レゾナックと東北大 廃棄シリコンとCO2からSiCパワー半導体材料を作る技術を共同研究
レゾナックと東北大学は、7月8日、シリコンスラッジとCO2からSiCを作る技術をSiCパワー半導体材料の結晶成長に応用するための本格検討を開始したと発表した。同技術は「鉱物化」という、CO2を固体と反応させるカーボンリサイクル技術により、シリコンスラッジとCO2を再資源化し、有価なSiC原料を創出する技術へ応用するもの。同技術が実用化すれば、SiCパワー半導体は製品として省エネルギー化に貢献するだけでなく、製造工程においてもCO2排出量削減、シリコンスラッジおよびCO2の再資源化が同時に実現し、ライフサイクル全体で環境負荷を低減することが可能になる。
【概要】
株式会社レゾナック(代表取締役社長 CEO:髙橋秀仁)と国立大学法人東北大学大学院工学研究科(研究科長:伊藤彰則)は、シリコンウェハーの製造過程で発生する廃棄物(シリコンスラッジ)と二酸化炭素(CO2)を原料とした炭化ケイ素(SiC)粉末を、パワー半導体に用いるSiC単結晶材料の成長用原料として応用するための基礎検討を2024年より行ってきた。同技術が実用化すれば、SiCパワー半導体は、製品として省エネルギー化に貢献するだけでなく、製造工程においても、CO2排出削減、シリコンスラッジおよびCO2の再資源化が実現し、ライフサイクル全体で環境負荷を低減することが可能になる。レゾナックと東北大学は、基礎検討段階が完了したため、今回応用に向けた本格検討を開始した。
【詳細説明】
研究の背景
昨今、自然災害など気候変動が与える影響は益々深刻化している。このような状況を受け、各国が温室効果ガス排出規制を強化するなど、CO2の削除や有効活用は世界的な課題となっている。特に、製造業においては生産過程でのCO2排出削減が急務である一方、廃棄物の再資源化も強く求められている。なかでも、半導体や太陽光発電パネルに不可欠なシリコンウェハーは、切り出しの際に生じるシリコンスラッジが産業廃棄物として大量に廃棄され、その再資源化が求められている。こうした課題に対し、東北大学はCO2をシリコンスラッジと反応させてSiCを合成する研究を進めている。同技術は、CO2を固体と反応させる「鉱物化」によるカーボンリサイクル技術を応用することで、シリコンスラッジとCO2を再資源化し、有価なSiC原料を創出するもので、従来の高エネルギー消費型プロセスに替わる低環境負荷技術として期待されている。
今回の取り組み
レゾナックは、SiC単結晶基板上にエピタキシャル層を成長させたSiCエピタキシャルウェハー(SiCエピウェハー)を製造している。SiCエピウェハーは、電動車(xEV)や産業機器などに用いられるパワー半導体デバイスの重要な材料。SiCエピウェハーは、従来のシリコン(Si)ウェハーと比較して、電力変換時の電力損失や熱の発生が少なく、省エネルギー化に寄与する。しかし、SiCの合成には、高温・高電力を要し、製造工程における環境負荷の低減が課題となっている。
この課題を解決するため、レゾナックと東北大学はシリコンスラッジとCO2を原料としたSiC粉末を、パワー半導体に用いるSiC単結晶の成長用原料として応用するための基礎研究を2024年に開始した。同研究において、東北大学は、カーボンリサイクル実証研究拠点にてシリコンスラッジ とCO2をマイクロ波で加熱することによりSiC粉末を合成し、レゾナックはそのSiC粉末をSiC単結晶基板へと応用展開。今回、同研究によって得られた結晶の特性把握など基礎検討が完了した。引き続き、応用に向けた本格検討を進める。
同技術が実用化すれば、SiC粉末100トンあたりのCO2削減効果が110トン相当に達することが見積もられており、省エネルギー化およびCO2削減を可能とするSiCパワーデバイスの一層の普及推進に大きく寄与することが期待される。
今後の展開
東北大学の持つ「鉱物化」技術により作成されたSiC粉末を、レゾナックの“ベスト・イン・クラス”SiCエピウェハーへ応用することで、パワー半導体のライフサイクルを通した環境負荷低減を実現する。
シリコンスラッジとCO2の再資源化イメージ図
【両者からのコメント】
レゾナック デバイスソリューション事業部 SiC統括部 技術開発部 テーマリーダー 保坂 祥輝
レゾナックは、SiC単結晶基板にエピタキシャル層を成長させた「SiCエピウェハー」の生産において、世界最高水準の品質を実現(*1)するとともに、近年では、8インチの大口径SiCエピウェハーの技術開発にも成功しています(*2)。CO2とシリコンスラッジからSiCウェハーを造ることを可能にするこの技術は、サプライチェーンと環境負荷低減の両面から大きなインパクトがあります。SiCエピウェハー専業メーカーとして長年培ってきた技術や知見を、この共同研究に生かすことで、レゾナックのパーパスである「化学の力で社会を変える」ことに一歩近づくことができると確信しています。
東北大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 助教 福島 潤
世界的な温暖化対策と廃棄物削減が急務となる中、本学研究グループでは、CO2とシリコン系産業廃棄物を資源化する革新的プロセスを開発しています。安定気体のCO2を低エネルギーで高純度SiCに変換できる点が最大の特長で、廃棄物問題と温室効果ガス削減を一挙に解決すると期待されます。将来的には電気自動車や再生可能エネルギー領域など、幅広い分野での活用をめざし、実証を積み重ねることで産業競争力の強化につなげ、2050年カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの実現へ向けた具体策を提示してまいります。
(IR universe rr)
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