いささか旧聞ですが、世界的にチタンの生産量が伸び悩み、関連製品の価格も冴えません。
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理由はさまざまですが、チタンの主たる用途である航空機向けの量が伸びないのが一番の原因でしょう。
しかし筆者は別のことを考えます。「海水淡水化プラントは売れてないのかな? アラブの産油国もあまり予算が付かないのかな?」。
チタニウムの航空機と並ぶもう一つの用途は、プラント設備であり、特に海水を扱う海水淡水化プラントは、チタニウムの用途として無視できない存在です。
読者諸兄もご承知の通り、海水に対する耐食性では、チタニウムはプラチナとほぼ同等で、極めて錆びにくい素材として有名です。しかし、これはチタニウムのイオン化傾向によるものではありません。金属表面にできる酸化膜が不働態となってがっちりとスクラムを組み、酸化剤となる原子が内側に入り込むのを防ぐからです。これはステンレス鋼の表面やアルマイト処理したアルミの表面と同じ理屈です。
そしてチタニウムは海水淡水化プラントに最適の素材なのです。
海水淡水化プラントには2種類あります。
化石燃料を焚いて、海水の蒸留を繰り返して淡水を作る多段フラッシュ法と、高圧をかけて浸透膜を通して淡水を作る逆浸透膜法です。どちらもチタニウムをふんだんに使います。
ガソリンの値段が飲料水よりも安い、アラブの産油国ではふんだんに化石燃料を燃やして淡水を作ります。一時期は日本のプラントメーカーに海水淡水化プラントの注文が多かったのに、最近はあまりないみたいです。
日本の場合も、1966年に水不足が深刻だった九州の離島に多段フラッシュ型の海水淡水化プラントが設置され、その後西日本の離島を中心にこのタイプが普及しました。水質は上等で良質な飲料水が供給されたのです。
しかし、2度にわたる石油ショックと化石燃料の価格高騰が起こり、そして逆浸透膜法の技術が確立すると、日本の海水淡水化プラントはもっぱらそちらに移行しました。沖縄県の離島にある海水淡水化プラントはほとんど逆浸透膜法ですが、この方式を用いた日本最大の海水淡水化プラントは、実は離島でなく福岡県の海の中道にあります。
多段フラッシュ法は減圧と同時に罐を焚いて水を蒸発させますが、逆浸透膜法は逆に電動ポンプで高圧をかけます。ということは電力が必要です。
離島では、全ての社会インフラが不自由で、エネルギーは高コストです。電力も水道水やガソリンと同じように、本土より割高です。本土から橋が架かっていない島の場合、(本土や発電所を持つ島に近ければ)海底送電ケーブルで電力を送りますが、それ以外は小規模の発電所を運転して発電します。しかし離島に届く重油もまた割高なのです。
九州の場合、壱岐島までは本土からの送電ケーブル、対馬となると小型発電所です。東京の伊豆七島はそれぞれの島にディーゼル発電機を持つ発電所があります。
もし何等かの事情でタンカーが来なくて重油を使い切れば停電です。それなら、島民の生活のためにも、真水の供給のためにも、自給自足できる再生可能エネルギーを使うべきではないのか?と筆者は思います。
そして離島こそ、再生可能エネルギーの宝庫なのです。太陽光発電、風力発電、洋上風力発電、潮汐発電、波浪発電、そして火山島なら地熱発電も期待できます。本土に比べて不利なのは水力発電くらいです。
そして余談ですが、潮汐発電も波浪発電も、海水による腐食は問題になるので、チタニウムの大口のユーザーになりえます。・・でもどこからもそんな話は聞きませんが・・・。
そんなことを考えながら、12thバッテリーサミットの講演を聞いていると、R&L Co.,Ltd.のCEOのUwe Rosenkranz氏の発表がありました。ドイツ人のRosenkranz 氏はドイツの技術で開発したソーラーパネルを日本で設置する事業のPRをしていました。
今の時代、ソーラーパネル設置の宣伝をしても、はたしてそれで人々の心に訴えることはできるのか? 筆者は怪訝に思いました。
彼の説明は、駐車場の屋根や、畑の上の空間を利用するなど、今は有効利用されていない空間(というより平面)を搔き集めて有効利用するというアイデアです。
今問題視されている大規模ソーラー(メガソーラー)設備ではないようで、確かに日本に適しているようです。奇妙なことに、日本でも北日本や降雪地帯もターゲットにしているとのことです。
パネルを垂直にして積雪による太陽光の受光障害を防止するというアイデアです。
それに高緯度地域なら、太陽高度は低く、光線の角度は低角度になりますからパネルを垂直に立ててもロスは少なくなります。しかし高緯度地域で太陽光発電は本当にうまく行くのでしょうか?
筆者は、以前ドイツで太陽光発電がもてはやされ、Qセルという太陽光パネルメーカーが急成長した時期に、ダニエリの研究所があるドルトムントを訪問し、実態を確認したことがあります。その結果、宣伝されるほど普及しておらず、ドイツでの太陽光発電は難しいのではないか?と思った記憶があります。日本より高緯度のドイツの冬は日照時間が短くかつ寒いのです。当たり前ですが。
だからQセルの記憶がある筆者は、北日本での普及を目指す、R&L Co.,Ltd.社の戦略にやや疑問を持ちます。
北海道や東北地方より、西日本や沖縄の島嶼部をターゲットにすべきではないのか? 筆者は前述の通り、電力消費型の海水淡水化プラントにこそ再生可能エネルギーが必要なのではないか?と考えます。
海水淡水化プラントだけでなく、EV普及にも再生可能エネルギーは重要です。離島はEVに適しています。島内の交通移動範囲は限られ、走行可能距離の短いEVでも問題ありませんし、充電設備を要所に置けば、効率的運用が可能です。一方で、前述したとおりガソリンは高価で内燃機関車には不利なのです。
トヨタはウーブンシティとかいう何語か分からないカタカナ名の実験都市を富士山麓につくりました。それも結構ですが、筆者ならまず離島のオール電化を勧めます。そしてそこで必要とする電力は再生可能エネルギーと、定置型二次電池を考えます。
余談ですが、発電方法として塩分濃度差発電というものもあります。逆浸透膜で淡水を作る場合と逆の方法で浸透膜を使って発電するというものです。まだ効率は悪く、商業ベースにはなりえませんが、大規模河川の河口部に堰を作って発電することはできます。例えば長江(揚子江)の河口やアマゾン川の河口です。さらに脱線しますが、筆者はしばしば利根川下流の逆水門を通るのですが、この堰に発電装置を作ることも可能なのに・・・と思います。
この発電方法の面白い点は完全にリバーシブルだということです。つまり電気を流して淡水をつくり、同じ装置で淡水を使うことで発電できるということです。ちょっと揚水発電に似ています。海水淡水化プラントは二次電池にもなりうるのです。荒唐無稽で、誰も可能性を語りませんが。
話を元に戻します。海水淡水化プラントからソーラーパネルに戻ります。
前述の通り、Rosenkranz氏は、北日本や降雪地域に拘りたいみたいです。一方で筆者は、インフラに悩みがある離島に注目すべきだと考えます。
うーむ、ここで妥協点を探るとすれば・・・北にある離島・・・礼文島、利尻島、奥尻島辺りになるのでしょうかね?
でも今北海道では、釧路湿原を潰してタンチョウの住処を奪うソーラーパネルが問題になっています。今、北海道でこの設備をPRしても拒否される可能性大です。
しかしまあ、離島なら大丈夫かも知れません。それに北海道といっても、離島ならヒグマに襲われるおそれはありませんから施工工事は安全です。やっぱり、北海道の離島一択です。
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久世寿(Que sais-je)
茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。
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