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日々進化するクラウド型の鉄スクラップAI検収―EVERSTEEL・田島代表に聞く

2025/08/28 10:29
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日々進化するクラウド型の鉄スクラップAI検収―EVERSTEEL・田島代表に聞く

 鉄スクラップAI検収システムはもはや電炉メーカーのスタンダードツールとなりつつあり、国内の主力企業は何かしらのサービスを既に導入している状況だ。東大発のベンチャー企業であるEVERSTEEL(東京都文京区)が解発・提供する「鉄ナビ検収AI」もその代表格の一つ。実験検証中を含む国内12拠点にて、等級判定や異物検出の効率化に貢献している。同社の田島圭二郎代表に事業の現況や今後の展開を尋ねた。

 

 

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――「鉄ナビ検収AI」の強みは

 

 まずは検収の精度。特に危険物の検知精度は圧倒的に当社のサービスが優位ではないかと思う。当社独自に開発した画像解析アルゴリズムを利用しており、素材にもよるが解析制度は70~90%ほど。トラックの荷台に向けられたカメラで撮影した情報を元に、異物検知だけではなく、鉄スクラップの等級判定も行う。特にHSやH1~3が入り混じったトラックの荷台は同システムが大いに活躍できるシーン。判定結果はクレーン操縦者の手元のモニターにてリアルタイムで把握可能で、現場からも高い評価を得ている。

 

 なお、大きさや形状、厚み、光沢などの判定基準は各工場によっても異なるため、トラック数千台分の積載物のデータを取り込んでから実運用に移行する形となる。

 

 単なる画像解析の技術力だけでなく、開発者自らが現場に赴き現場の検収員の検収方法を学ぶことで、実務で使える高性能なAI開発に成功した。特に銅を多く含むモーター類の検知・識別が得意分野で精度は80%以上を維持している。発火の恐れがある危険物などを見逃した際のリスクは大きいため、素材の一部だけしか見えていない状態でも検知する仕様としている。少しでも疑いのあるものは現場の作業者に目視確認してもらうことを想定している。

 

 あえて、「鉄ナビ検収AI」で対応できない点を挙げると、目視でも鉄かどうか判断のつかない、アルミやステンレスの板などは同システムでも検知は難しい。その部分はX検査などの他のサービスを複合的に組み合わせて、全体の検収精度を上げていく必要がある。ただ、逆を言えば、目視で判断できるものはAIでカバーすることができる。

 

 また、クラウド型のシステムであることも大きな特徴。他社の鉄スクラップAI検収システムは外部ネットワークに接続されておらず、その施設内のみで情報共有を行う「スタンドアローン」形式であることが多いが、「鉄ナビ検収AI」はセキュリティを担保したうえでのクラウド型であるため、他の拠点や本社などの遠隔地でも情報共有が可能となる。また、日々の業務で収集されたデータは当社にフィードバックされるため、現場で使っていただければ、使っていただくほど、検収の精度が上昇することになる。

 

 

 

 

――6月には新たに鉄スクラップの納入データ分析機能「鉄ナビAnalytics」の提供開始を発表した。

 

 鉄ナビAnalyticsは、検収を通して蓄積されるデータを可視化・分析し、納入管理・購買適正化を支援するサービス。まだベータ版であり、今後現場にて使用してもらい、フィードバックされたデータをもとにさらに改善を重ねていく。

 

 同機能は、仕入先別・品種別など多軸で購買実績を切り出し可視化することで、購買戦略の立案とコスト改善をサポートするもの。ダスト率・返品率分析や検収業務分析のほか、「鉄ナビ検収AI」で提供している鉄スクラップのAI解析の結果とも連動させることで、より詳細な分析が可能となる。

 

 なお、「鉄ナビ検収AI」は先に述べた通りネットワーク型のシステムであるため、「鉄ナビAnalytics」だけでなく、顧客の業務を効率化する追加機能を順次実装している。例えば、「不適合品返品レポート作成機能」。「鉄ナビ検収AI」で使用しているタブレットで不適合品や危険物を撮影・アップロード、帳票作成やメール送付をワンステップで実現する。

 

 従来は天井クレーンの操縦者がわざわざ地上に降りて、対象物を確認し、デジタルカメラで撮影、印刷するなどの作業が発生しており、1回あたり15~20分間の時間を要していたと聞いているが、追加機能を使えば、そのロスを大幅に削減できる。こういった機能が随時追加されていくのも当社のサービスの一つ。スタンドアローンのサービスは売り切り型となるため、追加機能は単発的な有償での改造開発となりがちであるため、鉄スクラップAI検収システムの導入時はその点もぜひ考慮いただきたい。

 

 

産業廃棄物分野に進出へ

 

 

――「鉄ナビ検収AI」は既に国内の複数拠点で実利用されているが今後の展開は

 もちろん、「鉄ナビ検収AI」のユーザー企業を増やしていきたい気持ちはあるが、当社は元々、鉄鋼に関するクローズドループリサイクルシステムを創り上げることを目的として立ち上げた会社。そのため、今後は産業廃棄物や中間処理の領域にもプロダクトを普及させていきたいと考えている。

 

 

 

 

 産業廃棄物事業者の業務は未だにアナログな部分が多いと感じており、当社では発生~最終処理までのサプライチェーン全体を包括し、産廃事業者の経営支援サービスを展開していく計画を立てている。日々の業務のデジタル化・自動化はもちろんのこと、最終的には経営戦略に直結する技術支援にも着手していく方針。当社は画像認識AI技術に加えITシステム全般に強みを持つ。IT・AI技術でお役に立てることがあれば、できることはすべてやりたい。

 

 将来的には、鉄スクラップにおいても検収支援だけでなく鉄スクラップから鋼を生産する製鋼工程でもシステムを開発していく考えだ。2026年度には「鉄ナビ検収AI」以外の事業の売り上げの創出を行っていく。

 

 

――最後に

 

 稀に誤解されるのが、「鉄ナビ検収AIの開発は中国企業に外注している」ということ。これは、根も葉もないデタラメではあるが、しばしば問い合わせを受けることが多い。中国製であることが決して悪いわけではないが、当社の研究開発、製造拠点はすべて国内。国内で培った技術力により、高品質かつ信頼性の高い鉄スクラップAI検収システムを提供している。検収の効率化に関心をお持ちの方は、お気軽にご連絡いただきたい。

 

 

【略歴】 田島圭二郎(株式会社EVERSTEEL 代表取締役)

1994年、大分県の林業家系に生まれる。環境課題解決の従事へ。東京大学工学部マテリアル 工学科で鉄鋼材リサイクルの研究を実施。スイス工科大学での画像解析技術の研究をもとに、 鉄スクラップに特化した画像認識システムを構築。2021年3月、株式会社EVERSTEELを共同創業。2023年にForbes JAPAN UNDER30、2024年にForbes ASIA UNDER30を受賞。

 

 

(IRuniverse K.Kuribara)

 

 

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