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コロンビア 元左翼ゲリラは「暴君」と呼ばれていた 歴史変えた新大統領への期待と不安

 市長時代のワンマンぶり。「独裁者」との親密な関係。コロンビアの歴史を塗り替えた次期大統領に米国とマーケットは不安を募らせている。

 コロンビアの大統領選は6月19日に決選投票が行われ、元ボゴタ市長の上院議員、グスタボ・ペトロ氏(62)が当選した。元左翼ゲリラという異色の経歴の持ち主。コロンビア史上初の左翼政権の誕生となったが、保守勢力のみならず幅広い層での懸念は、ペトロ氏が「独裁者」の道を歩むのではないかという点だ。

 

 コロンビアは、左翼ゲリラや極右武装組織、麻薬密売グループなどが入り乱れる形で国軍と対立し、内戦が長く続いた。歴代の保守、中道政権が米国、産業界と親密だった一方で、一般国民の多くは内戦の中で「置き去り」にされた。このためラテンアメリカ有数の経済国でありながら、貧富の差が拡大し、現在では国民の約40%が貧困層だ。

 

 コロンビアではこれまでも左派、リベラル派の大統領選有力候補は何人もいた。しかし、数度にわたる暗殺で政権獲得の夢を断たれた。左翼政権の誕生はこれまでの支配構造をひっくり返す歴史的な出来事で、コロンビアのみならずラテンアメリカ全域に与える影響も大きい。

 

 ペトロ氏は格差是正のための税制改革や年金制度の見直し、大学の無償化などを掲げている。コロンビア国内でも極めて裕福な4000のファミリーへの課税強化や、企業への税制優遇策の撤廃など、富裕層、企業に狙いを定めた政策を前面に打ち出している。

 

 中でもマーケットをいらつかせているのは、新規石油開発の禁止だ。原油輸出は輸出全体の約50%に上り、コロンビアの国家収入の約10%を占める。ペトロ氏は現在結ばれている契約については尊重する姿勢を見せながらも、環境問題などを理由に新規探査は禁止する考えだ。

 

 コロンビア経済は新型コロナの感染拡大で一段と悪化し、今年末には国の借金はGDP(国内総生産)の56%になると見込まれている。現在のデュケ政権は財政再建を急ぐためにコロナ禍の中で増税をしようとしたが、低所得層や中間層の猛反発を招いた。ボゴタなどで大規模な抗議デモが繰り広げられ、都市は騒乱状態に陥った。ペトロ氏当選の原動力は社会の根底にまではびこった不平等に対する国民の不満である。しかし、ペトロ氏の公約が実行されれば国家経済が立ち行かなくなるとの見方も多く、マーケットは「資源国」コロンビア経済の先行きに大きな不安を抱いている。

 

 不安は経済問題だけではない。ペトロ氏の性格やキャリアなど個人的な事柄に起因するものもある。むしろこの不安の方が大きい。

 

 大統領選の1回目の投票が行われた5月29日の直前、米ニューヨーク・タイムズ紙は選挙戦を報じる記事の中で、ペトロ氏には独裁主義者と評される筋が垣間見えると伝えている。

 ペトロ氏に10年ほど仕えた後に袂を分かった元側近は、ペトロ氏は議会と正面から向き合わなかっただけでなく、アドバイザーの意見も聞こうとしなかったと話している。元側近は辞任の際にペトロ氏あてに手紙を送ったが、その中でペトロ氏を「暴君」と呼んでいる、と同紙は伝えている。

 ペトロ氏は2012年1月から2015年12月までボゴタ市長を務めた。途中、野党からのリコールで市長職から離れていたことがある。側近やブレーンとの対立も後を絶たず、市の主要ポストは頻繁に人が入れ替わった。

 

 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ペトロ氏が隣国ベネズエラの前大統領で「独裁者」のヒューゴ・チャベス氏と親密な関係にあったことを、度々報じている。2000年代初頭にはチャベス氏のアドバイザー的な存在だったという。同紙は2013年に死去したチャベス氏の葬儀にペトロ氏が出席し、チャベス氏を「ラテンアメリカの優れたリーダー」として称えていたことなどを紹介している。

 

 チャベス氏はベネズエラ大統領選に当選した後、社会主義路線の元で独裁的な政治手法を強めた。死亡した後は後継のマドゥロ現大統領が「独裁政治」を引き継ぎ、政権に反対する国民を弾圧している。米国などの経済制裁もあり、経済はマヒ状態に陥っている。迫害などを逃れるためにベネズエラを出る難民が後を絶たず、国連の調べではベネズエラ難民の数は440万人で、シリア難民に次いで世界で2番目の人数になっている。

 

 米国のブリンケン国務長官はペトロ氏の当選にあたり「コロンビアとの関係をさらに強化することを楽しみにしている」とコメントしたが、米政府内もコロンビアの先行きを危ぶむ見方は強い。米議会も民主、共和ともにコロンビア情勢に懸念を示す声が上がっている。

 コロンビアは2019年2月からベネズエラと断交している。ペトロ氏が8月7日の大統領就任後、すぐにベネズエラとの外交関係を再開するとすれば、米国の懸念は一段と強まる。

 

 

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Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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