
2025年国際電池リサイクル会議(ICBR)では、展示企業数が過去最高に達し、展示場はこれまでにない熱気と商談に駆け回る参加者で埋め尽くされた。ここでは、どんな企業が来ているのか展示エリアを探索しつつ話を聞いた業者をいくつか紹介する。
まずはオランダでリチウムイオン電池火災に対するソリューションを提供するDoorveen。
同社は、有害廃棄物・非有害廃棄物および製品の保管および輸送機器を手がけている。特にリチウムイオン電池の保管・輸送・防火・消火機器に注力しており、責任者のヨハンさんはICBRではステアリング・コミッティーのメンバーも務める古株だ。

深刻化するリチウムバッテリー火災問題
EVや電動自転車・スクーターなどのモビリティは言うまでもなく、リチウムイオン電池を使用する電子・電気機器は増加の一方を辿っている。こうした普及に伴うリチウムイオン電池火災事故の世界的な増加は大きな課題であり、根本的に火災の危険性を排除する解決法は未だに見つかっていない。特にこの数年間で起こったコンテナ船に積まれたEVの火災は、船舶の沈没や積荷の海中投棄という深刻な事態を引き起こしており、新たな対策技術の開発が急務となっている。小型電気製品も例外ではない。最近筆者が持っている携帯用マッサージ器に一部で発火事後が発生したことから経産省が製品のリコール情報を発表した。この出来事は、日常頻繁に使用・携帯するリチウムイオン電池内蔵の電子・電気製品の危険性を改めて実感させた。
欧州のリチウムイオン電池の対防火システムについてはMIRUでもいくつか報告してきたが、今回はDoorveenによるNASA(米航空宇宙局)の宇宙技術を応用した革新的な消火システムを紹介する。同社のヨハンさんはNASAの技術について「宇宙船内で火災が発生した際の対策として、ロケット内では従来の新鮮な空気やCO2では対応できないロケット内で火災が発生した場合の対策としてエアロゾル技術が開発された」と説明する。
熱暴走を完全停止させる画期的技術
この消火システムの核心となるのは、カリウム塩を主成分とするのがこのエアロゾル技術である。同社の技術専門家ロバートさんによれば、火災時に物質の分子結合が分解されて水素や酸素などの個別元素が生成されるが、カリウムが即座に水素などの有機元素と結合することで、燃焼そのものを阻止するという。最も注目すべき点は、このエアロゾル物質が酸素の6倍の速度で炎と反応することである。これにより、火災の消火だけでなく、リチウムバッテリーの熱暴走現象も完全に停止させることが可能だという。ヨハンさんは「熱暴走の完全停止は不可能と言われてきたが、我々の技術では100%の停止が実現できる。完全認証済みのテスト結果がそれを証明している」と自信を示している。
多様な用途に対応する製品ラインナップ
同社が開発した消火システムは、用途に応じて複数のバリエーションが用意されている。気になる価格だが、最小モデルは重量8キロ程度で価格は350ユーロ、20フィート・コンテナ対応の大型モデルは4600ユーロとなっている。
これらのモデルは92度で溶解するヒューズと内蔵ダイナモを組み合わせた独自機構を採用しており、設置したコンテナ内の温度が90度を超えると自動的に作動する。システムの作動原理は巧妙で、温度上昇によりヒューズが溶解すると、スプリングが解放されてダイナモが回転し、電気信号を発生させてエアロゾルを放出する仕組みである。これにより電源のないコンテナ船内でも確実に機能するという。
実証テストで証明された高い効果
実際の火災実証テストでは、システム作動後30〜45分間密閉状態を保つことで完全消火が達成されている。消防隊立会いのもとで実施されたテストでは、壁面にほとんど損傷が及ばないほど迅速に消火が完了し、その効果の高さが実証された。現在、同社の主要顧客は廃棄物リサイクル業者や危険物保管施設などのB2B市場が中心となっている。同社は大手企業のレノヴィやヴェオリアなどを主要顧客に抱えており、特に火災リスクの高い廃棄物処理現場での採用が進んでいるという。話を聞いて、自宅で使用できるタイプのシステムが欲しくなり購入が可能かどうか尋ねたが、残念ながら一般消費者への販売は行なっていないとのことだった。
日本市場参入への意欲
Doorveenは現在4名という小規模体制ながら、技術力の高さを武器に事業を展開している。ヨハンさんは「当社は子会社なので消費者向けビジネスは手に負えない。期待値が高すぎてクレームが多くなるからだ」と率直に語る一方で、日本市場への参入には強い関心を示している。
「日本にも販売したいと考えている。バッテリー関連の問題は深刻で、我々の技術が貢献できると思う」と述べ、日本企業との提携や技術展示会への参加に積極的な姿勢を見せた。
製品の詳細は以下のサイトで。
https://doorveen.nl/en
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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