CCS(二酸化炭素回収・貯留)とカーボンリサイクル
「CCS」とは、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略であり、二酸化炭素回収・貯留を意味する。工場や発電所などから排出される CO2を大気放散する前に分離・回収し、地中貯留に適した地層まで運び、長期間にわたり安定的に貯留する技術のこと。CO2を貯留するには、地表から1,000m以上の深さにある貯留層(砂岩など)と、ふたの役目をする遮へい層(泥岩など)と呼ばれる CO2を通さない層が必要。貯留地までの輸送は現在、パイプラインと船舶輸送の2通りある。
苫小牧におけるCCS大規模実証試験
北海道の苫小牧では、日本初となるCCSの大規模実証試験(CO2の分離・回収、圧入、貯留、モニタリング)が国家プロジェクトとして実施されている。2012年度から2015年度は、実証試験設備の設計・建設・試運転等が行われ、2016年度から地中へのCO2圧入が開始された。2019年11月22日には、目標である累計30万トンのCO2圧入が達成され、現在は圧入を停止しモニタリングが行われている。
「CCU/カーボンリサイクル」
CCSと並びCO2排出量をおさえる取り組みとして行われているのがCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)で、二酸化炭素回収・有効利用を意味し、分離・回収したCO2を地中に貯留するのではなく、それを資源として捉え、鉱物化や人工光合成、メタネーションによる素材や燃料への再利用等を行うことで「カーボンリサイクル」とも呼ばれる。現在、世界中で実用化に向け産学官連携の下で調査、研究開発、実証実験が果敢に進められている。
「CCS」と「CCU」の二つの技術は、総称して「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)と呼ばれることもある。以下の図は経済産業省のサイト「カーボンリサイクル技術ロードマップ」(令和3年7月改訂)からの抜粋だが、CCUS/カーボンリサイクルの概要が見て取れる。
下図中のEORとはEnhanced Oil Recoveryの略で、石油増進回収法の意味。石油増産・油田延命と二酸化炭素排出抑制対策の一挙両得の技術とされている。油田で自噴する原油は埋蔵原油のごく一部であり、自噴しない原油をさまざまな方法で回収する技術が開発されてきた。EORは火力発電所で大量に排出される炭酸ガスを回収、パイプラインで輸送し、油田の地下に注入し、その圧力で原油生産を図ろうとするもの。
CCUS/カーボンリサイクル概念図 (出典:経済産業省ホームページ)
CCSの最新事例
2023年6月13日、経済産業大臣を主務大臣とする独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けたCCS事業の本格展開のため、2030年までの事業開始と事業の大規模化・圧倒的なコスト削減を目標とするCCS事業7案件を、モデル性のある「先進的CCS事業」として選定した。これにより、2030年までにCO2の年間貯留量約1,300万トンの確保を目指す。JOGMECはCO2の分離・回収から輸送、貯留までのバリューチェーン全体を支援する。
以下が選定された事業7案件。
1)苫小牧地域CCS事業
会社名:石油資源開発株式会社、出光興産株式会社、北海道電力株式会社
貯留地域:苫小牧地域(油ガス田又は帯水層)
貯留量:約150万トン/年
排出源:苫小牧地域製油所、発電所
輸送方式:パイプライン
事業の特徴:CO2を資源として再利用する「CCU/カーボンリサイクル」やバイオマス発電とCCSを組み合わせた「BECCS」とのCO2輸送パイプラインの接続も視野に入れた、CCUS事業を推進する。
2)日本海側東北地方CCS事業
会社名:伊藤忠商事株式会社、日本製鉄株式会社、太平洋セメント株式会社、三菱重工業株式会社、伊藤忠石油開発株式会社、株式会社INPEX、大成建設株式会社
貯留地域:日本海側東北地方他(海域帯水層)
貯留量:約200万トン/年
排出源:全国を幅広くカバー、製鉄所、セメント工場及び貯留候補地の地場排出事業者
輸送方式:船舶及びパイプライン
事業の特徴:鉄鋼、セメント産業などを対象に、複数のCO2排出地域とCO2貯留地域を船舶輸送で結ぶ拡張性の高い広域事業を推進する。
3)東新潟地域CCS事業
会社名:石油資源開発株式会社、東北電力株式会社、三菱ガス化学株式会社、北越コーポレーション株式会社、株式会社野村総合研究所
貯留地域:新潟県内(既存油ガス田)
貯留量:約150万トン/年
排出源:新潟県の化学工場、製紙工場、発電所
輸送方式:パイプライン
事業の特徴:化学、紙、電力などを対象に、既存の油ガス田を活用し、脱炭素燃料や環境価値などの付加価値創出を狙った事業を推進する。
4)首都圏CCS事業
会社名:株式会社INPEX、日本製鉄株式会社、関東天然瓦斯開発株式会社
貯留地域:首都圏他(海域帯水層)
貯留量:約100万トン/年
排出源:首都圏の製鉄所を含む複数産業
輸送方式:パイプライン
事業の特徴:首都圏の主要な臨海コンビナートの排ガスなどを対象とした拡張性の高い事業を推進する。
5)九州北部沖~西部沖CCS事業
会社名:ENEOS株式会社、JX石油開発株式会社、電源開発株式会社
貯留地域:九州北部沖~西部沖(海域帯水層)
貯留量:約300万トン/年
排出源:瀬戸内・九州をカバー、西日本の製油所、火力発電所
輸送方式:船舶及びパイプライン
事業の特徴:瀬戸内を含む西日本広域を対象に、海域での大規模CO2貯留事業を推進する。
6)マレーシア マレー半島東海岸沖CCS事業
会社名:三井物産株式会社
貯留地域:マレーシア マレー半島東海岸沖(海域減退油ガス田、帯水層)
貯留量:約200万トン/年
排出源:近畿・九州地域等の化学・石油精製を含む複数産業
輸送方式:船舶及びパイプライン
事業の特徴:日本からのCO2受入れに積極的なマレーシア国営石油会社との協力事業を推進する。
7)大洋州CCS事業
会社名:三菱商事株式会社、日本製鉄株式会社、ExxonMobil Asia Pacific Pte. Ltd.
貯留地域:大洋州(海域減退油ガス田、帯水層)
貯留量:約200万トン/年
排出源:中部(名古屋、四日市)の製鉄所を含む複数産業
輸送方式:船舶及びパイプライン
事業の特徴:名古屋、四日市の幅広い産業を対象に、大洋州の海域での協力事業を推進する。
(IRuniverse H.Nagai)
世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。
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