熊本大学・外川教授、ポーランドFORS会議で日本の自動車リサイクル現状を発表

MIRU に寄稿いただいている熊本大学・外川教授は、欧州のELV事情にも精通する日本の使用済み自動車問題の第一人者であり、FORS会議の常連でもある。同組織の会長とも懇意な仲である教授は会議場ではVIPだ。
外川教授は、プレゼンテーションの冒頭で主催者のFORS会議会長へ質問を投げかけ、ユーモアを交えた自己紹介とともに日本における使用済み自動車リサイクルの現状を報告した。
日本の使用済自動車リサイクルにおけるプレイヤーの役割:
日本では、自動車メーカー・輸入業者へ、CFC・エアバッグ・ASRの適切な廃棄とリサイクルへの責任が課せられている。ただし、処理費用については、リサイクル料金として自動車のユーザーから徴収されている。また、オイル・鉛バッテリー・タイヤなど解体業者による処理義務や、シュレッダー業者が、破砕残余物を自動車メーカーが指定するASR処理施設へ持ち込む必要があることなどが紹介された。一方で、保険会社も解体業界では重要な役割を担っているが、規制による義務はとくにいない。
日本市場と不法業者の問題:
日本における使用済み自動車市場規模は、2022年の例では認定業者による処理数は約274万台となっている。一方で、欧州ではほとんどの国で多数と言われている不法業者の数については、経産省・環境省の公表データでは、2022年3月末には5,281台と減少傾向にあると考えられている。一方で、不法業者を取り締まるシステムはほとんど皆無と言ってよい状態だ。ただ、その数は非常に少ないと地方自治体が認識しているため、特に懸念事項となっていないという背景もある。これは欧州とは大きく異なる現状である。
中古部品市場:
日本の中古部品市場規模は、2022年の例では約180万ユーロ(JAPRAアンケート回答会社平均)、輸出は約54万ユーロ(JAPRAアンケート回答平均)。中古部品の販売ルートとしては、既存の流通ネットワークがオートパーツネットワークとしてまとまりつつあるものの、ヤフーオークションによる取引が主流となっている。近年の国内中古部品市場は、縮小傾向にある。その背景には若者の車離れ・深刻な問題となっている人口の高齢化・マレーシア・ニュージーランド・東アフリカおよび南アフリカへの輸出が増加していることがある。
EV・ハイブリッド自動車:
EVやハイブリッドの解体については、現在はまだ規制による義務はないが、電気技師や高電圧の取り扱いなどの訓練を受けた技師によって行われているようだ。ただし、日本のEVの多くが中古車として輸出されているため、解体業者による処理数は非常に少ない。駆動用電池については、自動車メーカーが無料で回収するが、リチウムイオン電池の多くは回収業者により再販されている。その際には、放電しモジュールではなくセルの状態にする必要があるらしい。
触媒の盗難:
今回の会議でも各国が問題の一つとして取り上げられていた触媒の盗難は、日本でも頻繁に起こっている。外川教授の知る認定解体業者のほとんどが盗難を経験しているという。盗難対策としては、民間のセキュリティ会社による監視システムを使う業者が増加している。
最後に教授は、日本のリサイクルシステムにおける規制や技術面における改善点として、現在は最低限の設備を満たせば取得できる認定業者の基準強化を挙げた。また、整備士について国家認定はあるものの解体業者における技術ライセンスの導入も重要であると付け加えた。
欧州では、日本における情報が少ないなか、外川教授による貴重な日本の現状報告は参加者の関心を引いていた。
(IRuniverse/MIRU)
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