Loading...

「第4回 革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル領域シンポジウム」前編

2025/12/27 09:59
文字サイズ
「第4回 革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル領域シンポジウム」前編

2025年12月12日、東京大学本郷キャンパスにある山上会館大会議室において、「第4回 革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル領域シンポジウム」が開催された。本シンポジウムは、「第66回電池討論会:東京大学ARIMブースが紹介するARIMネットワークの広がりで紹介された、ARIMネットワークの取り組みの一環として企画されたものである。


ARIM(マテリアル先端リサーチインフラ事業)は、文部科学省が2021年度より開始した事業であり、全国26の大学・研究機関が連携して、先端設備の共用体制の構築に加え、設備利用により創出されるマテリアルデータの収集・蓄積・共用を推進している。
本事業では、各機関が保有する設備・技術・ノウハウ・データを一体的に共用することで、材料分野における研究開発の高度化と加速を図り、産学官の利用者による新たな研究成果の創出に貢献している。

シンポジウム当日は、ARIMの重要技術領域の一つである「革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル領域」に参画する東京大学、広島大学、日本原子力研究開発機構、豊橋技術科学大学の各拠点による活動報告に加え、共用設備を活用した具体的な研究成果が紹介された。
なお、ARIMでは半導体分野の共用基盤プラットフォームとしてARIM半導体基盤プラットフォーム(ARIM-SETI)も展開している。

今回は2025年7月にARIM事業に参画した豊橋技術科学大学の取り組みと、ARIMサブPD益氏の特別講演の内容について紹介する。

豊橋技術科学大学ARIM代表者:澤田和明氏

2025年7月、豊橋技術科学大学はARIM事業に参画した。ARIM-SETIの回路試作機関および革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル領域のスポーク機関として、半導体集積回路・集積化センサの試作環境を共用基盤として整備し、提供している。同大学は設計から評価まで一気通貫で対応できる体制を活用し、設備利用・提供に加えて試作に関わる技術支援も含め、試作工程から得られるデータ提供に寄与していく。さらに、2026年度からは2025年竣工の新棟(LSI棟)が本格稼働し、より多様な集積回路試作に対応可能な環境となる予定である。

豊橋技術科学大学は学生数約2,000人規模の大学であり、学生が研究や実習に没頭できる環境整備を重視している。その象徴の一つが学内で半導体デバイスを実際に試作できる設備であり、CMOS集積回路としては10万トランジスタ規模の回路を製造できる体制を有している。

同大学は1976年に開学し、1978年から高専卒業生を主な対象として3年次編入を受け入れてきた。開学当初から実践的な半導体教育を掲げ、開学後まもなくトランジスタの試作が可能な環境を整備してきた。これは当時の日本の半導体産業が成長期にありながら、プロセス技術を担う人材が不足していたという産業界の課題を背景にしたものである。

豊橋技術科学大学は大学内部の学生教育にとどまらず、半導体分野へ参入しようとする企業技術者を対象に集積回路プロセスを体系的に学ぶ場も設けてきた。これは研究者として成長を目指す技術者が、実際の製造現場に触れる機会を得にくいという課題を補う狙いからである。

現在は最先端ロジックや設計競争に直接挑むのではなく、半導体とセンサを融合させた有効デバイスの創出を研究ミッションに据えている。地域に集積する半導体産業と連携しながら、人材育成と技術の裾野拡大を図る姿勢が、同大の特徴である。

特別講演 ARIMサブPD 益一哉氏

ARIMサブPDの益一哉氏は特別講演において、半導体分野における大学や研究機関の役割について、自身の研究者としての経験を踏まえた見解を示した。益氏は半導体研究が工学系の基礎研究にとどまらず、その成果が産業化や社会的価値の創出へとつながらなければ意味を持たないと強調し、研究そのものが目的化するのではなく、研究の結果が「何につながるのか」を常に意識する姿勢が重要であると述べた。

また、半導体の価値を生み出すために何を考えるべきかという問いに対し、「あるべき論」ではなく「どうありたいか」を起点にすべきだと語った。あるべき姿を外部から押し付ける議論は、当事者の主体性を奪いかねない。日本の半導体産業も同様であり、「日本の半導体はどうあるべきか」と問うだけでは誰かがやるだろうという他人任せの構図に陥る。重要なのは、自分たち自身が半導体を通じて何を実現したいのかを主体的に考えることであるとのことだ。

また、1990年代のDRAM開発競争を例に挙げ、技術的な成功体験が現在の半導体議論にも影響を与えていると指摘する。当時、歩留まりの改善を軸にした競争が繰り広げられ、日本を含むアジア勢が一定の成果を上げた。しかし、その経験に縛られ続けることが、次の価値創出を妨げる可能性もあるという。過去の成功モデルをなぞるのではなく、研究・人材・社会との接続の在り方を改めて問い直す必要があると述べた。

益氏はこれらの発言が過激と受け止められる可能性を認めつつ、半導体を巡る議論は技術や政策の話にとどまらず、研究者や組織がどのような未来を描きたいのかという意思の問題であると訴えつつ発表を締め括った。

 

ARIMは各拠点に整備した先端装置を相互に共用し、そこで得られたデータも共有することで、日本の半導体産業や電池産業、新エネルギー材料などの研究開発に資することを目指す、世界的にも先進的な取り組みである。ものづくり大国として高い技術力を誇ってきた日本にとって、中国をはじめとする海外勢の急速な台頭は無視できない現実であり、競争力を維持・強化するためには、研究開発のスピードと厚みの両立が不可欠となっている。

本シンポジウムで特に印象的だったのは特別講演で述べられた「大学はより多くの博士人材を育成し、社会に送り出す責任がある」という指摘である。博士課程修了者の受け皿が社会に少ないことを理由に育成を控えるのではなく、「自ら考える力」を育てているはずの大学教育が、なぜ産業界や経営層に十分に評価されていないのかを、大学自身が真正面から問い直す必要があるという問題提起であった。

筆者自身、学生時代に博士課程への進学を断念した理由の一つは、博士号を取得しても就職先が限られるのではという不安であった。日本では特に、博士号取得者に対して研究職以外のキャリアパスが十分に提示されてこないという問題がある。その結果、研究現場で培われた高度な思考力や課題設定能力が、産業や経営の中枢に十分に活かされていないという構造的な課題が生じている。

ARIMのような取り組みは、研究設備やデータの共用にとどまらず、大学と産業、研究と社会の距離を縮める装置でもある。博士人材の価値を正当に評価し、その能力を産業の中で活かす仕組みを整えなければ、日本の技術力が持つ潜在力は十分に発揮されない。大学教育の在り方、人材育成と企業経営の接続点を見直し、研究の成果と人材が社会に循環する構造を築くことが不可欠だ。今後は、こうした視点から、研究基盤整備と人材育成がどのように産業競争力の強化につながるのかに注力していきたい。

 

 

(IRuniverse Midori Fushimi)

関連記事

新着記事

ランキング