2025地球温暖化防止展で 脱炭素フォーラムwith SDGs「水素社会の展開」の展示紹介
2025年5月28日から30日まで、東京ビッグサイトで「NEW環境展」「地球温暖化防止展」が開催された。
本記事では、地球温暖化防止展の「2025脱炭素フォーラム with SDGs <水素社会の展開>」における展示内容について紹介していく。
2025脱炭素フォーラム with SDGs <水素社会の展開>
東京ビッグサイト東6ホールで開催された「2025脱炭素フォーラム with SDGs」では、地球温暖化防止展の一環として「水素社会の展開」に焦点を当てた展示が行われた。
水素はCO2を排出しないクリーンなエネルギーとして注目を集めており、国際的な脱炭素化およびエネルギー転換における重要なトレンドの一つとなっている。特に、再生可能エネルギーを用いて水を電気分解することで製造される「グリーン水素」については、その実用化に大きな期待が寄せられている。
展示会場では水素を活用した各種製品の展示に加え、東京都が推進する水素社会の実現に向けた取り組みなどが紹介されていた。
各社の取り組み
トヨタ自動車株式会社は自社開発の燃料電池車(FCEV)「MIRAI」に搭載されている技術を応用し、環境に配慮した「水素で動くキッチンカー」を開発・展示した。この車両は車両の動力だけでなく、IHクッキングヒーターやスチームオーブン、冷蔵庫、換気扇などの調理機器も水素を使った燃料電池で発電された電力で稼働させている。
本車両の最大の特長はCO2を排出しないクリーンなエネルギーを使っている点であるが、そのほかにも
・排気ガスが発生しないため、ニオイが少なくキッチンカーの周囲で快適に食事を楽しめる
・エンジン音や振動が小さく、静かな環境で調理を行うことができる
・排ガス規制のある地域でも利用可能であり、自然豊かな公園やキャンプ場などでも活躍できる
といった利点がある。
同社は各種イベントに出展する際、燃料電池を搭載したオーブンで焼いた「モリゾウドーナツ」を提供するなど、食体験を通じて水素エネルギーの普及活動をしている。また、教育現場においても水素社会への理解を深める教材として活用されており、探究学習の一環としての導入が進んでいる。
同社は今後も「水素で動くキッチンカー」を水素社会の実現に向けた取り組みの重要な広報手段として位置づけ、さらなる普及と理解促進を図っていく考えである。
トヨタ紡織株式会社は燃料電池車(FCEV)「MIRAI」向けの部品を複数製造している。中でも、燃料電池の耐久性・小型化において重要な役割を果たすセパレータ(燃料電池セル内の各構成要素を電気的・機械的に仕切る板状の部品)を担当している。同社は独自工法および金型技術により、精緻な水素流路を形成した小型セパレータを製造し、これをアッセンブリ化した手のひらサイズの小型FCスタックの開発を実現した。
加えて、独自の燃料電池システム「ハイドロジェンパワーシステム」を開発し、これらの技術を電動アシスト自転車に搭載することで「水素自転車」を開発した。本システムの大きな特徴は、水素タンクと燃料電池をつなぐ水冷式熱循環システムを採用している点にある。従来、水素タンクは水素を吐出し続けることで周囲の熱を奪い、温度が低下して吐出が不安定になるのでヒーターを用いた保温が必要とされていた。一方、燃料電池は発電時に発熱するため、両者の熱的特性を組み合わせて相互に熱を循環させることでヒーターを用いずに安定した運転を可能にし、水素自転車の小型化と効率化にも寄与している。
水素自転車の水素タンクの容量は約200リットルで、20〜30分で充填が完了する。フル充填時には約30〜50キロメートルの走行が可能であり、将来的には最長100キロメートルの航続距離を目指している。用途としては、観光地でのツーリングや高齢者向け三輪バイクなど、多様な展開が計画されている。
担当者によると、将来的には医療現場で使用される電動車椅子への応用をはじめとした多様な小型モビリティへの展開や、川崎重工株式会社が開発し水素エンジンを動力源とする四足歩行型ロボット「CORLEO(コルレオ)」とのコラボレーションを期待しているとのこと。
株式会社アイシンは家庭用燃料電池および自動車部品で培った技術を活用し、水素で発電するポータブル燃料電池発電機を開発した。本発電機は従来のガソリン発電機に比べて約35%の軽量化を達成し、-30度の寒冷地でも始動できることが確認されている。
従来型のガソリン発電機は振動や騒音、さらには排気ガスの問題により、キャンプ場などの自然環境下での利用が制限されることが多かった。本発電機は静音性に優れ、CO2を含む排気ガスを一切排出しないことから自然環境が保たれたアウトドアシーンでの使用が可能であり、新たな電源ソリューションとして期待されている。同社は今後、このポータブル発電機に搭載した空冷式燃料電池モジュールの技術を基盤とし、ドローン、小型ボート、農業機械など、小型モビリティ分野への技術展開を視野に入れている。
一方、水素燃料電池の普及における最大の課題として「高圧ガス保安法に基づく有資格者でなければ水素の充填が行えない」という現行制度上の制約がある。現状ではユーザーが空の水素タンクを事業者に渡して充填してもらう必要があり、一般利用における利便性を阻む要因となっている。
将来的には誰でも安全に水素を充填できるような水素ステーションの整備と、それに伴う法制度の見直しが不可欠であるとし、インフラ面・制度面の双方からアプローチしながら水素社会の拡大と日常生活への定着を目指していくと担当者は語っている。
水素社会の実現に向けた取り組みは脱炭素社会の構築に大きく寄与するものとして、近年ますます注目を集めている。本フォーラムで展示された取り組みからは実用化に向けて進んでいるものも多く、水素社会の可能性を身近に感じることができた。一方で、水素社会の普及を進めるには水素タンクの取り扱いやインフラの整備などといった課題が依然として残されている。今後も水素社会の実現に向けた進展を注視していきたい。
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Midori Fushimi / 記者
大学院修了後、某メーカー研究所で産業用・自動車用モーターの制御手法の研究開発をしていました。この頃は旧姓Takaokaで活動。退職後は北欧デンマークに1年ほど住み、現地の風力発電施設やゴミ処理場、農場などを見学。帰国後に静岡でフリーライターとして活動。執筆領域は自動車、産業機器、エネルギー関係、リサイクル分野など。趣味は登山・キャンプ・サッカー観戦。
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