社会価値観の変異(Z世代の台頭とお金の流れの変化)から見るサスティナブルファッション
東京ビッグサイトで開催された展示会(SAMPE Japan 先端材料技術展2022)にて、エコノロジーブレイン 代表取締役 増田 信次 氏による「サスティナブルファッションと先端材料成形技術のビジネスマッチング」と題した講演会が行われました。
“脱プラ”の動きは正しいのか?
昨今環境に配慮する取り組みとして“脱プラ”という動きがあります。そのような動きがある大きな理由に、プラスチックは劣化しないので残ってしまうということがあります。
鉄もコンクリートも劣化するので放っておくと自然界に還ることができます。そのためプラスチックを排除しようという動きがあるのですが、一方でプラスチックなくして文明は発展しなかったとも言えます。人口増加とともにプラスチックが増えますし、今後も需要はなくなりません。プラスチックは現状10%ほどしかリサイクル出来ておらず、複合材のFRPに関しては1%か2%と、ほとんどできていない状態です。こうしたことから、一般の人から見てイメージが悪いものになってしまっています。そもそもプラスチックはリサイクルを観点に作られたものではないため、壊せないパーツを使うことで強度を出していたりします。リサイクルが困難なため、絶対母数を減らしていきましょうということが現状の“脱プラ”という動きです。
CFRP・GFRPの現状
今、ロッキー山脈には100mの風車の羽を1/3にして墓石のように寝かせてあります。そしてネバダ砂漠にはCFRP・GFRPを含有している航空機の複合材も放置されています。このままでいいのでしょうか。
「作れば終わり」という時代が終わった
このような問題点を受け、社会の価値観は変容しました。従来はリサイクルするにはコストがかかるから埋め立てればいいや、としていたものがだんだんそのままでは良くなくなってきています。
作る人、加工する人、使う人もSDGsの概念12番にある、“作る責任、使う責任”として企業も何らかの責任を果たさないといけなくなっています。作るだけ作ってあとは産廃屋さんにお任せ、ということができなくなってきました。要するに、もう「作るだけの時代」は終わっているのです。
「燃やしてはならない、埋めてはならない」ヨーロッパの世界を先駆けた取り組み
環境意識の高いヨーロッパでは、FRPを燃やしてはいけない、埋めてはならないと決められています。どうしているかというと、破砕し微粉化して押し出し成形で棒状のものを作り、公園のベンチなどに使用されています。EUのサステイナブル製品開発補助金プロジェクト”ECOBULK”で作られ始めています。では、日本はどうでしょうか。
社会の価値観の変異:1.お金の流れが変わった
日本も、環境に対する意識は大きく変わりました。今、環境にいいことをやっていますという姿勢の会社に投資する人が増えてきていて、何千兆円というお金が投じられていたり、従来ではなかったようなところにお金が動くようになっています。銀行もお金を貸すときに自然環境にこだわっているという会社でないと貸さないようになってきているようです。お金の流れが大きく変わってきています。
社会の価値観の変異:2.サプライチェーンのトレーサビリティ
だれが何を作り、どこへ行っているのかに対していろいろ言われるようになってきました。自動車会社・航空機会社でも作るとき、加工するとき、処理するとき、に二酸化炭素発生のLCAを気にするようになっています。
社会の価値観の変異:3.Z世代(1990年代後半~2010年生まれ)の台頭
20年ほど前の価値観では、仕事で認められて、お金を持ち、車や家を買い、毎晩飲みに行って、旅行に行くというのがステータスでした。しかし今の若者はモノを買わない。家も買わない、車も買わない。しかし環境に対しての意識は高いそうです。急激にこのZ世代が社会のお金を使う世代になって来ていることも、社会変容の理由の一つになっているでしょう。
ファッション産業が抱える問題がプラスチックと酷似
そして、実はファッション産業が抱える問題がプラスチックの持つ問題と似てきています。10年位前からファストファッションが流行し、ファッションも質より量をもつ大量生産、低価格化がすすみました。
そこで、1年に数枚しか買わない人も、価格が低いため10着ほど買うようになりました。まさに衣類のプラスチック化です。ファッションは流行り廃りが激しい業界です。去年のものが今年はもう古いものになってしまうので、売れ残ったとしても沢山作るビジネスです。
また、繊維の70%はナイロンかポリエステルです。洗濯して靴下がすり減るとマイクロプラスチックが流れ出ていることにもなりますし、綿花が使われていたとしても、多くの化学肥料を使います。安い人件費でできるところで縫製をしていて、昔は韓国、中国、台湾でしたが、いまはアフリカでしているようです。これは、人権問題につながってきますし、発展途上国では環境に悪い染料をそのまま川に流してしまっているようです。
衣類の輸出
先進国はリユースするという名目で、作りすぎたものを発展途上国へ輸出しています。例えば日本では、1年間に平均一人18枚買って、そのうちの12枚使って、そもそも着ないものが25枚あり、日本の人口1人に対して37枚くらい捨てられている計算です。(これは2019年の衣類関連のマテリアルバランスです)
リサイクルという名目で輸出が14%、国内のリユーズが20%、償却埋立てが66%とプラスチックに似ている比率になってきています。実は、アメリカ、ドイツ、イギリスに次いで、日本は第4位の廃棄輸出国であり、受け入れ先として、南アジア、南アフリカ、東南アジアなどが輸入しています。
繊維衣類を作るには、植物を育てるので水を使います。シャツ一枚で2300Lの水が必要です。そして、その7割近くを燃やしてしまっています。リサイクルという名目で、南アジアに衣類を輸出していますが、暑い国ではダウンやフリースなど要らない衣類もあります。処理料という名目でお金だけもらっていて、ガーナなど酷いところでは海岸にそのまま置かれていたりします。埋め立てるコストすらかけられないのです。知らず知らずのうちに日本は加害者になっています。
先端複合材技術と成型技術をファッション業界に絡められないか
そこで、エコノロジーブレインは日本が誇る先端複合材技術と成形技術をファッション業界に使えないかと考えます。
廃棄衣類以外にも日本では材料にできそうなプラスチックも沢山あります。プラスチックも大体1,300万tつくられて、そのうちの800万tが捨てられています。他、2,500万tくらいの食品ロスなどもったいないものを集め、『廃材を宝財に』をモットーに廃棄物であってもデザインやブランディングでモノの付加価値をあげることができないかと考えました。
バイオマスプラスチック「LandLoop(ランドループ)」
バイオマスと樹脂原料を融合させる新しい技術を導入して作られています。地球環境や人体に有害な添加剤を使用せずにバイオマスと樹脂原料を高充填させる新しい技術を導入し、ハンガーやオブジェ、キャンプ用品などを展開しています。
「ENDRECHERI × ZOZO」という、24%吉野杉と植物由来のナイロンを使った堂本剛さんのイベントサングラスが販売されました。こちらは、1万2,000本を売り上げましたが、通常のイベントサングラスは800本ほどなので、これだけを見てもこういったものを欲しいと思う人が増えていることが伺えます。
その他、PANECOではジーンズで作ったハンガーや内側にバイオマスのクロス材料を使った、サステイナブルトルソーを開発しました。トルソーは通常GFRPで作られており、リサイクルできないものですが、このトルソーはリサイクルできるし破砕しても粉塵がでません。
今後リサイクルしやすく、燃やしても埋めても環境負荷の低い商品の開発が求められますがエコノロジーブレインではこのような製品の開発をユーザーとともに推進するとのことです。
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田中鮎子(Ayuko Tanaka)
将棋と旅行とYoutube動画作成が趣味。ちなみに将棋で好きな戦法は居飛車穴熊です。
自動車販売店に勤めていたことがあり、自動車のEV化、電池業界と世界のカーボンニュートラル、ガイア理論に大変興味をもっています。
全く人見知りしないことが取り柄で新しい知識を学ぶことやたくさんの人と出会うことが好きです。
ハーブティーとチョコレートが最高のリラックスアイテム。
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