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レアメタル千夜一夜 第186夜 南鳥島は誰が掘るのか

2026/09/14 13:23 FREE
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レアメタル千夜一夜 第186夜 南鳥島は誰が掘るのか

――「技術」より難しい国家プロジェクトの経営

185夜で私は、南鳥島レアアース開発を「海のアポロ計画」と呼んだ。水深6,000メートル近い深海からレアアース泥を揚げ、脱水し、選鉱し、分離・精製し、金属、合金、磁石へつなげる。成功すれば「資源のない日本」という戦後の常識を変える可能性がある。しかし、ここまで考えて私はもう一つの疑問に突き当たった。この巨大プロジェクトを、いったい誰が経営するのか。技術より、こちらの方が難しいかもしれない。

日本には優秀な選手が揃っている

南鳥島プロジェクトには多くの組織が関係する。JAMSTECは深海探査と海洋技術、JOGMECは資源開発、経済産業省は資源・産業政策を担う。内閣府は海洋政策や経済安全保障を俯瞰する。大学には海洋学、地質学、資源工学、化学の研究者がいる。さらに商社、非鉄金属会社、化学会社、プラントメーカー、造船会社、磁石メーカー、モーターメーカーまで加わる。まさにオールジャパンである。ところが私は、この「オールジャパン」という言葉を聞くと少し心配になる。みんなが参加することと、誰かが責任を持つことは同じではないからだ。

「和をもって貴しとなす」の光と影

日本には「和をもって貴しとなす」という美しい伝統がある。相手の立場を尊重し、話し合い、合意形成を図る。この文化が日本企業の品質管理や現場改善を支えてきたことは間違いない。しかし巨大国家プロジェクトでは、それが裏目に出る場合がある。会議を重ね、関係省庁に説明し、専門家の意見を聞き、各社の利害を調整する。そして全員が納得した頃には、三年経っている。さらに困るのは、失敗した時である。「それは研究部門の判断です」「採鉱は別組織の担当です」「産業化については民間の判断です」となれば、最後には「みんな責任者だったから、誰も最終責任者ではなかった」ということになりかねない。これが南鳥島で最も避けなければならない日本病である。

超LSIはなぜ産業につながったのか

1970年代の超LSI技術研究組合は、日本の国家プロジェクトの成功例として知られる。重要だったのは、国家が企業の代わりに半導体を売ろうとしたのではなく、企業単独では負担の大きい基盤技術を共同開発し、その成果を企業間競争へ戻したことだ。つまり、国がやる部分と、民間が競争する部分が比較的明確だった。国家プロジェクトの目的が「研究すること」ではなく、「産業を強くすること」につながっていたのである。

第五世代コンピューターが残した教訓

一方、1980年代の第五世代コンピュータープロジェクトは、人工知能や並列処理など先進的なテーマに挑戦し、多くの技術と人材を残した。決して無駄なプロジェクトではない。しかし、研究成果をどのように世界市場の製品や産業競争力へ結びつけるのかという点では、超LSIほど明快ではなかった。ここから南鳥島が学ぶべき教訓は大きい。

「採れました」で国家プロジェクトを終えてはいけない。

レアアース泥を船上へ揚げることはゴールではない。揚泥、脱水、輸送、浸出、分離、精製、金属化、合金化、磁石製造、モーター、そして市場。この最後まで責任を持つ経営が必要なのである。

私なら「南鳥島プロジェクト本部」を作る

では、どうすればいいのか。私は極めて単純だと思う。南鳥島国家プロジェクトに、一人のプロジェクトリーダーを置く。委員長ではない。調整役でもない。任期を持ち、予算と人事に一定の権限を持ち、技術・経済性・産業化について最終的に説明責任を負う人物である。その下に常設の「南鳥島プロジェクト本部」を置く。研究開発はJAMSTEC、資源評価はJOGMEC、政策は経産省――と縦割りで終わらせず、各組織から人材を集めた専従チームにする。そして私は、三つの数字を毎年公表すべきだと思う。①何トン採れるのか。
②1キログラム当たりいくらで作れるのか。
③中国産と比べてどこまで競争できるのか。研究成果の論文数ではない。最終的には「資源として成立するか」を数字で問うのである。

失敗を隠さない仕組みも必要だ

もう一つ重要なのは、国家プロジェクトだからといって「必ず成功する」と最初から決めないことである。技術開発には失敗がある。むしろ失敗を早く発見する方がよい。例えば3年ごとに第三者による厳格な評価を行い、「継続」「設計変更」「縮小」「中止」を判断する。これは撤退論ではない。

失敗を隠さず、修正できるプロジェクトこそ強い。

ロケット開発も、はやぶさも、失敗と修正の積み重ねだった。「和」に「責任」を加える私は日本的な「和」を否定するつもりはない。むしろ南鳥島のような巨大プロジェクトには、研究者、官僚、企業、大学が協力する日本型のチームワークが必要だ。ただし、これからの国家プロジェクトには一文字を加えなければならない。「責任」である。和をもって議論する。しかし最後は一人が決める。決めた人物には権限を与える。そして結果について説明責任を負わせる。これが「令和版・和をもって貴しとなす」ではないだろうか。南鳥島の本当の敵は、水深6,000メートルの水圧だけではない。中国だけでもない。ひょっとすると最大の敵は、日本自身の意思決定の遅さと責任の曖昧さかもしれない。海底の泥を引き上げる技術は、すでに大きな一歩を踏み出した。次に必要なのは、国家として決断を引き上げる技術である。南鳥島を「海のアポロ計画」にするのなら、アポロ計画のように明確な目標、期限、司令塔を置くべきだ。

オールジャパンとは、全員で責任を薄めることではない。
一人の責任者のもとに、日本最高の人材を結集することである。

南鳥島が試しているのは深海採鉱技術だけではない。二十一世紀の日本に、巨大国家プロジェクトを最後までやり切る力がまだ残っているのか。実は、そのこと自体が問われているのである。

 

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