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元鉄鋼マンのつぶやき#159 鉄道と電池について考える2

2026/02/27 18:27
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元鉄鋼マンのつぶやき#159 鉄道と電池について考える2

40年以上昔ですが、筆者が大学にいた頃、計測工学科の研究者が地下の実験室で微小磁力の測定実験をしていましたが、どうもうまく行きません。彼は鉄道の架線からの電磁場が影響していると考えました。そこでキャンパスの地下をトンネルで通過する東海道新幹線の影響を疑いましたが、どうも違うようです。東海道新幹線は交流60Hz25000Vです。よく調べると、原因は新幹線ではなく近くを走る東急東横線でした。こちらは架線を直流1500Vの電流が流れます。磁場の測定で、交流よりも直流の方が、影響が大きくなるのはなぜか? 

 

筆者は、ポインティング・ベクトルの問題で考えると理解しやすいと思います。ご専門の方には失礼ですが、ポインティング・ベクトルとは電磁場の持つエネルギーの流れの密度を表す物理量で、電場の強度(ベクトル)と地場の強度(ベクトル)の外積で示されます。                   

 

電流は電線の中を流れますが、そのエネルギーは周辺空間の広がりの中を一方向に流れるのです。交流電流では電流の方向は変化しますが、ポインティング・ベクトルは発電機から電動機へ一方向に流れます。

 

交流の場合、電場と磁場が振動するためポインティング・ベクトルの強度は時間によって変動します。強度の時間平均は放射束密度と呼ばれますが、その<S>Tは、以下の式で表され、交流の場合、積分すると相殺されます。だから一定の周波数以上の交流だと問題がないのです。

 

 

そんなことを思い出したのは、筆者が茨城県に暮らし始めてかなり時間が経ってからです。

 

茨城県のJRは常磐線の取手以北が交流電化区間です。水戸線も交流電化区間です。JR鹿島線は直流1500V電化区間ですが、鹿島サッカースタジアム駅(北鹿島駅)までです。民鉄であるつくばエクスプレスも交流電化です。民鉄(私鉄)で唯一、電化していた日立電鉄は直流600Vの電化路線でしたが、今は廃止されています。他の民鉄と言えば、最大手の関東鉄道以下みな非電化のディーゼルカーです。これは少し奇異な話です。

 

その理由について、ひたち海浜鉄道の吉田千秋社長は「石岡市柿岡にある地磁気観測所の観測のために、茨城県内は直流電化できないのです」と説明します。これは鉄オタにとってはよく知られたことですが、民鉄にとっては少し困ったことです。

 

地方のローカル民鉄は、大手の民鉄やJRから中古の車両を購入して走らせますが、非電化となると、入手先は絞られ、ほぼJRだけになります。いささか不自由です。

 

ここで直流電化と交流電化の比較を考えます。直流がいいか交流がいいかというのは、その昔のトーマス・エジソンと二コラ・テスラの時代から論争が続いていますが、日本の鉄道の場合、理由は明白でした。

 

 

昭和30年代、国鉄の電化が進んだ頃は、以下の考えで整理していました。

 

列車本数が多く、車両が多い路線では車両価格が安い直流が有利です。整流器は変電所だけに置けばいいのです。列車本数が少なく、車両が少ない路線では交流が有利です。小型の整流器を機関車や電車に載せる方が有利だからです。機関車に載せる整流器は、水銀整流器、セレン整流器、シリコン整流器と多様で、モーターは直流モーターでした。

 

従って、首都圏や東海道本線といった繁忙区間は直流電化、北陸本線のようなローカル線は交流電化となりました。

 

その後、サイリスターやインバーターが進化し、交流モーターをVVVF制御する時代になると、架線電流が直流か交流かは本質的な問題ではなくなりました。強いていうなら交流の方が架線電圧を高くするのが容易であり、電力ロスを減らせるので有利となります。また大電力を消費する超高速鉄道の場合、高電圧の交流の方が有利となります。

 

東北本線や常磐線では、途中で直流と交流が切り替わるので、車両は交直両用となりますが、これは車両価格を引き上げるうえ、運転士に切り替え作業を強いることになるので、少し頭の痛いところです。ちなみに、フランスの新幹線TGVも高速の専用線走行時は交流で、低速の在来線走行時は直流で架線集電しています。

 

話を交流・直流の問題から、電化・非電化の話に戻します。茨城県の民鉄の多くが非電化でディーゼルカーであることは、悩みの種です。民鉄同士で車両を融通したり、運転士の教育をする際、電車とディーゼルカーでは勝手が違うからです。

 

映画『レイルウェイ 49歳で電車の運転士になった男』では、一畑電鉄の運転士の教育を京王電鉄が請け負っていました、ディーゼルカーではそれができません。

 

昭和の時代ですが、富山県の加越能鉄道が非電化の加越線(石動と庄川町を結ぶ路線)を持っていた頃、ディーゼルカーのローカル線ということで、各地の鉄道から参考にされ、社員教育にも活用されました。しかし加越能鉄道は結局、この加越線を廃線にして残った電化区間を万葉線として復活させました。万葉線の復活劇は、当時鉄オタの間では話題になりました。

 

では、これから非電化区間を持つ鉄道はどの方向へ向かうのでしょうか? JRのローカル線からお古のディーゼルカーを購入して走らせるだけというのもあまり夢がありません。

 

それに鉄道にもグリーン化の流れ(つまりCO2排出量を減らし、環境負荷を減らす流れ)が訪れています。すぐにできるのは、車両のハイブリッド化です。民鉄がハイブリッドのディーゼルカーの新車を購入するのはごく珍しいことですが、すでに始まっています。

川崎車両の電気式気動車「GreenDEC」2026年春から三セク2社で営業運転開始 | 鉄道ニュース【鉄道プレスネット】

 

天龍浜名湖鉄道と甘木鉄道はどちらも、第三セクターで“GreenDEC”のブランド名で統一されていますが、天竜浜名湖鉄道ではTHG100型、甘木鉄道ではAre500形(型)です。

甘木鉄道の新型車両は「電気式気動車」形式やデビュー日など決定 まず1両更新 | 鉄道ニュース【鉄道プレスネット】

 

製造は川崎車両ですが、これで燃費はかなり改善され運航コストは下がります。車両購入は高くつきますが、第三セクターですから自治体がどれだけ理解してくれるか・・ということになります。茨城県の第三セクター各社にとっても検討の余地ありでしょう。

 

しかし、筆者は全く別のことを考えます。これだけじゃ全く不十分です。電池を積まなければ意味がありません。電動化のメリットは複数あります。無煙化、大トルク化による登坂能力強化、そして回生電力の活用です。回生電力を回収して活用するには電池の搭載が不可欠です。

 

ここから話題は回生ブレーキと電池の話になります。回生ブレーキからの電力回収は電化区間でも非電化区間でも難しい課題です。

 

JRでは早くから回生ブレーキを使用し、回収した電力を架線に流していますが、うまく活用できるとは限りません。近くを走行する電車がなければ、有効活用されず無駄になります。列車本数が少ないローカル線ではあまり意味が無いのです。電力貯蔵装置があれば、捨てずに利用できますが、その技術が確立したとは言えません。

 

ユニークな技術を採用することで知られる京浜急行電鉄では、回生電力の貯蔵用にフライホイールを設置していますが、あくまで実験の域を出ません。キャパシターの利用という方法もありますが、やはり大規模な定置型電池(ESS)の活用が最も有望です。筆者はリン酸鉄型のリチウムイオン電池か、レドックスフロー電池が最適であると確信します。

 

さらに言えば、筆者は列車のダイヤを工夫すべきではないか?と思います。即ち、減速したり下り勾配で回生電力発生する際、その近くで電力を消費する列車を走行させるダイヤを組めばよい訳です。列車本数が少ないローカル線では難しいのですが、首都圏や幹線であれば可能です。これまでダイヤを作成する「スジ屋」は、顧客優先つまりカスタマーオリエンテッドで混雑緩和や乗客の利便性だけを考えてダイヤを作成していました。これからは、省エネを考慮したダイヤにする時代です。そんな複雑なことができるか?と言われそうですが、最近はやりのAIを活用すれば可能です。究極の省エネの実現には必要な工夫であると思います。

しかし、JRは別のことを考えているようです。

 

それは固定式の蓄電池を設置するのではなく、停止車両に搭載した蓄電池に回生電力を貯蔵するというアイデアです。

電力ニュース | 研究開発 | JR 公益財団法人 鉄道総合技術研究所

forum2025-A10.pdf (保護)

 

架線集電するパンタグラフ付きの車両に蓄電池を搭載するのは、ちょっと考えると不可解ですが、この方式なら回生電力を無駄なく活用できます。さらに鉄道総研の資料にもある通り、ソーラーパネルなどの再生可能エネルギーを貯蔵して電車の走行に活用することも可能です。

 

そして、この鉄道車両搭載型の蓄電池は、電車や電気機関車だけでなく、ディーゼル電気式のディーゼルカーでも使用できます。それによってディーゼルエンジンの負荷を平準化できますし、回生電力の利用も可能になります。自動車と同様に究極のストロングハイブリッドを実現できます。走行パターンが決まっている鉄道の場合、自動車よりも簡単に実現できます。その先にあるのは、蓄電池車両です。問題は、搭載する電池容量をどうするか? 使用する電池はどの電池にするか? 許容される重量や搭載するスペースをどうするか? そして価格はどうなるか? です。

 

非電化の地方ローカル線の多くは第三セクターであり、設備投資の決定権を持つのは、出資者である地方自治体である場合が多いと思われます。エネルギー価格の高騰と環境意識の高まりのなかで、新型車両の導入やソーラーパネルの設置を推進するには、自治体の理解が最も重要であると筆者は考えます。

以下、次号

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久世寿(Que sais-je)茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。

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