旭化成 バイオガス精製システムの技術ライセンスパートナー探索を開始
実ガス環境下実証の初期評価で、バイオメタンの高純度(97%以上)・高回収率(99.5%以上)の両立に成功
旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社⻑:工藤 幸四郎)は、8月5日、岡山県倉敷市の児島下水処理場で、2025年2月より実施している バイオガス精製システムの実証試験において、実ガス環境下での初期評価の結果、メタンの高純度・高回収率の両立に成功したと発表した。この成果を受け、同社は本技術のグローバル展開に向けたライセンスパートナーの探索を開始する。
1. バイオメタン活用の社会的意義
地球温暖化対策やエネルギー安全保障の観点から、再生可能エネルギーの導入が世界的に加速している。中でも、バイオガス由来のバイオメ タンは、既存の天然ガスインフラを活用できる持続可能なエネルギー源として注目されている。特に、バイオメタンの導入が進む欧州では、パイプラインへの注入やバイオCNG※1化の需要が拡大している。また、インドでは急速な都市化に伴う廃棄物処理・エネルギー供給課題への対応として、バイオガスの利活用が国家政策の一環として推進されている。
2. 触媒技術を用いたバイオガス精製システムについて
同社はこれまで、化学品製造を支える触媒開発やガス分離技術において⻑年の知見を培ってきた。とくに触媒分野では、構造制御や吸着特 性に関する独自技術を確立しており、この知見を活かして、CO2を選択的に吸着するゼオライトの開発に成功。この技術基盤をもとに、PVSA※2プロセスとゼオライトの組み合わせにより、バイオガスからCO2を効率的に除去して、バイオメタンを高純度かつ高回収率で精製する同システムを開発した。
3. 実証試験の概要について
同社は、同システムの性能および運転安定性を実ガス環境下で検証するため、2025 年2月より、岡山県倉敷市の児島下水処理場にて、下水汚泥から発生するバイオガスの一部を用いた実証試験を実施している。バイオメタンの精製においては、高い純度と高い回収率の両立が技術的 な課題とされており、一般的にこれらはトレードオフの関係にある。同実証では、これら指標の両立性を、実ガス環境下で継続的に検証していく。
4. 実証試験評価について
同実証の初期評価として、約1か月の連続運転を実施し、その中で精製されたバイオメタンの純度が、天然ガスのパイプライン注入やCNGなどの 燃料に十分利用できる水準である97%以上だった。さらに回収率も99.5%以上の高回収率を確認し、バイオメタン精製の課題である高純度かつ高回収率という性能を同時に成立させることに成功した。
5. 今後の展開
同システムは、同社の無形資産を活用した共創型新規事業創出の取り組み「TBC」※5の一つに位置付けられており、技術ライセンスを視野に各パートナーとの共創を推進していく。今後は、欧州やインドをはじめとする地域ニーズに応じた早期の社会実装につなげていく。 その実現に向け、まずは倉敷市での実証において、より⻑時間の連続運転における性能検証とデータ蓄積を継続。加えて、新たなパートナー企業や自治体との提携による商用スケールでの実証へと進め、2027年の上市を目指す。
※1 CNG:圧縮天然ガスの略称。メタンを主成分とする天然ガスを高圧で圧縮した燃料で、自動車やバスなどの車両用燃料として利用され、ガソリンやディーゼル に比べてCO2排出量が少なく環境負荷が低い。
※2 PVSA(Pressure Vacuum Swing Adsorption):圧力と真空を交互に利用することで、特定のガスを吸着・脱離させて分離する技術。
(IR universe rr)
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