第3回サーキュラーエコノミーシンポジウムの総括 西田純
2024年4月4日に学士会館にて行われたIRUNIVERSE/MIRU主催の第三回サーキュラーエコノミーシンポジウムは、これまでになく濃い講演とポイントを突いた質疑応答の連続で、非常に盛り上がった会合になりました。
(関連記事)日本のサーキュラーエコノミーを牽引するか?東京製鐵のCEへの挑戦
冒頭、環境省環境再生・資源循環局の波戸本課長より、「再生資源化高度化法案」を通じて環境省の政策がこれまでの規制中心から循環産業の振興へと大きく舵を切ったことが明確に発表されました。課長からは「循環経済を日本の国家戦略に」という壮大なビジョンが示されました。
昨年4月に開催された第一回シンポジウムで議論された「サーキュラーエコノミー実現には動静脈連携のあり方が重要となる」という結論を受けて、10月に開催された第二回シンポジウムでは「周囲の環境が整えば・・。」という期待感が示されていたところ、今回の「高度化法案」はまさにその期待感に応えるものとなった感があります。
(高度化法案については、今週の「脱炭素の部屋」をご覧ください。)
それを受けて、国内大手・中堅のリサイクラー各社から、取り組みの現状や今後への期待など、さまざまな発表が相次ぎました。
鈴木商会の駒谷社長からは、漁網のリサイクルなど北海道で展開されている様々な社会課題解決事例の報告に引き続き、AREホールディングスの東浦社長からは、ESG対応に対する社会の負託に応えることが確実に商機を広げることにつながるとのご報告があり、個人的には「制約とおカネの議論に塗りつぶされていた(かつての)資源リサイクル業」の時代とはかなり風向きが変わってきているとの感想を持ちました。
午後の冒頭には、産業資源循環議員連盟の幹事長をされている参議院議員の片山さつき先生からの循環経済に対するエールに続いて、竹中工務店の磯野常務執行役員から建設業における循環経済とESG対応の新たな潮流について、東京製鉄の本松課長から電炉製鉄と脱炭素の関係について、またサイクラーズの福田社長からは、ローテクでもできるサーキュラーエコノミーの工夫と取り組み事例についてのご報告がありました。
他方でTREホールディングスの山下執行役員からは、果たしてサーキュラーエコノミーへの対応が明るい未来を約束するものなのか、残渣の処理を含めた静脈産業の提供する価値との折り合いについてのご指摘があり、大栄環境の下田執行役員からも、最終的な廃棄物処理ビジネスの重要性についてのご発表がありました。
そのうえでエンビプロの中作常務からは、脱炭素要求が待ったなしであること、阪和興業の天野執行役員からも、海外市場へのスクラップ流出問題など喫緊の課題についてのご指摘がありました。
一連のご発表を一言で括れば、「今日の日本で循環産業各社が直面する機会と課題」ということになろうかと思います。そのような流れを受けて、経済産業省産業技術環境局資源循環経済課の吉川課長補佐からは、昨年からの日本政府の取り組みを踏まえた具体的政策の展開についてご説明がありました。特に注目されるのは、動静脈連携のプラットフォームとしても機能することが期待される産官学連携の仕組み「サーキュラーパートナーズ」の実現だと思います。サーキュラーパートナーズについて、詳しくはこちらをご覧ください。https://www.cps.go.jp/member-list
講演の最後を締めくくったのは、UACJの後藤部長によるアルミの循環についてのご報告でした。資源循環の観点から言えば、循環経済と脱炭素を整合的に追及するアルミリサイクルは一つの理想形だろうと思われます。
共有された諸課題にしっかり目配りをしながらも、国内の政策が循環産業振興へと大きくシフトする中で、どのようにこれらの課題を克服し、どのように機会を掴んで行けるのか。今後の具体的な展開と、それを可視化する第四回シンポジウムへの期待が否応なく高まる会だったと思います。
細かい話かもしれませんが、個人的にはまず「現状をしっかりデータで把握する」ためのHSコードの見直しと、それを踏まえた再生資源のトレーサビリティ改善の重要性を強く訴えたいと思います。全体的な議論が加熱され、モメンタムが高まった今こそ見直しの好機ではないでしょうか。この課題についてもぜひ引き続き改善への議論がなされてゆくことを期待したいと思います。
* * *
第二部司会 西田 純(オルタナティブ経営コンサルタント)
国連工業開発機関(UNIDO)に16年勤務の後、コンサルタントとして独立。SDGsやサーキュラーエコノミーをテーマに企業の事例を研究している。国立大学法人秋田大学非常勤講師、武蔵野大学環境大学院非常勤講師。サーキュラーエコノミー・広域マルチバリュー循環研究会幹事、循環経済協会会員
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