トランプ王国を超えるAIと資源国カナダの移民国家としての実力
某国の王様が自分の国の51番目の州に加えたいと述べた国・カナダの実力と将来性を現在カナダ全権大使の山野内勘二さんが「カナダ―資源・ハイテク・移民が拓く未来の“準超大国”」中公新書で昨年12月発刊した。
自分もカナダと言う国との因縁がある。30代に勤務した工場はカナダ企業が50%を出資する鉛製錬会社で、原料鉱石はカナダのノーザン・テリトリーと言う北極圏で冬は零下30度にも達する極地から採掘した鉛精鉱を使用していた。カナダの鉱山会社はこの様な極限的な気候でも鉱山を探査・開発し、採掘する実力を備えている。その会社はその後アラスカでレッド・ドッグと言う亜鉛鉛の大鉱山も開発した。
鉱山開発分野において、カナダは、2021年では①中国、②豪州、③印度に次ぐ第4位であった。当時の開発予定額は約$250億であった。しかし2025年には豪州や印度を抑え中国に次ぐ世界第2位の鉱山開発が行われ、かつ驚くことに開発用定額が$362億まで45%増加している。
トランプ2.0ではアラスカ州の天然ガスプロジェクトを石破首相は提示されたが、カナダのBC州には既にモントニュー・シェールガス開発プロジェクトで年間1,400万トンのLNGを生産する国際コンソーシアム・LNGカナダデベロップメント社があり、三菱商事の子会社も15%出資している。
日本のLNG輸入は世界第2位で年間7,500万トンも輸入している。輸入元は①豪州43%、②マレーシア17%、③ロシア10%、④米国6%となっており、米国からの輸入量は450万トンと推定される。この大規模エネルギー輸入国へトラ2.0が目を付けたと推測される。
山野内さんは資源だけではなく、AIもカナダで開発された事を伝えている。現在のAIの元となるアイデアは、ディープラーニングから出発する。トロント大学でディープラーニングを開発したのは、ジェフェリー・ヒントン、ヨシュア・ベンジオ、ヤン・ルカンの3人の研究者で、共にトロント大学での共同研究でディープラーニングを開発し進化させた功績でコンピューターサイエンスのノーベル賞と言われているチューリング賞を受賞し、“AIのゴッドファーザー”と称されている。更にヒントン教授は2024年10月ノーベル物理学賞も受賞した。
カナダの鉱業政策では、リチウム、黒鉛、ニッケル、コバルト、銅、希土類金属を重点鉱業政策に挙げている。これらは今後の世界経済を支える重要鉱物で有り、カナダ政府はこれらが将来の米国を支えるとまで述べてきた。この様な援軍の国を属国扱いしてカナダ国民のアメリカ嫌いが増幅している。
カナダはウクライナとも無縁な国ではない。カナダへの移民では漠然と欧州の英国やフランスなどの移民の国と考えてきたが、1914年の第一次世界大戦で欧州はオーストリア・ハンガリー帝国が崩壊寸前で、ロシア帝国はウクライナを政治的・宗教的に弾圧した。その結果、ウクライナやポーランドの市民が夢を求めてカナダに大勢移住したと言う。カナダの人口はその当時大きく増加した。現在のカナダの人口は2023年4,000万人に達し、第一次世界大戦当時の約5倍に達している。
カナダは世界中の市民を受け入れ、優秀な市民の能力を公平に育てている。今は米国の市場と密接な関係を保っているが、この先の将来はカナダが隣国の米国を牽引する大国になると山野内大使は日本へ呼びかけている。真に日本が提携するべきパートナーはどの国であろうか。
(IRUNIVERSE Katagiri)
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