2026年3月に開催された全国両会(全国人民代表大会・中国人民政治協商会議)において、全国政協委員であり上海核工院総経理を務める王明弹氏は、中国の原子力発電が「積極的・安全かつ秩序ある発展」の新たな段階、すなわち量産化と安定発展のフェーズに突入したことを強調した。かつて「国家の誉れ」として単独実証の段階にあった同産業は、今や「国家の名刺」として本格的な標準化・量産化のスタートラインに立っている。
1. 「実証」から「量産」へ:データが示す技術の自立と産業規模
王委員が提示した最新のデータは、中国の原子力産業が完全なサプライチェーンと自主技術体系を確立したことを明確に示している。
稼働・認可状況:2026年1月末時点で、中国大陸部の運転中および建設認可済みの原子炉は112基、総設備容量は1.25億キロワット(kW)に達する。
一基あたりの発電能力:現在100~125万キロワット。最大で175万キロワット。
発電実績:2025年の総原子力発電量は約4,800億キロワット時(kWh)を記録し、全国の総発電量の4.8%を占めた。
技術の国産化と量産体制:「国和一号」や「華龍一号」に代表される第3世代原子炉は実証段階を完了し、主要設備の国産化率は90%を突破した。現在、年間10基(セット)以上の主設備製造能力を備えている。
現在の核心的課題は、技術の「導入・吸収・実証」から「標準化・量産化建設」への移行である。設計の固定化と認可ペースの安定化(年間10基規模)により、経済性と本質的安全性のさらなる向上が図られている。2026年には、浙江、山東など9省の政府活動報告に13の具体的プロジェクト(三門三期、海陽三期など)が明記され、着実な進展を見せている。
2. 新たな座標軸:「多エネルギー補完」と「AI計算能力(算力)」との融合
新型電力システムにおいて、原子力発電の「ベースロード電源」としての価値は再定義されつつある。
新エネルギーとの協調(多エネルギー補完):
中国核工業集団(CNNC)が提唱するように、原子力発電所周辺の未利用地を活用した太陽光発電や、ベースロードとしての安定性を活かした内陸部(砂漠・ゴビ地域)からの巨大な風力・太陽光送電の平準化など、「原子力を軸とした新エネルギーの牽引」が進んでいる。
「原子力+AI計算能力」のシナジー:
長江デルタ地域におけるDeepSeek等のAI企業の台頭により、データセンターの電力需要が爆発的に増加している。2026年の政府活動報告で初めて言及された「算力と電力の連携(算電協同)」において、24時間無停止の電力を要するAIインフラに対し、高効率・低炭素な原子力は最適なソリューションとなる。同年3月12日には、長江デルタ初の「華龍一号」である浙江三澳原発1号機が系統連系に成功。全面完成後には年間540億kWh超の電力を供給し、地域のスマート経済を強力に下支えする。
3. 利用の多角化と次世代技術への投資
沿海部での大型炉建設が引き続き第15次5カ年計画の主力となる一方で、産業の関心は「総合利用」と「次世代技術」へと広がっている。
エネルギーの総合利用:単なる発電にとどまらず、産業用蒸気供給、海水淡水化、ゼロカーボン工業団地への電力供給、さらには水素製造(およびグリーンアンモニア、グリーンメタノールへの変換)など、石油化学や冶金といった高エネルギー消費産業の脱炭素化との連携が模索されている。
第4世代炉と核融合への布石:王委員は、溶融塩炉や高速炉などの第4世代原子炉、および核融合技術の核心的研究に向けた国家レベルの重大プロジェクト早期立ち上げを提言している。地方レベルでも、安徽省や湖北省が核融合を「未来産業」として位置づけている。
4. 安全管理の高度化と制度的イノベーション
産業の急拡大に伴い、「安全」と「制度」の両面でシステムをアップデートする動きが加速している。
「自律的」な安全文化への転換:国家核安全局は、建設と運転開始がピークを迎える2026年を契機として、従来の「強制される安全」から、事業者自らが「能動的に求める安全」へと安全理念を転換する必要性を強調している。
環境価値の市場化:王委員やCNNC幹部は、原子力を「グリーン低炭素政策体系」に全面的に組み入れ、グリーン電力証書(緑証)の取引スキームに参加させることで、「電力と証書の一致」によるゼロカーボン価値の収益化を実現するよう提言している。
結論
秦山原子力発電所での「ゼロからの出発」から、現在の年間10基の量産体制に至るまで、中国の原子力産業は強固な自立体系を築き上げた。これからの原子力は、単なるエネルギー安全保障の「土台石」にとどまらない。新エネルギーとの結合によるデジタル経済(AI)の支援、熱・水素供給による産業の脱炭素化、そして第4世代炉・核融合による世界の科学技術の牽引へと、その役割を大きく拡張していく。王委員が指摘する通り、原子力の積極的かつ安全で秩序ある発展は、エネルギー強国建設における不可避の戦略的要請である。
(趙 嘉瑋)