週刊バッテリートピックス 「EV貿易摩擦懸念高まる」「パナ車載電池は赤字拡大」など
2024年5月7日~5月12日のバッテリー業界では、電気自動車(EV)を巡る貿易摩擦への懸念が高まった。廉価な中国EVに対し、米国が関税を大幅に引き上げるとの観測が浮上。訪欧した習近平国家主席と欧州側の溝も埋まらなかった。パナソニックの電池事業の不振や、米フォードの後退などもあり、EVと車載電池周りには暗い影が付きまとった。
<国内>
●パナ、車載電池事業は赤字拡大 2025年3月期 来期も減収予想
パナソニックホールディングスが5月9日に発表した2024年3月期の連結決算(国際会計基準)では、米インフレ抑制法(IRA)の影響を除いた車載電池事業が実質的な赤字拡大となった。来期(2025年3月期)も減収の予想で、成長事業としていただけに経営陣に高揚感はなかった。
同社の2024年3月期の連結決算は、売上高が前期比1.4%増の8兆4964億円、調整後営業利益が同24.2%増の3900億円、営業利益が同25.1%増の3609億円、当期純利益が同67.2%増の4439億円だった。純利益は過去最高を更新した
このうち、車載電池事業を請け負うエナジーは、売上高が前期比6%減の9159億円、調整後営業利益が前期に比べて550億円増加の946億円だった。しかし、IRA補助金を除くと318億円減の78億円。さらに、車載電池だけを取り出すと、国内工場の減販損や過去の不具合品対応費用の影響が大きく、前期の107億円の黒字から187億円の赤字に転落した。
車載電池事業は、2025年3月期も売上高が6240億円と前年から824億円減少する見通し。主力の北米で増販を計画するものの、EV需要は拡大ペースが鈍化しており、日本国内の販売増も見込めない。原材料価格低下に伴う値下げと為替差損も響きそうだ。
プレスリリース:リリース (holdings.panasonic)
●郵船ロジスティック、村田製の水素トラック導入 中国で
郵船ロジスティクス株式会社は5月9日、自社ホームページ上で、「中国法人Yusen Logistics (China) Co.Ltd. (YLCN)が、村田製作所の中国統括会社である村田(中国)投資有限公司(村田中国)の水素燃料電池トラックを導入する」と発表した。物流面での環境保護貢献で協力する。
今回導入した水素燃料電池トラックは、無錫市の生産工場から蘇州市への配送を担う。1回の水素充填で最大約400km走行でき、輸送域内には水素ステーションも設置されているとしている。
プレスリリース: 水素燃料電池トラック導入で 村田製作所グループの環境に配慮した サプライチェーンの構築をサポート | 郵船ロジスティクス | 日本 (yusen-logistics.com)
●三菱電機、月周回有人拠点ゲートウェイ向けリチウムイオンバッテリーを受注
(JAXAホームページより)
三菱電機は5月9日、自社ホームページ上で、「宇宙航空研究開発機構(JAXA)から、2025年に建設開始予定の月周回有人拠点「Gateway(ゲートウェイ)」向け宇宙用リチウムイオンバッテリーを新たに受注した」と発表した。
米国が主導する月面探査プログラム「アルテミス計画(Artemis Program)」での日本の貢献分としてゲートウェイ居住棟への機器(バッテリー等)の提供が合意されていることに基づく。三菱電機は、米国のMaxar Space Systems(本社:米コロラド州)から、同社が開発を担当するゲートウェイの電気・推進エレメントPower and Propulsion Element(PPE)向けにも、リチウムイオンバッテリーセルを受注し納入してもいる。
プレスリリース: 三菱電機 ニュースリリース 月周回有人拠点「ゲートウェイ」向け宇宙用リチウムイオンバッテリーを受注 (mitsubishielectric.co.jp)
●早大教授が車載用リチウムイオン電池で講演 東大生産研の特別研究会
宇恵(うえ)誠氏(早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 研究院客員教授)は5月7日、東京大学生産技術研究所で開催の「第9回材料の腐食と寿命に関する特別研究会」で、「車載用リチウムイオン電池の現状と動向」と題して講演した。同氏はリチウムイオンの研究歴が20年に及ぶ。
関連記事:車載用リチウムイオン電池の現状と動向 東大生産研 | MIRU (iru-miru.com)
<海外>
●米フォード、電池発注縮小か 消息筋、EV赤字食い止めへ
米自動車大手フォード・モーターが、電池サプライヤーへの発注を減らし始めたもようだ。米ブルームバーグ通信が5月11日、消息筋の情報として伝えた。EV事業の赤字拡大を食い止めるためとみられる。
フォードを巡ってはロイター通信が5月9日、同社が同日、「欧州で2030年以降もガソリン車とハイブリッド車を販売することを検討していると明かした」と伝えていた。2020年代末までに欧州で全製品をEVにするとした2021年発表の計画からの方針転換となっていた。
●米、中国EVへの関税4倍に WSJ報道
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは5月10日、バイデン米政権が中国製EVへの関税を現在の4倍の100%に引き上げると報じた。車載電池や電池生産に不可欠な重要鉱物への関税引き上げも検討する。早ければ5月13日以降に発表する。
トランプ前政権で段階的に発動した、不公正な貿易に対して一方的な制裁措置を発動できる通商法301条に基づく措置。中国製の廉価なEVや太陽電池などの輸出が世界経済を混乱させるとの懸念が高まる中、米国や欧州で広がる自国産業の保護の動きの一環となる。
一方、ロイター通信は5月8日、中国当局がリチウム電池市場の規制案を公表したと伝えた。中国の工業情報化省は4月30日にEV産業の規制案を発表していた。
●ユミコア、フィンランド国営のガスムから電力供給契約 Lib電池材料の工場向け
非鉄金属リサイクルのユミコアは5月7日、自社ホームページ上で、「フィンランド国営エネルギーのガスム(Gasum)との間で、認定再生可能電力の供給契約を結んだ」と発表した。ユミコアのフィンランドLiB電池材料前駆体工場向けに年間約35ギガワット時(GWh)の電力を供給する。両社の供給契約は今回で2回目。
関連記事:ユミコア・フィンランドLiB電池材料工場・再生可能電力拡大 | MIRU (iru-miru.com)
(IR Universe Kure)
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