2025 SMM APAC鉛蓄電池産業会議(LABC2025、主催:SMM)が、12月4日から5日の2日間にわたり、ベトナム・ホーチミン市で開催された。同会議には、世界30カ国以上から約300名の鉛蓄電池産業の主要プレーヤーが参加。ベトナムの主要企業に加え、鉱サプライヤー、電池メーカー、エンドユーザーが一堂に会し、鉛産業が直面する多様な課題について活発な議論が交わされた。
本稿では同会議で得られた情報をもとに、ベトナムにおける鉛蓄電池の需要の動向について紹介する。
ベトナムの都市部では大気汚染が深刻な社会課題となっており、政府は交通分野での環境規制を強化している。そうした中、2025年7月に首相指示として示されたハノイのガソリン車両規制は、市民生活や産業への影響の大きさから注目を集めている。本規制は、政府がハノイ市人民委員会に対し、2026年7月1日からガソリンバイクおよびスクーターの走行を段階的に制限するよう命じたものである。また、2026年7月から環状1号線の内側でガソリンバイクとスクーターの通行を全面禁止とし、2028年1月には規制区域を環状2号線まで拡大するとともに、自家用ガソリン車も対象とする方針で、さらに2030年以降は、規制範囲を環状3号線まで広げる計画とされているとのことだ。
本政策は環境改善につながる施策として評価する声がある一方、公共交通機関や電動バイク向け充電インフラの整備が追いついていない現状で、規制を急速に進めることへの懸念も根強い。こうした中、ベトナム二輪車製造者協会(VAMM)は、規制開始時期の再考を求める請願書を政府に提出した。その結果、政府からは、十分な準備期間を確保しながら段階的に進める方針が示され、規制内容の一部緩和に言及する回答がなされたとのことだ。
ベトナムは他の東南アジア諸国と同様、都市部ではバイクが市民の主要な移動手段となっており、生活に不可欠な存在である。EV普及を後押しするために車両登録税の免除などの優遇措置も導入されているが、現時点で電動バイクやEVの普及率は依然として限定的で、ガソリン車が主流である状況に大きな変化は見られない。
会議参加者からは、中国では国家主導でEV普及が進み、充電ステーションなどのインフラ整備も急速に進展しているのに対し、ベトナムではインフラ整備が追いついていないとの指摘があった。実際、家庭用電源を改造した無許可の簡易充電設備が各地に設置され、火災などの事故が報告されているという。EV普及政策に対し、インフラ整備が後追いとなっている点は課題だが、関係者の間では、今後は時間をかけて中国のようなEV利用環境が整備されていくとの見方が多い。
EVの普及が進展すれば、エンジン車向けを中心とした鉛蓄電池の需要は縮小する可能性がある。しかし一方で、EVやHEV車においても、ヘッドライトやワイパー、オーディオ、パワーウィンドウといった補機類の電力供給、車両の初期起動電力の確保、さらには駆動用高電圧バッテリーに異常が発生した際にハザードランプなどの安全機能を作動させるための電源として、鉛蓄電池が依然として重要な役割を担っている。
このため、鉛蓄電池業界には、EVシフトという構造変化を見据えつつ、用途の変化に対応した事業戦略が求められている。
ベトナムにおいてバイクは単なる移動手段ではなく、生活インフラそのものである。公共交通網が十分に整備されていない状況で、ガソリン二輪車の利用を急激に制限することは、市民生活や中小事業者に直接的な負担を強いる。二輪メーカー団体が規制開始時期の再考を求めたのは、既存産業を守るためだけでなく、社会全体の移行コストを現実的に捉えた結果といえるだろう。

会議に参加して感じたのは、EV化の進展は鉛蓄電池産業にとって単純な「需要減少」に直結しないということだ。駆動用バッテリーの主役はリチウムイオン電池へと移行していくものの、安全性確保や補機電源といった領域では、鉛蓄電池が引き続き不可欠な存在である。むしろ、EV普及が進むほど、鉛蓄電池には「縁の下のインフラ」としての信頼性と品質がこれまで以上に求められるだろう。
今後は、環境規制の強化が実際の都市交通や市民生活にどのような影響を及ぼすのかに加え、EV普及の進展に伴って鉛蓄電池が補機電源や安全機能の分野でどのような役割を再定義していくのかを注視したい。
(IRuniverse Midori Fushimi)