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第80回海洋環境保護委員会(MEPC 80)― 温室効果ガス(GHG)排出削減の一里塚

 2023年7月3日―7日に英国ロンドンの国際海事機関(IMO)本部で開催された、第80回海洋環境保護委員会(MEPC 80)は海運史上に残る画期的な会議で、2018年に採択した「IMO GHG削減戦略」を改定し、国際海運からの温室効果ガス(GHG)排出削減目標を「2050年頃までにGHG排出ゼロ」へと強化した。

 

「2023 IMO GHG削減戦略」

 2018年に採択された「IMO GHG削減戦略」は、「2050年までに50%排出削減」、「今世紀中早期の排出ゼロ」という目標を掲げていたが、それでは不十分との各方面からの批判を受け、2021年から戦略改定の見直し作業を開始、今回、「2050年頃までにGHG排出ゼロ」をはじめとする新たに強化されたGHG削減目標等を盛り込んだ、「2023 IMO GHG削減戦略」を採択した。

 

 現在世界で進行中の脱炭素化の出発点となった2015年パリ協定にはもともと海運は含まれていなかったが、国際海運の規制機関であるIMOは国連専門機関として積極的に削減目標にコミットせざるをえなかった。

 

 国土交通省のサイトによると、IMOの設立以来その理事国を長年務めている日本は、2021年10月「2050年までに国際海運からのGHG排出ゼロを目指す」ことを既に発表しており、今回のIMOの決定は、この日本の提言が世界共通目標になり合意に達したとのこと。これは称賛に値する。

 

 また、「2023 IMO GHG削減戦略」では、ゼロエミッション燃料等使用割合に関する目標が新たに合意されたほか、2050年頃のGHG排出ゼロに向けた削減目安も掲げられることとなった。

 

「2023 IMO GHG削減戦略」に掲げられた国際海運のGHG排出削減目標

IMOで策定する対策(ルール)により達成を目指す目標

 2050年頃までに、GHG排出ゼロ

 2030年までに、ゼロエミッション燃料等の使用割合を5~10%

 2030年までに、CO2排出(輸送量当たり)を40%削減(2008年比)

 

GHG排出ゼロ達成のための今後の削減目安

 2030年までに、GHG排出を20~30%削減(2008年比)

 2040年までに、GHG排出を70~80%削減(2008年比)

 

 今回合意された目標を踏まえ、MEPC 81(2024年4月開催予定)以降、国際海運のGHG排出削減をさらに前進させるための具体的な対策の立案作業が今後本格化する見通し。

 

各国による妥協の産物

 海外メディアが伝えるところによると、最終合意に至るまでには、先進国と途上国、特にグローバルサウスとの間で多くの妥協がなされた模様。GHG排出ゼロの目標年を2050年頃、英語原文では「by or around, i.e. close to 2050」となっているのを見ても、そうかと思わざるをえない。

 

 要は、2050年ごろまでに各国の事情を考慮しつつ、GHG排出実質ゼロを目指すが、中間のチェックポイントとして、2030年までに2008年比20―30%減、2040年までに同70―80%減としたようだ。

 

歴史的な合意だが課題も

 今回のGHG削減戦略の改定を受けて、複数の国際海運団体が改訂を歓迎しつつも今後の課題を指摘するコメントを発表した。

 

 例えば、国際海運会議所(ICS)は現時点ではGHG排出ゼロの燃料を実用レベルで調達できない故、代替燃料の供給面についての危惧があり、今後はエネルギー会社を巻き込んだ議論の早期開始を指摘。同様に、従来型燃料と環境負荷の低い代替燃料の値段差を縮める施策の早期導入の必要性を訴えた。

 

 ボルチック国際海運協議会(BIMCO)は、今後の船隊の増加を考慮すると、個々の船で平均約90%のGHG排出削減が求められると指摘、船舶投資判断の見直しと、設計の変更が必要で、ビジネスモデルも大きな影響を受けると指摘。

 

 規制を課される海運界からすると至極当然のことであり、IMOには海運界の健全で持続可能な企業発展を手助けするようなゼロエミ燃料や船舶投資インセンティブを可能にする政策手段等の議論も期待したい。

 

船上 CO2 回収装置について

 船舶の排ガスからCO2 を分離・回収することで、船舶から排出される GHG を削減する船上 CO2 回収(OCC, Onboard Carbon Capture)技術が開発・検証され始めているようだ。前回の会合において、OCC装置を搭載している場合、回収される CO2 量を EEDI、就航船のエネルギー効率指標(EEXI, Energy Efficiency Existing Ship Index)及び CII の計算において考慮すべき、との提案があった。

 

 今回の会合では、OCC 装置の使用を認めるための規制枠組みを検討するために温室効果ガスに関する中間作業部会(ISWG-GHG)において新規議題を設置することが合意された。

 

 目下、陸上、特に港湾・臨海地域では二酸化炭素回収・貯留(CCS)の実証実験やプロジェクトが国内でも広く実施されているが、船上での二酸化炭素回収に関しては未だ。液化二酸化炭素運搬船も幾つか具体例があり、今後は二酸化炭素の国際移動が頻発するのは必至で、更なる発展が期待される。

 

関連記事:CCS(二酸化炭素回収・貯留)とカーボンリサイクル 

 

 

(IRuniverse H.Nagai)

世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。

 

 

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