Bangkokを行く! その1 リアルなタイ経済とEV、リサイクル市場概況
7月23日~27日までタイのバンコクに滞在し、現地のリサイクル企業やインドの金属リサイクル企業団体であるMRAIの国際会議にも参加し、多くの方々と出会った。MRAI/IBSで出会った方々も含めて、できる限り多くの現地情報を紹介していきたい。第1回目は、まず全体概況から。
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タイは正式名称をタイ王国と言い、2016年に即位したラーマ10世が治める立憲君主制の国です。東南アジアに位置しており、ミャンマー、ラオス、カンボジア、マレーシアの4ヵ国と国境を接しています。タイの地理は多様で、北部は山々が広がり、南部は美しいビーチとトロピカルな島々があります。中央部には、メコン川やチャオプラヤ川などの重要な河川が流れバンコクを含む肥沃な平野が広がっています。
タイの人口は約6,600万人で、タイ族の他に華人やマレー族など多様な民族グループが暮らしています。主要な言語はタイ語ですが、バンコク中心地のホテルやショッピングモール、駅、繁華街のレストランなどでは英語や一部日本語も通じる。
それは、かつて、という言い方になるが、タイに多くの日本企業が進出した証でもあり、それは「夜の街」においても顕著で、いかにも日本人客を想定した様々な、色とりどりの「看板」がいくつもあった。
しかし看板は看板でも企業の広告でいうと、まずスワンナプーム空港近くの巨大な看板は中国のEVメーカーBYDなど中国EVメーカーが独占していた。他でもビルのサイネージ企業広告は中国企業が目立つ。
「タイの基礎データ」
★5,135億ドル(名目、2023年、タイ国家経済社会開発委員会)
★製造業が主要産業となっており、タイGDPの約30%を稼いでいる。一方、農業については、就業者数ではタイ就業者数全体の約30%を占める産業となっているが、GDPのシェアでは10%未満にとどまる。また、タイ経済の柱は観光であり、例えば、新型コロナウィルス感染症拡大前の2019年には海外からの観光収入が605億ドル(世界第4位)となった。
★主要な貿易品目
(1)輸出 機械、自動車・同部品、電機機器・同部品(2023年、タイ商務省)
(2)輸入 原油、電機機器・同部品、機械・同部品、化学品(2023年、タイ商務省)
主要な貿易相手国は
(1)輸出 1.米国(17.2%)2.中国(12.0%)3.日本(8.7%)
(2)輸入 1.中国(24.4%)2.日本(10.8%)3.米国(6.7%)
しかしながら、後述するが2024年第1四半期のタイ経済はやや減速している。
タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)は5月20日、2024年第1四半期(1~3月)の実質GDP成長率が前年同期比1.5%と発表した。サービス輸出、個人消費、民間投資の拡大が牽引役となったものの、財輸出、公共投資、政府消費が縮小し、2023年第4四半期(10~12月)の1.7%から鈍化した。他方、季節調整済み前期比では1.1%で、2023年第4四半期のマイナス0.4%から加速した。
2024年第1四半期の実質GDP成長率を需要項目別でみると、個人消費支出は前年同期比6.9%で、前期(7.4%)からやや減速したものの、引き続き好調だった。宿泊施設、飲食サービスは42.7%増と、前期(35.4%増)からさらに加速した一方で、家計での自動車購入の減少が主因として影響し、耐久財支出は6.8%減(前期3.7%増)と、個人消費支出の内訳項目で唯一のマイナスとなった。
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昨年来、タイには中国のEVが多く入ってきたと聞いていたが、実際に道を走っているとそうでもない。やはりトヨタ車が多いのだが、その点をタイ在住のタングステンリサイクル企業の方に聞くと
「確かに昨年はBYDはじめ中国のEVがかなり入ってきましたが、故障が多かったことと、充電スタンドがあまりにも少ないことでブームは終わり、再びトヨタ車が中心になっている」とのこと。ただ、中国企業が買収したMG(イギリスのスポーツカーメーカー)というエンブレムのクルマも多く走っており、今後もタイ市場を狙っての中国自動車メーカーの攻勢は続くと思われた。
一方で、日本の自動車メーカーはすでにスズキ、SUBARUは撤退を表明。バンコク週報によると
「スズキとスバルが先ごろ、タイの4輪車工場の閉鎖を発表したが、タイ工業連盟(FTI)は、これがタイの自動車産業に影響することを懸念している。
スズキはタイ工場を2025年末までに閉鎖する予定で、スバルも現地生産工場を閉鎖すると発表した。タイで5年にわたって赤字が続いているというスバルは、今年末までにタイ工場を閉鎖する予定で、25年以降は日本からの輸入に切り替え、販売は継続する。
FTI自動車部品部会のスポット部会長は、「スズキとスバルのタイ工場閉鎖は、これら2社のタイでの生産規模がそれほど大きくないため、タイの自動車部品産業に甚大な影響を与えることはないだろう。だが、タイ自動車産業への投資を検討している企業への影響は少なくない」と指摘する。 タイでは、政府の電気自動車(EV)産業成長促進政策もあり、中国のEVメーカーの勢いが増しているが、FTIによれば、タイに進出しているスズキ、スバル以外の日系自動車メーカーは、タイを輸出拠点としているほか、タイ国内の部品や人材の供給が他国より優れていることから、今後もタイで事業を継続することを確信しているとのことだ。」(2024年6月14日付け)
これに続いてホンダも現地での生産を縮小すると発表している。
代わって増えているのは、やはり中国企業そして韓国企業だという。
続いて首都バンコクの状況。
首都バンコクの人口は約550万人です。バンコクはタイの政治、経済、文化の中心地であり、国内外から多くの観光客やビジネスマンが訪れます。その街並みは前述の通り、高層ビルやモダンなショッピングモールと古い寺院や宮殿が共存しており独自の魅力を持っています。
タイの国旗は水平に赤、白、青の3色5本のストライプで構成されています。
赤は国家と国民を、白は建国神話に登場する白象に由来し、仏教への信仰心を意味しています。中心の青はタイ王室の色で、赤と白のストライプの倍の幅があります。
ここにも現地に来てそうかとわかるのは、タイでは王室の権力は絶対で、どこの会社やビルにも王様一族の絵が飾られている。そうしなければならないようだ。また土地も王室がかなり保有しているとのこと。
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2024年現在のタイ経済状況だが、かなり悪化しているとのこと。
タイ工業連盟(FTI)によれば、今年6月のタイ業況判断指数(TISI)は過去24カ月で最低の87.2ポイントだった。生産コスト上昇に中小企業が喘ぐ中、景気低迷が続いていることなどが要因という。この指数は、FTIが46業種に及ぶ加盟1341社を対象に実施する調査結果に基づいたもので、100ポイント超えが「業況好感」を意味する。
クリエンサクFTI会長は、「6月の指数は2022年7月から現在までの最低値。景気がなかなか回復せず、消費者の購買力も改善せずに販売が低調であり、注文も生産も落ち込んでいることが大きな理由」と説明している。
現地筋によると、特に中国向け輸出商品が伸び悩んでいることでタイ経済は低迷しているという。「前年比で3割~4割はダウンしている。不況でローンを組めない人も増えており、この傾向はこの先ますます強まっていくだろう」とは現地で居酒屋を経営する方の肌感の話。他方、大麻が合法となっているタイでは、一説にはコンビニよりも大麻の店が多く7000店ほど存在するという。ちなみに、コンビニは圧倒的にセブンイレブンが多い。この大麻の合法化も観光客を呼び込むための施策だったようだが、広がりすぎていることで規制の必要性が議論されているとのこと。
Bangkokでは若い方々も目立つ。中心部のフードコートタワーには多くの若者が集っており、また海外の観光客もかなりみられる。日本以上に景気は良さそうだが、実際のところはそうでもないらしい。自動車の生産も年間170万台程度(うち80万台は輸出)で頭打ちというところ。電子部品産業はベトナムに移っていったりなど、タイの「空洞化」も進んでいるようだ。
しかし、これがリサイクル業界になると逆で、マレーシアから撤退してタイに移転する企業は増えている。ということは日本でも耳にしていたが、実際、タイの保税ヤードならびに近隣にはかなりな「中華系」のヤードが中華圏を形成しているのだという。現地リサイクラーによると「マレーシアの輸入規制が厳しくなっていること、相場が安いことでタイでの進出を決めた」という。また、中国系のEVメーカー、BYDなどがタイで現地生産を行うこともマレーシアからタイへの移転を決めた理由のひとつだという。
保税ヤードではBO1(投資委員会)の監査を受けなくとも良いこと、タイ側に入ると税金もかかってくることから、保税ヤードを使いこなしているリサイクル企業はかなり多いという。無論、保税ヤードとローカルヤードを保有している会社もある。
また、インドネシアほどではないが、タイのリサイクル業界もところどころでマフィア関係の企業が入っている様子。某企業などは一時期、そうした関係筋の企業に狙われているという噂がたち、社用車は防弾仕様、社長、役員は防弾チョッキを着用していたこともあるという。
こうした背景をもつBangkokでいくつかの企業を取材したので、今後、順次報告していきたい。
その2に続く
(IRUNIVERSE YUJI TANAMACHI)
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