。

 

 将来、中国で新元素が発見されたら、中国人は金偏に「中華」と書いた文字をつくるでしょう。それに対して外国が金偏に「支那」なんて漢字を作ったら猛抗議が来るでしょう。

 

 それに、大陸中国と台湾で用いる漢字が違う元素も多くあり、気になるところです。「元素名にまで、政治的思惑が入って欲しくないなぁ」・・と思います。

 

 私が勉強した「和漢比較文学」では、諸橋轍次博士が編纂した『大漢和辞典』を多用します。この辞典は収録した漢字が五万種もあり、中国にも無い大辞典で、文字の検索にも一苦労するほどです。でもその大辞典にも、超ウラン元素の元素名を表す漢字は載っていません。

 

 編まれたのが昭和の時代で、初版発行が1960年ですから、当たり前ですが「あの頃は平和だったのだなぁ」と周期律表を見ながら思います。

 

 

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久世寿(Que sais-je)

茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。

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