リサイクルから脱炭素へ 富山県高岡市は挑戦する
今月8日の北国新聞は、国が新たに富山県高岡市を脱炭素先行地域として認定したというニュースを大々的に取り上げています。脱炭素を視点に市場の動きを観察していた者としては、新しい変化を見たような気がしています。
この制度は、令和4年度からスタートした国の事業によるもので、環境省のウェブサイトによると「脱炭素先行地域とは、2050年カーボンニュートラルに向けて、民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出(※)の実質ゼロを実現し、運輸部門や熱利用等も含めてそのほかの温室効果ガス排出削減についても、我が国全体の2030年度目標と整合する削減を地域特性に応じて実現する地域で、「実行の脱炭素ドミノ」のモデルとなります。」とされています。
https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/#about
私が「新しい変化」と感じるのは、採択案件の選考に関する講評を通じて指摘されているポイントの一つに「地域経済への貢献」という、これまであまり注目されてこなかった点が挙げられており、高岡市の場合はリサイクルとの関連性がこれに該当する点が評価されたものと考えられるからです。
過去3回にわたる脱炭素先行地域の選考においては、先進性・モデル性・事業性に加えて将来ビジョンとの関係や地域における合意形成など、脱炭素特に再エネの振興に関する視点が多元的に問われていた中で、既存の地域経済との関係が高く評価された事例は必ずしも多くなかったからです。
見方は様々かと思いますが、高岡市の場合は特にアルミリサイクルとの関係性が高く評価されたようです。つまり、脱炭素の取り組みが太陽光パネルからのアルミ資源の再生を促進し、それが既存のリサイクルビジネスも後押しするという絵姿と思われます。
脱炭素とアルミリサイクル。ここで議論が分かれるかもしれないのは、いわゆる再生材活用がバージン材使用に比べて一般的にカーボンフットプリントが軽いという利点が、アルミについては再生材活用が進展している分だけ「言うほどのアドバンテージはない」という見方もありえる点です。
リサイクルにはいわゆる水平リサイクルという、同質の資源として再生材が循環し続けるモデル以外にも、カスケードリサイクルといって劣後する資材への転用が進むパターンがあります。さらには熱回収も以前はサーマルリサイクルと呼ばれていたわけですが、高岡市の場合はこれらの組み合わせと脱炭素をどのように関連付けたのでしょうか。
そもそも富山県ではアルミ資源の再利用が積極的に進められており、原材料としての水平リサイクル以外にも、カスケードリサイクルについてはたとえば水素キャリアとしてアルミ資源を活用しようとする取り組みが行われています。高岡市はこれらの取り組みの中心的な役割を果たしており、今回の選定に当たっては富山大学と民間企業との連携体制も評価されたものと思われます。
産学連携についてはこちら→https://www.u-toyama.ac.jp/news-topics/46914/
水素の事例についてはこちら→https://www.alhytec.co.jp/
製造業的な視点からすると、せっかくのアルミ資源から水素を取り出す、つまり水平リサイクルが可能な環境にあって、敢えてカスケードリサイクルを進める(残滓は水酸化アルミとなり、別需要が期待されます)ことの妥当性はどうなのかという指摘もあるようですが、結局のところサーキュラーエコノミーは「エコノミー」なので、資源は経済性の高い選択肢へと収斂することになるのだろうと思われます。
水素はカーボンニュートラルを進めるうえで重要なキーワードになることは間違いありませんし、地元・高岡市としても「これを機に」カーボンニュートラルも取り込みたいという意向があるとすればそれは地元企業にとって新たなビジネスチャンスになると言えるものかもしれません。
今後、どのような具体的事案が提案されてゆくのか、楽しみに思えます。創造的かつ建設的な取り組みを期待したいと思います。
* * *
西田 純(オルタナティブ経営コンサルタント)
国連工業開発機関(UNIDO)に16年勤務の後、コンサルタントとして独立。SDGsやサーキュラーエコノミーをテーマに企業の事例を研究している。国立大学法人秋田大学非常勤講師、武蔵野大学環境大学院非常勤講師。サーキュラーエコノミー・広域マルチバリュー循環研究会幹事、循環経済協会会員
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