中国BYD、自前の自動車専用船就航
世界的に完成自動車を輸送する自動車専用船の船腹不足傾向が続いているなか、中国の電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)、本社:広東省深圳市、は、7,000台積み自動車専用船「BYD EXPLORER NO.1」を就航させた。
本船は英国船主のゾディアック・マリタイム(Zodiac Maritime)から用船し運航する。同社はイスラエルの海運系の財閥であるオファー(Ofer)一族の所有。
BYDの原点はバッテリーメーカー
BYDは、1995年にバッテリーメーカーとして中国で創業し、2003年に自動車事業に参入した新興メーカーで、EVを推進する中国政府の後押しもあって、急速に販売を伸ばしてきた経緯がある。BYDの強みは、祖業のバッテリー関連の技術力で、希少金属の使用を抑えたバッテリーを独自開発し、自前で生産することでコストを削減いる。
今やテスラを抜いて世界一
昨年末にEV販売台数において米国のテスラを抜いて世界一位に躍り出たBYDだが、欧州での販売が好調で、自前の自動車船隊を築き、安定的な輸出体制を整える大きな一歩を踏み出した。
BYD EXPLORER NO.1の意義
同船は、中国製自動車の輸出を目的とし、中国の造船所によって製造された中国初の自動車輸送船であるとの触れこみだ。また、LNG(液化天然ガス)2元燃料自動車船で、従来の重油に加えてLNGを燃料として使用できる。中国の中集集団(CIMC、中国深圳市に本社)傘下のYantai CIMC Raffles Shipyard (烟台中集来福士海洋工程有限公司)で建造され、BYDの自動車船隊の最初一番船として、ゾディアックに引き渡された。新造船の竣工を受けて、造船所であるYantai CIMC Raffles Shipyardは国産車を自主輸送する〝国車自運“時代の幕開けとなるとのコメントを発表している。
船舶自動識別装置(AIS)情報に基づいたVesselFinderのオンライン情報によると、同船は今月初めに中国の煙台港などで積み込みを開始、途中シンガポールに寄港、現在はインドのチェンナイ港に寄港すべくインド洋を航行中。その後は、オランダのフリシンゲン(Flushing)港に寄港予定のようだ。
世界最大の自動車輸出国
中国の2023年の自動車輸出は500万台に迫る勢いで、日本を抜き世界最大の輸出国となる見込みのようだ。ただ、中国からの輸出急増に対し、自動車船の供給が追い付かない状況が続いているのが現状で、中国の自動車メーカーは、コンテナ船や多目的船などもフル活用し、また一部は中欧班列として知られる中国と欧州を結ぶユーラシア大陸横断鉄道でも輸送している。
中国自動車メーカーによる建造ラッシュか?
BYDは今回のように船主からの定期用船のほか、自社発注でも自社船舶手配を進めている模様で、英ベッセルズ・バリュー(VesselsValue)によると、BYDは25年納期で自動車専用船6隻の発注残があるとのこと。
上海汽車も自動車船隊拡大
中国自動車大手の上海汽車集団(SAICモーター)は1月17日、中国船舶集団で建造していたLNG(液化天然ガス)2元燃料自動車船「SAIC ANJI SINCERITY」が就航したと発表した。物流子会社の上汽安吉物流が運航し、中国から欧州など向けの海上輸送に投入する。
上汽集車集団の物流を担当する「安吉物流」は自動車船隊31隻を保有し、東南アジアや南米西岸、欧州向けのサービスネットワークを構築している。
因みに、中国での自動車関連物流を強化すべく2018年設立された「上海安吉日邮物流有限公司(英語名:Shanghai NYK-ANJI Logistics Co., Ltd.)」には日本郵船と郵船ロジスティクスが資本参加し、完成車輸送に加え、自動車部品物流を含めたサプライチェーン・ロジスティクスを幅広く展開している。
最後に
自動車専用船の船腹不足が続く中、自動車船用船料も高止まり状態が昨年来から続いているとの海外メディアの報道。英調査会社クラークソン・リサーチによると、1年契約の用船料は1日11万ドルと、平時の5倍を超す水準にあるとの報告。これは円換算で1千6百万を優に超える額だ。
世界で自動車生産が回復し、専用船の需要が高まっている折、世界の自動車メーカーは輸出に苦労しているようだ。
(IRuniverse H.Nagai)
世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。
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