電炉シフトへ需要増加 三井物産、スクラップ検収AIのEVERSTEELに出資
電炉シフトを背景に鉄スクラップ需要の増加が見込まれる一方、荷受・検収現場では品質判定を担う人材の不足と高齢化が顕在化している。三井物産は、AI画像認識による鉄スクラップ検収システムを国内で先行して商用化し、製鉄所での導入実績を持つ東大発スタートアップEVERSTEELへの出資参画を決定した。2023年のMOU締結以降続けてきた営業協力を、出資とエムエム建材を通じた販売網で一段と加速し、スクラップの品位特定・不純物検知の標準化を通じて、鉄鋼・リサイクル業のDXとカーボンニュートラル対応を下支えする。
【参考記事】
三井物産、鉄スクラップ検収AIシステムのEVERSTEELに出資(リリースベース)
日々進化するクラウド型の鉄スクラップAI検収―EVERSTEEL・田島代表に聞く
現場の人材不足・高齢化
脱炭素の流れを受け、高炉に比べてCO2排出量が少ない電炉への生産シフトが世界的に加速している。日本国内でも電炉メーカー各社が増産投資に動き、鉄スクラップの需要は今後さらに拡大する見通しだ。だが、この移行を支える基盤には大きな課題が横たわっている。鉄スクラップの荷受・検収を担う現場で、品質を見極める熟練作業員の不足と高齢化が急速に進んでいるのだ。
鉄スクラップは銅やアルミニウムなどの不純物の含有率や、鉄自体の品位によって細かく等級分けされ、価格も用途も異なる。製鉄所では搬入されるスクラップを目視や簡易検査で判定し、受け入れの可否や価格を決める。この検収作業は長年、ベテラン作業員の経験と勘に依存してきた。しかし近年、こうした熟練者の退職が相次ぎ、後継者の育成も追いついていない。判定精度がばらつけば、不適切なスクラップが炉に投入されて歩留まりが低下したり、製品品質に影響が出たりするリスクが高まる。
電炉各社にとって、スクラップは製造コストの大半を占める主原料だ。品質の見誤りは収益を直撃する。加えて、カーボンニュートラルへの対応が求められる中、使用したスクラップの品位や由来を正確に記録し、低炭素鋼材としてのトレーサビリティを確保する必要性も増している。現場の人手不足は、電炉シフトという産業構造転換のボトルネックになりつつある。
東大発AIが「目利きの標準化」を実現
こうした課題に対し、技術で解を示そうとしているのが、東京大学発スタートアップのEVERSTEELだ。同社は2021年の設立以来、AI画像認識技術を用いた鉄スクラップ検収システムの開発に取り組んできた。十数人規模の組織ながら、すでに国内の製鉄所複数カ所で商用導入を果たしている。
EVERSTEELのシステムは、搬入されるスクラップをカメラで撮影し、AIが品位や不純物の混入状況を自動で判定する仕組みだ。熟練者の判断基準を学習データとして取り込むことで、経験の浅い作業員でも一定水準以上の精度で検収作業を行えるようになる。判定結果はデジタルデータとして記録されるため、品質のばらつきを抑え、後工程でのトラブルやクレームを減らす効果が期待できる。
さらに重要なのは、このシステムが「目利きの標準化」をもたらす点だ。これまで属人的だった検収ノウハウがデータ化されることで、拠点間での品質管理レベルの均一化や、取引先との品位基準のすり合わせが容易になる。低炭素鋼材の需要が高まる中、スクラップの品位や来歴を証明できるデータ基盤は、製品の環境価値を裏付ける重要なインフラとなりうる。EVERSTEELは「鉄を未来の主役に」を掲げ、鉄鋼・リサイクル業のDXとカーボンニュートラル対応を軸に事業を展開している。
商社の「データの入口」になりうるか
三井物産とEVERSTEELの協業は、2023年3月のMOU締結から始まった。カーボンニュートラル向けエコシステム構築を目的に掲げ、三井物産は自社のネットワークを活かして検収AIの国内営業を支援してきた。今回の出資参画により、この関係は資本面でも強固なものとなる。
三井物産は事業ポートフォリオにおいて「Industrial Business Solutions」を成長の柱の一つと位置づけ、資源・素材の安定供給とDXを組み合わせたソリューションの提供に力を入れている。EVERSTEELへの出資は、この戦略の一環だ。三井物産本体に加え、建設資材を扱う子会社エムエム建材の販路も活用し、検収AIの導入拡大を図る。
商社が資源や物流だけでなく、現場DXを担うスタートアップに資本参加する背景には、産業構造の変化がある。電炉シフトによってスクラップの重要性が増す中、取引量や価格だけでなく、品質データの管理とトレーサビリティの確保が競争力を左右する時代になりつつある。検収AIは、スクラップが製鉄所に入る最初の接点で品質情報を捉える「データの入口」だ。この領域を押さえることは、川上から川下までをつなぐ商社にとって、新たな付加価値の源泉となる。

収益と環境の両立を支える基盤に
電炉・高炉各社にとって、検収AIの導入は複数のメリットをもたらす。まず、品質判定の精度向上によって、不適切なスクラップの混入を防ぎ、歩留まりを改善できる。スクラップ価格が高止まりする中、原料コストの削減は経営に直結する。また、品位のばらつきが減ることで、製品品質の安定化やクレーム対応コストの削減も期待できる。
環境面では、使用したスクラップの品位や来歴を正確に記録することで、製造した鋼材のCO2削減量を証明する証跡として活用できる。欧州を中心に低炭素鋼材への需要が高まる中、こうしたデータ基盤の整備は、製品の環境価値を市場で評価してもらうための前提条件になりつつある。
三井物産とEVERSTEELの協業は、電炉シフトという大きな潮流の中で、現場の課題解決と産業全体の競争力強化を同時に目指す取り組みだ。スクラップ検収AIが、単なる省人化ツールを超えて、鉄鋼業のカーボンニュートラル対応を支える基盤インフラとして定着するかどうか、今後の展開が注目される。
(IRuniverse T. Morio)