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経産省、系統用蓄電池に後年度負担分を含め400億円規模 再エネ大量導入へ「蓄電インフラ」を後押し

2025/12/02 13:47 FREE
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経産省、系統用蓄電池に後年度負担分を含め400億円規模 再エネ大量導入へ「蓄電インフラ」を後押し

2000キロワット以上の大規模蓄電を補助 21年度以降27件採択、GX移行債を発行し数年間にわたり継続実施する方針

 

経済産業省が、再生可能エネルギーの大量導入に対応するため、送配電網に直結する大規模蓄電池への支援を本格化している。2024年度はGX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債を活用し、「再生可能エネルギー導入拡大・系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業」に400億円を計上。2000キロワット超の蓄電システムを対象に導入費用の最大3分の2を補助し、余剰再エネの吸収や系統の調整力確保を急ぐ。太陽光や風力の出力変動を吸収する「調整力インフラ」として、系統用蓄電池の整備を加速する狙いだ。

 

この制度は、資源エネルギー庁が所管し、一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)が執行を担う。21年度補正予算から開始された系統用蓄電池支援事業で、以降継続実施されている。再エネの大量導入に伴う出力変動を吸収し、系統の安定化と脱炭素を両立する「調整力インフラ」としての蓄電池を整備することを目的としている。政府は30年度の温室効果ガス46%削減(13年度比)を掲げており、再エネ比率を現状の2割程度から36から38%へ引き上げる計画だ。太陽光や風力は天候に左右されるため、余剰電力の貯蔵や不足時の放電を担う大規模蓄電池が、系統運用上の「緩衝材」として不可欠との認識が背景にある。

 

24年度(令和6年度)は、GX推進対策費として系統用蓄電支援に400億円を計上した。対象は2000キロワット以上の系統直結蓄電池や水電解装置で、需給調整市場や容量市場などへの参加を前提とする「事業用ストレージ」となる。補助率は通常3分の1、新技術の場合は3分の2以内で、上限額は10億円から40億円のレンジが設定されている。新技術には、リチウムイオン電池以外の次世代蓄電池や、水素製造と組み合わせたシステムなどが想定されている。補助を受けた事業者は、電力広域的運営推進機関が運営する各種電力市場等を通じて調整力を供出すること前提とする。

 

21年度以降、この枠組みを通じて27件の系統用蓄電プロジェクトが採択済みだ。最近の年度では20件から30件弱が採択され、総補助額は300億円規模に達しているとの業界報道もある。典型的な案件としては、メガソーラー(大規模太陽光発電所)に併設される蓄電所や、独立系アグリゲーター(需給調整事業者)による大規模蓄電池システム(BESS)などが挙げられる。太陽光発電の出力が集中する昼間に充電し、需要が高まる夕方から夜間に放電することで、系統の需給バランスを支える役割を担う。また、電力会社が送配電網の増強を回避する手段として、系統側に蓄電池を配置するケースも増えている。

 

こうした補助金により、系統用蓄電池市場の立ち上がりは進んでいる。しかし、系統制約や市場設計が投資回収性を左右するという指摘も出ている。容量市場や調整力市場の価格水準が想定を下回れば、補助金を受けても事業採算が厳しくなる恐れがある。また、送配電網への接続枠が限られている地域では、蓄電池を設置したくても系統に接続できない「系統制約」が障壁となるケースもある。特に北海道や九州など、再エネ導入が先行する地域では、系統容量の逼迫が深刻化しており、蓄電池の導入効果を最大化するには、送配電網の増強や運用ルールの見直しが欠かせない。

 

さらに、この支援制度はGX債に依存した時限的な枠組みである点も課題だ。政府は50年のカーボンニュートラル実現に向け、今後10年間で20兆円規模のGX経済移行債を発行し、脱炭素投資を後押しする方針だが、補助制度が終了した後に、蓄電池事業が自立的なビジネスモデルを確立できるかが焦点となる。市場価格だけで投資回収できる環境を整えるには、調整力市場や容量市場のさらなる整備、再エネ電力の価値を適切に評価する仕組みづくりが不可欠だ。

 

経産省は、系統用蓄電池を「再エネ大量導入時代の基幹インフラ」と位置付けており、補助制度を通じて民間投資を呼び込む構えだ。ただし、補助金頼みから脱却し、市場メカニズムに基づく持続可能な蓄電ビジネスを育てられるかが、今後の政策運営の鍵を握る。再エネと蓄電池を一体で整備する「蓄電インフラ」の構築が、日本の脱炭素目標達成の成否を左右することになりそうだ。

 

(IRuniverse T. Morio)

 

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