ダイヘン(6622)は次世代3Dプリンタ展で国内初の金属ワイヤ3Dプリンタを展示し、新事業へ参入 。26/3期本決算は電力インフラや半導体関連の需要増を背景に5.0%増収、16.1%営利増と最高益を達成した 。27/3期も17.8%増収、33.1%営業増益予想と大幅な増収増益を見込み、新規事業拡大も加速し、中長期的な成長への期待が高まる 。
ダイヘン(6622) ものづくりワールド 次世代3Dプリンタ展、26/3期 本決算分析レポート
国内初の金属ワイヤ3Dプリンタを展示、26/3期5.0%増収16.1%営利益で最高益
次世代3Dプリンタ展で国内初となる金属ワイヤ3Dプリンタ「ArcBuilder3D」を展示
東京ビッグサイトで7/1~7/3まで「第38回ものづくりワールド東京」が開始され、次世代3Dプリンタ展の中でダイヘンブースを訪れた。同社は国内初となる金属ワイヤ3Dプリンタ「ArcBuilder3D」を開発し、WAAM(ワイヤ・アーク・アディティブ・マニュファクチャリング)という新事業に参入した。今回の展示会では、「ArcBuilder3D」の実機と、実際に加工された大物加工品の展示がおこなわれた。

WAAMとは ─ 溶接技術を応用した金属3Dプリンティング
金属3Dプリンティングとは、金属を層状に積み重ねて立体物を造形する技術である。金型が不要で、鋳造(型に金属を流し込む)や切削(金属の塊を削り出す)に比べて材料ロスが少なく、設計の自由度と生産性が高いため、様々な製造業で注目されている。従来主流のPBF方式(金属粉末にレーザや電子ビームを照射して固める方式)は普及しているものの、装置・材料コストが高く、安全・環境管理の負担が大きく、造形サイズに制約があった。
これに対しWAAM方式は、金属ワイヤをアーク溶接(電気の火花で金属を溶かす技術)で溶かしながら積み重ねて造形する。PBF方式に比べて数倍〜数十倍の造形速度で生産性が高く、低コストで、しかも10メートル級の大型部品も造形できる。船舶のプロペラ、エネルギー関連部品、建設機械、航空・宇宙部品、橋梁など、大型構造物分野に最適とされる。一方で、WAAMは入熱(溶接時の熱)による変形や、造形品質のばらつきが課題とされてきた。

ArcBuilder3Dは独自の交流シンクロフィード溶接で技術的優位性を発揮
同社は、長年培った独自のアーク溶接技術と高精度ロボット制御技術を融合させ、WAAMの課題を解決した。鍵となるのが、同社独自の「交流シンクロフィード溶接技術」である。これは、溶接ワイヤの送り出しと電流を精密に同期制御する技術。高い溶着量(金属を盛る量)を維持したまま、低温での高速造形を実現する。低温で造形できるため、溶け落ち(溶けすぎて形が崩れる不良)などの品質不良を防ぎつつ、冷却時間を大幅に短縮でき、造形能率は従来比24%向上したとのこと。
さらに、材質に合わせて最適な溶接波形を使用することで、鋼材・ステンレス鋼・アルミニウム合金など多様な材料に対応できる。最大ワークサイズは1.5メートル角に対応する。同社は主要機器(ロボット・溶接電源)を自社開発・国内製造する強みを持っており、信頼性の向上と迅速なサポート体制を実現している。同社は溶接電源・ロボット主要メーカーであり、制御ソフトも加え、全てを自社で持つため、システムとして一体提供できる点が競合に対する強みとなる。


事業展開は初年度15億円も、2030年売上100億・国内シェア60-70%を目指す
同社はArcBuilder3Dのシステム販売に加え、六甲事業所で「受託造形サービス」(顧客の依頼を受けて試作品・部品を造形するサービス)も展開する。これにより、装置を持たない顧客も同社の技術を利用でき、市場の裾野を広げる。ターゲットは船舶・エネルギー・航空宇宙など大型構造物分野で、高市政権が注力している分野でもある。事業としてはメーカー希望価格75百万円(システム使用で変動)、初年度20式15億円を計画しているが、2030年に売上高100億円、国内シェア60〜70%を目指す。
具体的にはダイヘンが狙う「大型構造物の金属3Dプリンタ加工」は、高市政権が推進する経済安全保障および「重点投資17分野」の国策と非常に強く合致している。以下に、造船、航空
宇宙、次世代エネルギー安全保障分野について調べてみた。
① 造船分野(船舶用プロペラや厚肉構造物)
造船業界では、熟練溶接工の不足と、鋳造(型に流し込む工法)による長いリードタイムが課題。同社のWAAMは、すでに船舶用プロペラのサンプル造形(軟鋼で15時間)などで実績を示している。型が不要で、既存の金属パーツの上に直接肉盛り(付加製造)して修理・補強することも可能で、造船のリードタイム削減と国内の製造基盤強靱化に直結する。
② 航空・宇宙分野(ロケット部品・機体構造)
航空宇宙分野は、高市政権が「空と宇宙の産業基盤構築」としてサプライチェーンの国内回帰・強靱化を掲げる最重要分野。ロケットの燃料タンクやエンジン周辺の大型チタン部品、機体フレームなどは、巨大な金属塊から9割近くを削り落とす「切削(削り出し)」が行われることが多く、莫大な材料ロス(ウェ・トゥ・フライ比の悪さ)が課題となっている。WAAMであれば、必要な部分だけをワイヤから一気に形作れるため、材料ロスを劇的に減らし、チタンやニッケル合金などの高価な素材コストを大幅に削減できる。
③ 低温貯蔵アルミタンク(エネルギー安全保障)
LNG(液化天然ガス)や、次世代クリーンエネルギーとして期待される「液体水素」の貯蔵には、極低温に耐える巨大なアルミニウム合金製タンクが不可欠。アルミは熱が逃げやすく、従来の溶接や積層造形では欠陥が出やすい極めて難度の高い素材。同社はもともと、「アルミ対応の溶接波形制御」を得意としている。ArcBuilder 3Dの低温・高速積層は、アルミ大型タンクの製造プロセスを革新するポテンシャルを秘めており、エネルギーインフラの国内調達力向上に貢献が期待される。
ArcBuilder3Dを含む次世代材料加工技術を扱う専門組織で10年以内に売上高1,000億円目指す
さらに注目すべきは、同社がArcBuilder3Dを含む次世代材料加工技術を扱う専門組織を新設し、この組織で10年以内に売上高1,000億円を目指すと表明している点。2030年には最先端技術創出の中核を担う研究開発センターを本社敷地内に設立する計画となっている。溶接というコア技術を、単なる「接合」から「ものづくり(造形)」へ拡張する戦略であり、同社の中長期成長の新たな柱として期待される。3Dプリンタの金型レス・材料ロス削減・オンサイト生産(現場での即時造形・補修)という特長は、サプライチェーンの複雑化・環境規制・労働力不足という製造業の課題に対する大きな解となろう。

ダイヘン全体として最高収益更新続く
26/3期業績は、受注高2,713.3億円(前期比+12.6%)、売上高2,377.35億円(同+5.0%)、営業利益187.78億円(同+16.1%)、経常利益201億円(同+17.0%)、純利益141.08億円(同+18.0%)と、全セグメントで増収増益を達成した。これで8期連続増収・3期連続増益となり、売上高、営業利益、経常利益で最高収益更新となった。
業績拡大の原動力は、電力インフラと半導体関連企業の設備投資増加である。同社は「電力インフラ×生成AI半導体」の二刀流成長企業として位置付けられる。電力インフラでは、国内の工場受変電設備の更新投資が堅調に推移し、再生可能エネルギーの導入進展に伴う電力需給調整市場の拡大を背景に蓄電池システムの需要が増加した。半導体関連では、生成AI・データセンタ向けの半導体製造装置に使われる高周波電源が東京エレクトロン向け(6.7%増383億円)に増加した。受注高が売上を大きく上回って積み上がっており(受注高2,713億>売上2,377億)、先行きの成長を裏付けている。

27/3期予想は、売上高2,800億円(前期比+17.8%)、営業利益250億円(同+33.1%)、経常利益255億円(同+26.9%)、純利益165億円(同+16.9%)と、大幅な増収増益、2期連続の過去最高益更新となる見通し。生成AIの普及・データセンタ関連需要の増加を背景とした半導体関連投資の持続的拡大、再生可能エネルギー導入進展に伴う蓄電池システムなどの需要増加、労働力不足を景とした省人化・自動化ニーズが追い風となる見通し。
同社は2026年度中期経営計画として2030年度に売上高3000億円以上、営業利益率12%以上(360億円)を目標としている。この中で、次世代材料加工技術を扱う専門組織で10年以内に売上高1,000億円目指すとしていることから、半導体向け事業拡大に並ぶ事業分野として、さらに注目が高まってこよう。
なお、株価については27/3期会社予想EPS698.95円に対し、PER24.6倍は、プライム東証電機平均PER34.6倍に対し割安である。また変化率で高騰したアドテックプラズマテクノロジー30.8倍、納入先最大手の東京エレクトロン52倍に対しても割安である。今後、半導体、データセンタに加え、フィジカルAI関連でも注目される企業であるが、収益性で中計達成時でも12%程度を想定するにとどまっている。先端産業向け企業としては収益性がやや見劣りするため、ややポジティブと評価したい。


*図表、写真は筆者撮影、展示会資料パンフレットから添付、その他決算説明会資料などからも添付、チャートはヤフーより添付