【年末企画・モリブデン】堅調 静かな1年、前年の乱高下の反動で慎重な動き
鉄鋼添加剤などに使われるモリブデン価格は、2024年は堅調に推移した。銅の副産物として産出されるが、先高観の強さから銅に生産が集中する中、置き去りにされる形で生産が減り、価格が高止まりした。2023年に乱高下した反動もあり、年間を通して安定した推移となった。
■生産消費ともに小幅な伸び
国際モリブデン協会(IMOA)が12月18日に日発表した資料によると、2024年7-9月期のモリブデンの世界生産量は前四半期比で2%、消費量も2%それぞれ増えた。前年同期では生産量は変わらなかったが、消費量は前年同期比3%増となった。いずれも小幅な伸びで、堅調な市場を映した。
過去1年間の酸化モリブデン価格の推移($/LB)
鉄鉱添加剤の酸化モリブデンは12月1日に$21.75/LBを付けた。年初からは18.5%高い水準となる。ただ、2024年の値動きは小さかった。最高値(7月3日の$23.75)と最安値(1月3日の$18.35)の値幅は29.4%で、2023年の108.3%に比べ小さかった。2023年に比べると、2024年はほぼ動きがなかったと言っていい。$18を突き抜けて売り込む動きはなかったが、上値も$20台前半で限定的だった。
過去1年間のフェロモリブデン価格の推移(basis 65%min)($/kg Mo)
一方、モリブデン合金のフェロモリブデン価格の12月19日仲値は$50.45/kgで、年初よりも4.6%高い水準となった。2023年は2月に$105.5まで上げた後に11月に$41.5に下落するなど乱高下していた。2024年は、比べればやはりほぼ動きのない一年だったことになる。
■銅価格の上昇でモリブデンは「置き去り」か
モリブデンはコバルトと同じく銅の副産物だが、コバルトと違い電気自動車(EV)向け材料として中国勢が確保する動きも特にない。このため、採掘現場では「銅のみ回収してモリブデンは放置された」(Ferroalloy.net)との指摘があった。例えばモリブデンの主要生産国の1つであるチリでは、モリブデンのみを生産するプライマリー鉱山ではなく、他の金属の副産物としてモリブデンを回収するハイプロダクト鉱山が多い。ハイプロダクト鉱山では経営の足かせにならない程度に副産物を回収するのが基本であるため、2024年のように銅相場が急騰すると鉱山側の生産労力が銅に集まり、モリブデン生産は置き去りにされ、結果的に減産となった。
一方、中国の不動産市況で建材としての鉄鋼需要も少なかった。中国の鉄鋼専門メディアのmySteelが9月末に発表したレポートによると、この年の中国の製鉄所は2023年の相場乱高下に懲りて、様子を見ながら買いだめする動きが目立った。多くの製鉄所が在庫を十分に抱えた状態で入札に臨んだため高値追いは盛り上がらず、供給が細り気味でもタイト感は限られた。
■中国不動産の回復が待たれるが
2025年の価格動向については、鉄鋼需要、すなわち中国不動産市況の回復が何よりも待たれる。ただ、これはなかなか難しそうだ。中国当局は9月下旬から断続的に景気刺激策を打ち出したが、金融市場での操作が中心で、不動産市況を直接に刺激する対策は乏しい。
中国の主な景気対策
(中国人民銀行、中国発展改革委員会など中国当局の発表をもとにIR Universeが作成)
供給も銅相場の一服とともに、チリなどで過度の「置き去り」が見直される可能性があり、また中国では新規の鉱山の認可が進んでいるとの報道もある。2025年は供給はやや増えるかもしれず、価格の下押し材料が出てくる懸念がある。何よりも需要が回復しなければ、価格上昇には勢いが出ないだろう。
(IR Universe Kure)
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