Loading...

日本機械工具工業会(JTA)の記念式典に出席して その1

2025/06/04 14:27

 

 本式典での松村教授による記念講演についてのレポートは別信で報告します。

 そこで全体の会の概要について、下記します。

 

 会創立10周年記念の会で松本前会長から佐橋新会長(住友電工常務)に交代したことが報告され、佐橋会長の就任スピーチが冒頭におこなわれました。佐橋会長は明朗闊達な人物で、スピーチもユーモアに富んでいました。

 報告では、会員各社の生産額の推移について、2024年は4720億円で、対前年で+1.7%、2025年の見通しでは4840億円、+2.5%で好調とも言えるが、売り上げ増大は値上げによるもので、販売数量が増えていないこと、会発足後の最盛期に比べると約1割減で、決して満足できるものではないことが説明されました。

 

 佐橋新会長がスピーチで強調したのは、下記の点です。

1.人材の高齢化、減少、枯渇の問題

  機械加工に従事するベテラン作業者、大学で切削加工を研究する研究者の減少は危機的です。

2.国際化(海外への販売展開の強化)

  国内需要の増大が見込めない中で、輸出に活路を見出す。日本製工具の海外へのPRを進める必要があります。

3.デジタル化の推進

  これは工具というより工作機械側の問題ですが、自動的に最適の切削条件を見出して、切削条件を修正するAI技術が確立しています。

  また、DX技術により、複数の機械を一人のオペレーターが遠隔地からモニターして操作することが可能になっています。従来の自動運転は、最小限の情報しかオペレーターに供給しませんでしたが、現在の工作機械はオペレーターが工作機械の操作盤にいるのと同じ量の情報を提供します。

4.リサイクル、循環型社会への対応

  工作機械の工具は、従来からリサイクル、リユースのシステムが確立していましたが、さらなるリサイクルが求められています。しかし、それには課題もあります。

 

 佐橋会長のスピーチには、筆者には、当初理解できなかった部分もあります。例えば、産業界全体で言われるデジタル化DX化と機械工具産業でのデジタル化は何が違うのか?或いはリサイクルを進めるうえでの問題とは何か? ですが、これはその後の松村教授の招待講演、及び、パーティー参加者の発言で明らかになってきました。

 

 私事で恐縮ですが、筆者が新潟県の機械加工の工場に勤務していた時です。毎日、大量のチップやバイトが廃棄されます。ハイスなどの金属系とサーメットが分離され、それぞれ一斗缶1杯分貯まると、業者に売却します。その売り上げは事務所の裏金(といっても不正に使う訳ではなく諸費用に充てていました)になっていました。 廃棄物ですが、馬鹿にならない金額でした。

 

 今、サーメットも含めて工具類のリサイクル率は非常に高いのですが、国内生産分だけでは足りません。最大の生産国である中国から輸入することになりますが、中国からの廃棄チップは素性が知れません。怪しげなものを使う訳にはいきませんから、中国産の廃棄チップの混合割合は3割以下に留める必要があります。今後、廃棄チップを引き受ける場合は、個々にその成分を確認し、それぞれに分別する技術が必要になります。それをどう確立するか・・、これは工具業界の課題なのか、リサイクル業界全体の課題なのか、議論の余地があると思います。

 

 デジタル化の話も、単なる省力化の話ではありません。切削品質の安定性、高品質化の条件です。これまで日本の工作機械の精度は、位置決め精度、表面粗さ、平坦度など、どれをとっても世界一でした。更に、職人気質の熟練工が作業するのですから、その製品は世界最高の品質を保証できました。

 

 その状況が脅かされています。デジタル化では中国の工作機械を侮れません。いやむしろ中国の後塵を拝していると言うべきかも知れません。熟練工が減っていき、日本の機械加工業界は他国との差別化が困難になりつつあるのです。前述の通り、機械加工開始後に、モニターした情報をフィードバックして、最適の切削条件に逐次修正していく制御技術は、これまで熟練工しかできなかった作業を可能にします。そしてこの分野で中国は進んでいるのです。

 

 これは「今、ここにある危機」です。但し、その責任を機械工具業界に求めるのは適切でなく、工作機械業界に求めるべきでしょう。

 

 そしてもう一つの課題は、国際化、つまり海外へのPRです。これまでもJTA(機械工具工業会)は、米国のIMTSやインドのIMTEX、ドイツのEMOに参加していますが、共同出展の参加企業はあまり多くなく、それほど盛況とは言えません。

 

 佐橋新会長は、国際委員会の委員長に同じ住友電工の田中滋彦氏をあて、国際化の活動の強化を考えているようです。その場合、海外の展示会に参加するだけでなく、日本で開催する展示会に海外から多くの客を招くことや、海外から使用済みのチップを回収するルートを確立すること、海外の工作機械メーカーと協力するなど、多くの作戦が考えられます。筆者は、日本で開催する国際展示会を成功させるためにはコンサルタントなどの協力が必要だということです。IRuniverse社などが活躍する余地がそこにあるのではないか?と考えた次第です。

 

 

(IRuniverse Akai)

 

 

関連記事

新着記事

ランキング