大手高炉メーカーが次々と大型電炉の建設を発表し、日本では遅れていた高炉から電炉への流れが一気に進む見込みです。
主要高炉3社の電炉化計画と鉄源構成比較表 (菊池氏作成資料)
項目 | 日本製鉄 | JFEスチール | 神戸製鋼所 |
電炉化規模 (生産量) | 290万トン | 200万トン | 70万トン (2030年代前半) |
| 主な生産品種 | 電磁鋼板など高級鋼板 | 高級板材 | 高級板材 |
溶銑+DRI(直接還元鉄)/HBI比率 | 40% | 40% | 100%(自社生産MIDREX) |
| リターンスクラップ比率 | 10% | 100% | 記載なし |
| 外部購入スクラップ(新断等) | 100万トン | - | - |
ここで明らかになるのは、既存の電炉メーカーのビジネスモデルとは一線を画したビジネスモデルを追求するということです。
もはや日本の鉄鋼製品で競争力を持つのは、高級品に限られます。だから各社とも高級板材を狙うとするのはある意味当然です。従って使用する原料も高級スクラップまたは“素性の明らかな”スクラップを使うということになります。
既存の独立系電炉メーカーは、駄物や安物のスクラップを使って、いかに付加価値を高めて、スプレッドを稼ぐか・・というビジネスモデルですが、あくまで高炉メーカーは高級品に拘るということでしょうか?
そうなると土俵が違うので、スクラップ争奪戦は激化しない・・という観測もできますが、スクラップの世界は「仁義なき戦い」です。どうなるかは予断を許しません。
ここで亜鉛ダストの発生見込みを考えてみます。溶銑やDRIにはもともと亜鉛はほとんど含まれていません。製鉄所内で発生するリターンスクラップもメッキ処理前の物が大半でしょうから、亜鉛は含まれていません。
そうなると、JFEスチールと神戸製鋼所の新しい電炉では、亜鉛ダストは発生しないことになります。耐火物保護や集塵機のダメージを考えると、亜鉛ダストは発生しない方が確かによい訳です。一方、日本製鉄では外部から購入する新断プレスなどが100万トンとあります。これは現在の自動車用鋼板のほとんどがメッキ鋼板であることを考えると、亜鉛メッキのスクラップであることが考えられます。そうすると亜鉛ダストが新たに発生するのは、日本製鉄の新しい電気炉となり、対象は100万トンのスクラップとなります。
しかし、そのスクラップはこれまで廃棄されていたものではなく、既存の電炉メーカーで使用していたか、輸出していたものです。(新断は高級なスクラップですからどこも欲しがります)。従って、日本全体でみれば亜鉛ダストが新たに増えるか?というと微妙です。(輸出分を日鉄が購入して使うなら、その分は増えます)。
つまり、大手高炉メーカーが新規に始める電炉での、新たな亜鉛ダストの発生は少ないと考えられます。
筆者は既存の電炉メーカーのことを考えます。既存のメーカーは高炉系列と独立系の2種類に分かれますが、筆者が興味を持つのは独立系の方です。
既存の電炉では、亜鉛メッキが蒸発した後、ZnOや鉄亜鉛酸化物(ZnFe2O4)として濃縮され、日本の年間50万トンの電炉ダスト中に25~30%の亜鉛を含むことになります。
しかしそれらのメーカーは、比較的小規模な電気炉が多く、単独で亜鉛ダスト回収設備を付けても意味がない場合があります。その場合、亜鉛は回収されず、産廃となり、最終的には遺棄されます。
例外は東京製鉄で、同社は宇都宮工場に中外炉製の亜鉛ダスト回収設備を試験的に設けています。結果がうまくいけば(採算があえば)、他の製造所にも横展開する可能性があります。
小規模な電炉工場に亜鉛ダスト回収装置が普及しないのは、主流の還元揮発法(Waelz法)が大がかりなロータリーキルンを使用するからです。
この方法は、炭素熱還元→亜鉛蒸発→再酸化の工程を経て、粗酸化亜鉛(ZnO)を回収します。熱効率が悪いのも難点で、最も普及しているものの、Waelz法ではエネルギー効率は低いとされます。
近年、Waelz法に代わる方法として選択塩化法や塩化揮発法、石灰処理+還元法が開発されています。選択塩化法や塩化揮発法は、塩素や塩化カルシウムを使う方法で
東北大学の佐藤名誉教授らのグループが研究しています。
- 選択塩化法
- 電炉ダストを 約1000℃で塩素+空気 により塩化
- 亜鉛のみ ZnCl₂(気体) として揮発
- 鉄は 酸化鉄のまま固体 として残る
- ZnCl₂ を溶融塩に溶かし、溶融塩電解で 99.99% の高純度亜鉛 を得る
- 回収率 95%以上、工程が短くエネルギー消費が少ない
- 残渣の酸化鉄は電炉に戻して再利用可能
- CaCl2を用いた塩化揮発法
- ZnO や ZnFe₂O₄ と CaCl₂ を反応させ、ZnCl₂ として揮発
- 950〜1030℃で反応し、Jander式で速度解析
炭素の有無で生成物が変化(FeO, CaFe₂O₄ など)
- 石灰処理+還元法(東北大学KAKEN研究)
- CaO 添加 → ZnFe₂O₄ を ZnO + Ca₂Fe₂O₅ に分解
- その後、金属鉄や炭材で還元 → 金属亜鉛を直接回収
- 高純度の金属亜鉛が得られる
上記の新しい方法は、一言で言えば、酸化=還元反応を、酸=アルカリ反応に置き換えたもので、ロータリーキルンは不要となります。(ただし一定以上の高温環境は必要で、完全に省エネとは言えません)。ダスト中の鉄分と亜鉛の分離も可能で、鉄分はそのまま炉に戻すことができます。生成する物質はZnCl2が主で、高純度の亜鉛が回収できます。
またそれら東北大学の方法とは別に、NEDOが排ガスから直接亜鉛蒸気を回収するプロセスを開発しています。
方法 | 回収形態 | 特徴 | 課題 |
|---|---|---|---|
| Waelz法 | 粗ZnO | 実績豊富 | エネルギー多・不純物多 |
| 選択塩化法 | ZnCl₂ → 高純度Zn | 高回収率・高純度・工程短い | 塩素ガス使用 |
| CaCl₂塩化揮発 | ZnCl₂ | 安全性高い塩素源 | 研究段階 |
| CaO処理+還元 | 金属Zn | 高純度Zn回収 | CaO添加が必要 |
| 排ガス直接回収 | ZnO | 省エネ | 実用化段階 |
最後のNEDOの方式は、オンサイトでしか操業できませんが、他の方式では電炉ダストを一か所に集めて集中的に処理できます。
新しい方法はいずれもWaelz法より、省エネに優れ、これまで亜鉛回収をできなかった電炉メーカーにも導入の可能性がでてきます。
また電炉メーカー1社では投資できなくても、コンソーシアムを結成して同業の各社から電炉ダストを集めて一か所で処理することは可能です。(その場合、生成した亜鉛、または粗酸化亜鉛(ZnO)の分配が問題となりますが)。
行政または業界団体が旗振り役になって、新しい技術の導入を促せば、現在の電炉鋼の生産量のままでも亜鉛ダストの回収量を増やすことは可能です。
亜鉛地金価格がどこまで上昇すれば、選択塩化法や塩化揮発法での亜鉛回収が実現するか、研究する余地があります。