スウェーデン・ヨーテボリで開催されているBIR国際リサイクル会議2026の2日目午前の部はステンレス・スチール・特殊アロイ委員会、非鉄部門、午後は総会およびEEEVB部門によるセッションが行われた。
ステンレス・スチール・特殊アロイ委員会セッションでは、リサイクルリング・ヨーロッパ(前EuRic)からJulia Ettinger氏が、スクラップに関するEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)についてのプレゼンテーションを行った。CBAMは非常に複雑な制度で、その方向性については、日本の業界の関心も非常に高い。ここでは、その内容を報告する。
Recycling Europe事務局長のJulia Ettinger氏は、関連業界でも混乱を招いているEUにおける気候変動政策の中でも特に重要な法的枠組みの一つ、炭素国境調整メカニズム(以下CBAM)についての解説を行った。
Ettinger氏はまず、聴衆へ向け、CBAMおよびその上位制度であるEU排出権取引制度(EU ETS)への理解度について質問し、認知度について挙手を求めた。直接影響を受ける業界の間でさえ、この複雑な制度の仕組みが十分に理解されていないという現実への認識を示す形だ。
EU ETSはCBAMの根幹をなす制度
CBAMに入る前に、Ettinger氏はEU のETS制度について説明を行った。これはEUの産業における脱炭素化戦略の中核をなすキャップ&トレード制度である。温室効果ガスの総排出量に上限(キャップ)が設定され、企業はCO2を1トン排出するごとに排出枠(アローワンス)を保有しなければならず、その排出枠は市場で売買・取引することができる。企業がコスト回避のためにEU域外に生産を移転するリスク(カーボンリーケージ)を防ぐため、一部の業種には無償割り当て(フリー・アローワンス)が認められてきた。しかしその無償割り当ては現在段階的に廃止されており、CBAMはそのギャップを埋める役割を担う。
CBAM:国境における炭素価格付け
CBAMは、EU域内に輸入される炭素集約型製品に対し、EU域内と同等の炭素価格を課すものであり、EU域外の生産者をEUの競合企業と同じ競争条件に置くことを目的としている。現在の適用対象は鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、水素、電力の6分野である。鉄鋼については、直接排出(現地における排出)のみが算定対象となる。
移行期間は2023年10月から2025年末までとなっており、この期間は報告義務のみが課され、財務的な負担は生じなかった。2026年1月1日からは本格施行フェーズに入っており、認定CBAM申告者のみが対象品目を輸入できるようになった。輸入業者は輸入品に内在する排出量に基づいてCBAM証書を購入しなければならない。証書の価格はEU ETSの排出枠競売価格に連動しており、2026年は四半期平均、2027年からは週次平均を基準とする。加盟国からの証書購入は2027年から可能になる見通しである。
適用範囲の拡大:川下への圧力
欧州委員会は、半製品および製造品を対象に加える形でCBAMの範囲を拡大する提案を行っており、Ettinger氏は一部の利害関係者の間でコンプライアンス上の負担をサプライチェーンのさらに川下へと移行させようとする「強い圧力」があると指摘した。欧州議会も委員会提案に対する独自の報告書を公表しているが、いずれの文書もスクラップを適用対象外としている。Ettinger氏の見通しによれば、現行改定は2027年までに完了し、新たな品目は2028年から適用対象に入る可能性が高い。また議会報告書は、化学品、ポリマー、紙などを含む将来的なスコープ拡大の可能性も示唆している。
現段階ではスクラップは対象外
BIR参加者の多くが直接的に影響を受けるのは、スクラップに関する項目である。ポスト・コンシューマー・スクラップについては、対象品目としても、対象品目への投入材(プレカーサー)としても、現行および提案されたCBAMの適用範囲には含まれていない。欧州委員会はその理由として、ポストコンシューマー・スクラップを含めることはリサイクルの誘因を損ない、EUの循環経済目標に反する可能性があるとしている。
一方、製造工程で発生するプレ・コンシューマー・スクラップは異なる扱いを受ける。委員会の提案では、これを投入材(プレカーサー)として位置づけており、CBAM対象品目の製造に使用された際に排出量が帰属される場合がある。ここでEttinger氏が重大な欠陥として指摘したのが、プレコンシューマーの排出量算定方法論がいまだ提案されておらず、将来の施行法令に委ねられているという点である。「数字が存在しない状況で業界として計画を立てることはできない」と同氏は主張する。
また検証面での未解決事項も残る。プレとポストを実務上どのように区別・確認するか、そしてスクラップがプレカーサーから対象品目へと再分類された場合はどうなるのか、いずれも答えが出ていない。
質疑応答では、Ettinger氏はいくつかの懸念に率直に答えた。執行問題については、CBAMの根本的な考え方は妥当だが、その仕組みが複雑になりすぎており、本来の目的である地球規模の脱炭素化を達成できない可能性があると認めた。実際の運用面では大きな疑問符が残ったままである。
リサイクル率の強化とEUの気候変動対策目標の関係については、慎重な立場を示した。EU域内におけるリサイクル推進へは、サプライチェーン寸断時への耐性の高めることに貢献する。だが、すべてのリサイクル材をEU域内に規制により強制的にEU域内に留め置くことは逆効果になると述べ、欧州委による影響評価なしに制定された使用済みプラスチック廃棄物の輸出禁止を「反面教師」として挙げた。
【関連記事】
BIR国際リサイクル会議2026スウェーデン・ヨーテボリ: 展示ブース訪問①World Metal Exchange
Y.SCHANZ from Gothenburg, Sweden