IMRC2026のネットワーキングの場で、私たちはインドのELV(End-of-Life Vehicle:使用済自動車)リサイクル企業 Vardhman Auto Recycling と直接話をする機会を得た。
対応してくれたのは、同社の創立者であり、インドELV産業を代表する存在でもある Nikeeta N. Jaiin氏 とKandarp Bansal氏だ。
Nikeeta 氏は、「私たちは夫婦であり、同時にビジネスパートナーでもあるんです」と穏やかに語る。
Vardhman Auto Recycling は、家族経営の強みと長年のリサイクル業界経験を基盤に、インドにおける正式かつ高度なELVリサイクル体制を築いてきた企業だ。そして特筆すべき点として、同社は India’s First Woman-Led Recycling Facility(インド初の女性主導リサイクル施設) でもある。男性中心になりがちな重工業・リサイクル分野において、Nikeeta 氏の存在は象徴的であり、業界の価値観そのものを更新している。
今回のIMRC 2026でもWomen in recyclingというトピックでセッションが行われたのは画期的であったという。
■ インドのELV規制と、リサイクルの必然性
インドでは政府の政策により、
- ディーゼル車:登録から10年
- ガソリン車:登録から15年
を経過すると、原則としてリサイクルに出さなければならない。その背景について Nikeeta 氏は、「安全性の問題と、深刻な大気・環境汚染が理由です」と説明する。急速なモータリゼーションを経験してきたインドにおいて、ELVリサイクルは環境政策であると同時に、社会インフラそのものでもある。
■ 協業および産業パートナーシップ
Vardhman Auto Recycling は、効率的かつ責任あるリサイクルの実現に向けて、インドの正式な産業エコシステム内で強固なパートナーシップの構築に注力している。同社は、インドを代表する鉄鋼メーカーである Tata Steel を含む、主要インド企業にリサイクル資源を供給している。こうした産業連携を通じて、Vardhman は従来の解体中心のオペレーションから、より構造化され効率的な資源回収モデルへの移行を支え、インドにおける循環型ものづくりの発展に貢献している。
この取り組みは、ELV リサイクルが単なる廃棄処理ではなく、持続可能で循環型の産業システムに不可欠な要素であるという同社の考えを反映している。
■ インドELV産業を束ねる存在として
Nikeeta 氏は、インド全体のELVリサイクル会議の会長(President)を務めており、事実上、インドELV産業のハブとなる人物だ。
棚町:「ELV India は日本にとっても関心の高いトピックです。実際、Automotive Recycling Summit には、Kaiho産業(鈴木大志氏)も出席しており、インドELV産業の現状と可能性を説明する役割を担うNikeetaさんたちは日本の接点が必要なら、喜んでつなぎますよ」

■ 日本との協業に向けて
Nikeeta 氏は今後について、「ELVプラントにおける日本企業との協業を強く求めている」と語る。高度な解体技術、品質管理、トレーサビリティ、そして安全設計。日本が長年培ってきた知見は、インドのスケールと結びつくことで、グローバルなELV循環モデルを生み出す可能性を秘めている。
■ Vardhman Auto Recycling の強み - 循環型経済とクローズドループの実践に向けた取り組み
Vardhman Auto Recycling は、インドで唯一の女性主導のリサイクル企業であり、従業員の約90%が女性で構成されている。累計63年の経験を有し、使用済自動車(ELV)から最大99%の回収率を達成している。
「私たちの目的は、単なる利益追求や環境保護だけではありません。リサイクルを可能な限り効率的にすることを目指しています」と Nikeetaさんは語った。
同社は、鉄系・非鉄金属、E-waste、プラスチック、ELVを単一施設内で処理できる完全統合型キャンパスを運営しており、可能な限り低いカーボンフットプリントでの操業を実現している。また、Vardhman は国家レベルの研究機関と連携し、効率的な回収プロセスの設計・改善を行っている。Nikeetaさんは、排出される炭素の一単位一単位が地球上の生命に対する脅威であると強調した。
循環型経済の取り組みについて、Nikeetaさんは、Vardhman がインド最大級の企業と戦略的に連携し、資源の循環ループを閉じることに取り組んでいると述べた。インド政府による拡大生産者責任(EPR)制度の導入により、リサイクル資源が正式な経済圏へ再び組み込まれる量は大幅に増加すると見ている。
さらに、Maruti Suzuki や Mahindra & Mahindra といった主要 OEM は、これまで利益を生み出してきた製品由来の資源を回収するため、認可リサイクラーを利用することが義務付けられていると説明した。Nikeetaさんによれば、これらの企業は社会的責任の履行にも積極的に取り組んでいるという。Vardhman は現在、移行段階にあり、近い将来フルスピードで前進していく見通しだ。
■ インドにおける自動車リサイクル分野の課題
インドでは、スクラップ車両を規制する強固な法制度が存在しないことを背景に、大規模な非公式自動車リサイクルネットワークへの依存が続いている。ELVリサイクルはいまなお、地域の非公式業者を通じて行われるケースが一般的である。「最大の課題は、この分野を正式化し、正規のリサイクルルートに関する認知を広げることです」と Nikeetaさんは語る。
Vardhman Auto Recycling は、地域内の非公式リサイクラーと積極的に関わり、正式セクターへの移行に向けた教育と支援を行っている。これらのリサイクラーは、正式化されることで実務に基づく貴重な経験を効果的に活用できる存在となる。これまでに 100人以上の非公式リサイクラーが正式化されており、その多くが現在は回収エージェントとして、また場合によっては自動車部品に関するコンサルタントとして活動している。正式化は、納税者としての参画を可能にするだけでなく、非公式リサイクルに伴う健康リスクの低減にもつながっている。
■ バッテリー化・電動化時代におけるリサイクルの将来像
インドは、需要と供給の拡大を背景に、バッテリー、E-waste、ELV などの分野において、リサイクルの大規模かつ高い潜在力を持つ市場である。
「インドには大きな可能性がありますが、正式セクターが主流となるまでは、より厳格な法整備が必要です」とNikeetaさんは指摘する。
また、発生源でのスクラップ分別に対するインセンティブの重要性を強調し、リサイクル施設の認可における地理的ゾーニングが、リサイクラーにとっての確実性を高め、投資を促進する可能性があると述べた。全体として、リサイクルは世界的に不可欠な活動としての重要性を増しており、インドにおける同分野の見通しは今後も前向きで、急速な成長が期待されている。
(Risa & Rohini)