ICBR2024:「グローバル電池リサイクル市場動向」

9月にスイス・バーゼルで開催された国際電池リサイクル会議(ICBR)のなかで、英エネルギーコンサルティングRho Motionは、グローバル電池リサイクル市場の動向について発表を行なった。ここではその内容を報告する。
電池リサイクル市場といえば、ブラックマスのグローバル市場動向が注目を集めているが、Rho Motionの分析によると、2024年におけるブラックマス市場の動きは、2023年度から横ばいとなっている。ブラックマス生産量の地域別内訳では、中国・欧州・北米・その他となっており、中国がトップだ。ブラックマスの原料は、生産廃棄物由来が最も多く、次でポータブル電池、EV用電池、定置型エネルギー貯蔵システム用が続く。
EV用の使用済電池が大幅に上昇するのは2030年以降との予測が一般的だが、Rho Motionによると、地域によって多少の差がある。EVが普及している中国を含むアジア地域では、2026年から2027年にはすでに上昇し始め、北米や欧州では2030年から2031年以降となっている。
一方でリサイクル処理能力だが、前処理能力では中国が欧州や北米を大きく離しており(全体の7割強)、2030年にはこの格差はより大きくなると見られている。すでに電池リサイクルインフラが整っている中国との比較では、欧州や北米では、まだ計画段階のリサイクル施設も多く、中には計画に遅れがでているものや中止となるケースもあり、能力拡大へのスピードは減速しているようだ。
EUの電池推進計画のもと電池セル生産能力は急速に上昇する一方で、欧州における精製能力が中国や韓国との比較では圧倒的に低く、今後もフィードストック量に対する処理能力の不足が続くと見られている。こうした現状をビジネス機会と見て現在欧州のリサイクル市場に参入するアジア企業が急増しており、欧州リサイクラーはアジア勢との競争にも直面している。
欧州域内では、現在電池リサイクルにおける処理能力を大幅に上昇させ、業界を牽引しているのはノルウェーとドイツだ。そのなかで特徴的なのは、ドイツでは多数の中小業者が主流で、ノルウェーではごく少数の大企業が市場を占有していることだ。
ブラックマスとその精製能力では、中国や韓国では能力過剰なのに対し、欧州・北米では能力過小となっている。
現状では、ブラックマスの多くが欧州・北米からアジアへ輸出されており、EUではリサイクル材料のおおきな損失と見られている。そのため、リサイクル材料の流出を防ぐことを目的として、現在「欧州廃棄物リスト」の改正作業が行われている。そのなかで、リチウムイオン電池とブラックマスを有害廃棄物に分類することが検討されており、方向性としては廃棄物に分類される確率が非常に高い。一方で、ブラックマスを有害廃棄物に分類することで輸出を制限し材料を域内に確保しても、その処理能力が供給に追いつかなければ在庫余剰となってしまうため、精製能力の拡大は現在のEUの大きな課題の一つとなっている。
リサイクル法では、現在広く適用されているのは湿式処理だ。一方で、先進技術として注目を集めるダイレクトリサイクル技術も日々進歩しており、同技術の開発に取り組むスタートアップも増えている。
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SCHANZ, Yukari
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