以前の記事で示したように、日本政府は2023年8月にロシア向けの中古車輸出規制を強化した(→vol.82)。その規制対象は排気量の大きいものや電動車に限定されるものであった。そのため、より排気量の小さい中古車へのシフトは容易に想定され、実際にその状況は観察された。その後、どうなったかである。
前回の記事で示されたように、2024年のロシア向けの中古車輸出台数は2023年の21.8万台からやや減少し、19.9万台となった。輸出規制が強化されたにもかかわらず、対前年比は91%にとどまり、大きな市場縮小には至らなかった。
ただし、その中身が変わっている。図1は品目別に見たロシア向けの中古車輸出台数である。これを見ると、2024年は排気量の大きいものや電動車などの実績がゼロになる一方で、排気量の小さい車の数量が増大している。とりわけ1000cc超1500cc以下の乗用車(ガソリンエンジン)の輸出が飛躍的に増加し、この品目の全体におけるシェアは58%にもなっている。
図 1 ロシア向け中古車輸出台数(品目別)
出典:財務省貿易統計より集計
注:乗用車のうち排気量で表示された品目はガソリンエンジン車である。「HEV」はハイブリッド車、「PHEV」はプラグインハイブリッド車、「BEV」は電気自動車である。
図2は、品目別に見たロシア向けの中古車輸出台数の推移を示している。これを見ても、排気量の小さい自動車が増大している様子は見て取れる。ただし、1000cc超1500cc以下の乗用車はかねてから多く、2024年(11.5万台)は2007年(15.9万台)、2008年(18.7万台)よりも少ない。一方で、1000cc以下の乗用車は2024年が過去最多となっている。
全体的には2007年、2008年のインパクトがやはり大きい。2024年は輸出規制の強化の影響を感じさせず、近年の中でも多い水準と言えるが、2007年、2008年と比べると市場規模は半分にも満たない。ロシア向けが圧倒的に占めていた時代と比べると、仕向地は多様化していると見るべきである。
図 2 ロシア向け中古車輸出台数の推移(品目別)
出典:財務省貿易統計より集計
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阿部新(Arata Abe)
山口大学 国際総合科学部・教授
2006年一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。
同大学研究補助員を経て、2008年より山口大学教育学部・准教授
2020年より同大学国際総合科学部・教授