Arata AbeのELV RECYCLE Report vol.91 2024年の中古車輸出(3):韓国経由はあり得るか
貿易において自国産業の保護などからしばしば規制や関税が設定される。そのような中、往々にして制度の網をくぐる行為が起こりうる。中古車においても同様で、世界各地で規制や関税が設定されており、迂回輸出などの様々な実態は観察された。以前の記事でも示したように(→vol.86)、ロシア向けの輸出規制の強化のタイミングで韓国や中国向けの中古車輸出が増加した。全体からするとわずかな数量であり、ロシア向けの数量を補うほどのものでもないが、興味深い動きである。
以前の記事では、2024年の1月から6月までの韓国向け、中国向けの中古車輸出台数を示した。その時点で韓国向けは7,265台(確報値)であり、2023年の年間台数の2,731台を既に上回っていた。中国向けも同様で、1月から6月までの半年間で1,057台(確報値)であり、前年の年間台数の193台を上回っていた。このような流れの中、2024年の年間台数は、韓国向けが14,676台、中国向けが1,751台となった(ともに確報値)。韓国向けは2001年から2024年までの24年間の合計が3万台程度であり、その半分程度が2024年の1年間の実績となっている。
図1は直近3年の韓国向けの中古車輸出台数について主要品目別に見たものである。以前の記事でも言及したように、ロシア向けの禁止措置がなされた品目を中心に急増している。ただし、急増とはいえ、各品目で数千台レベルである。ハイブリッド車(HEV)は、ロシア向けが4万台程度の減少だったが、韓国向けは図の通り2千台程度の増加であり、ロシア向けを補うものではない。電気自動車(BEV)は、ロシア向けの7千台強の減少に対し、韓国向けは3千台程度の増加である。なお、韓国向けの1500cc超2000cc以下のガソリンエンジン車も増加しているが、そのうち1900cc超が多いのであればロシア向けの禁輸措置の影響の可能性が出てくる。
図 1 韓国向け中古車輸出台数(品目別)
出典:財務省貿易統計より集計
注:乗用車のうち排気量で表示された品目はガソリンエンジン車である。「HEV」はハイブリッド車、「PHEV」はプラグインハイブリッド車、「BEV」は電気自動車である。
一方、輸入側の韓国の貿易統計ではどのようにカウントされているだろうか。図2は、上記を踏まえ、韓国貿易統計で、1500cc超2000cc以下および2000cc超のガソリンエンジン車、ハイブリッド車、電気自動車の中古車(いずれも乗用車)の日本からの輸入台数を示したものである。これを見ると、図1で見たように2024年になって急増した様子はない。つまり、輸出側、輸入側で数量に乖離がある。2024年の1500cc超2000cc以下の貿易量は日本側の統計(確報値)では3915台であるのに対して韓国側の統計ではわずか24台である。電気自動車(BEV)は日本側の統計では3226台だが、韓国側の統計ではゼロである。
韓国の統計の集計の仕組みを捉える必要があるが、他国の事例を見ると手荷物扱いや少額などで統計にカウントされないことはありうる。また、再輸出目的の場合に輸入にカウントされないことも想定される。いずれにしろ、日本からの中古車貿易量の増加が輸入側では見えてこない。
図 2 韓国の日本からの中古乗用車輸入台数(主要品目別)
出典:K-statisticsより集計
注:排気量で表示された品目はガソリンエンジン車である。「HEV」はハイブリッド車、「BEV」は電気自動車である。
韓国からロシアへの中古車輸出台数はどうなっているかである。本連載の以前の記事(vol.86)では、韓国は2024年2月下旬から2000cc超の自動車の輸出を禁止していると言及したが、その後調べた結果、具体的な日付は2024年2月24日のようである(韓国貿易協会による(한국무역협회, 2024))。
図3は韓国のロシア向け中古車輸出台数を主要品目別に示したものである。これを見ると、禁輸措置の影響がわかりやすく表れている。具体的には、2000cc以下の中古車が増加し、2000cc超の中古車が減少している。2000cc超は2023年に4千台程度だったものが、2024年は7百台程度となっている。これは日本のロシア向け輸出と同じ構造である。
韓国でハイブリッド車(HEV)、電気自動車(BEV)の禁輸措置があったかどうかは公式には確認できていないが、一部でそれを言及するものはある(마당 사람, 2024)。日本では禁止措置前にロシアに5万台程度のハイブリッド車の中古車が輸出されていたが、韓国ではもともとロシアにハイブリッド車の中古車はほとんど輸出されていなかった。この点は日本の事情とは異なる。韓国のロシアへのハイブリッド車の中古車輸出台数は2021年、2022年が158台、137台であり、2024年が54台である。電気自動車も同様であり、2021年、2022年の61台、105台に対して2024年は47台である。
関心は日本から韓国へ輸出された中古車がロシアに再輸出されたかどうかだが、上記の通り韓国の統計では日本からの輸入台数が過少となっており、またロシア向けの輸出台数には再輸出の様子がデータに表れていない。これらからいくつかの可能性が考えられる。まず、(1)日本から手荷物など何らかの理由で統計にカウントされないまま輸入され、韓国で使用されるというケースである。つまり、韓国向けの急増にロシアは関係がないというものである。次に、(2)実際はロシアに再輸出されているものの、再輸出目的で輸入されるものは輸入も(再)輸出も統計にカウントされないため、データに表れていないというケースである。さらに、(3)ロシアではない別の国に再輸出され、(2)と同様に統計にカウントされないケースである。これら以外でも選択肢はあるかもしれないが、統計では実態はつかめず、聞き取りなどの実態調査と照らし合わせて議論していく必要がある。
図 3 韓国のロシア向け中古乗用車輸出台数(主要品目別)
出典:K-statisticsより集計
注:排気量で表示された品目はガソリンエンジン車である。「HEV」はハイブリッド車、「BEV」は電気自動車である。
参考文献
- 마당사람, “2024.1월 중고차 수출통계 및 시장 동향(대 러시아 중고차수출 규제 시행)”, 2024. 2. 26, https://blog.naver.com/hdshin7/223364984070, accessed on 2025-02-23
- 한국무역협회, “배기량 2천㏄초과 자동차, 러시아·벨라루스 수출 금지된다”, 2024.02.20, https://www.kita.net/board/totalTradeNews/totalTradeNewsDetail.do?no=81990&siteId=1&utm_source=chatgpt.com, accessed on 2025-02-23
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阿部新(Arata Abe)
山口大学 国際総合科学部・教授
2006年一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。
同大学研究補助員を経て、2008年より山口大学教育学部・准教授
2020年より同大学国際総合科学部・教授
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