プラスチック再生材25%義務化めぐり業界二分: 欧州リサイクル連盟会長が反論
プラスチック再生材使用の義務化は、ELV規則案のなかで最も注目を浴びている要件の一つであり、関連業界内でも意見が大きく分かれている。これは特に自動車メーカーとプラスチックリサイクル業者の間で顕著である。
欧州の自動車メーカーは、フランスのメーカーを除き、影響力の強い独自動車メーカーをはじめとする大部分が25%の目標値は達成不可能だと主張しており、引き下げを要求している。その一方で、プラスチックリサイクル業者は、25%は十分達成可能とし強い支持を表明する。
こうした意見の違いの背景には何があるのか?今回MIRUでは、プラスチックリサイクルを手掛ける仏大手リサイクルGallooの元開発部長(現在定年退職)であり、現在は欧州を代表するリサイクル連盟EuRICの会長を務めるOlivier François氏へこの質問を投げかけた。
1997年に創設されたGallooの子会社Gallo Plasticsは、使用済自動車やWEEEの破砕残渣からプラスチックを回収し、産業規模のリサイクルを行なっている。同社施設のプラスチック処理能力は年間9万トン。再生材は、自動車業界で使用されるPP(ポリプロピレン)が主流だが、PS(ポリスチレン)は主に電気・電子機器のコンポーネントや家具に使用されている。また同社は、欧州におけるクローズドループリサイクルの牽引者でもあり、使用済自動車由来のプラスチック廃棄物を新部品生産に使用できる品質のPPを生産する。
―EUはプラスチック再生材の使用を義務付けようとしていますが、その数値をめぐり意見が大きく分かれています。自動車メーカーの多くが25%は現実的ではないと引き下げを要求していますが、リサイクラーの立場からこの点についてどのようにお考えですか?
フランソワ氏:欧州の規制は過去30年間、リサイクルと原料回収を義務付ける規制のみでした。リサイクルするのはいい。だがその後どうするのか?リサイクル材料の用途がなければ、リサイクルする意味はありません。我々リサイクル業者は約30年の間この問題に直面してきました。我々の業界が欧州委員会に求めているものは、新規制です。現在準備されているELV規則の草案は、プラスチック再生材使用を義務化しようとしている。これが、我々業界が長年待ち望んでいたことです。この使用義務の設定が「真の再生材市場」を構築する鍵なのです。
現在は、「真のプラスチック再生材市場」は存在しません。当社はプラスチック再生材を生産しており、ルノー、プジョーのような一部の自動車メーカーがこれを使用しています。ただ、需要は石油価格に大きく左右されます。価格が下がると、再生材需要も下がります。バージン材の値段が下がれば、リサイクル材は競争には勝てません。
現在は石油価格が比較的低いので需要は軟調です。再生材は石油価格には依存しないので、すべてのコストは固定費用です。これらは、投資・労働・保険・エネルギーコストなどで、削減できないコストです。一方で石油価格が上がれば、当社への自動車メーカーからの注文も上昇するのですが。近年では、21年、22年に原材料危機がありました。石油価格が高騰し、当社の事業にとっては非常に良い年でした。問題は、石油価格の下降時の事業運営なのです。
これは、当社Galloo Plasticsだけでなく、プラスチック再生材を手がける業者にとっても同様です。欧州のプラスチックリサイクラーのほとんどが今日、実際の処理能力の50%しか稼働していないと思います。我々業界が規制に期待することは、市場需要の創出です。自由市場と言いますが、自由市場のみに依存すれば、例えば脱炭素化は決して達成できないでしょう。産業の循環型への移行実現も難しい。自由市場においては、消費者にとっての「最良」は結局のところ低価格なのです。そのため循環型の市場創出には、規制による牽引が必須なのです。
現在欧州委員会が提案しているのはプラスチック再生材25%、クローズドループはわずか6%強(6.25%)です。これは十分に達成可能な数字です。計算すると、車両1台あたり12kgのクローズドループによる再生材です。今日、車両には約200kgのプラスチックが使用されていることを考えれば、12kgという数字はわずかだ。決して難しいことではなく、ルノーのような会社は、20年以上前からこの数字を超える量の使用を実践している。
ただ、目標値は極端に高いものでは無理が生じます。例えば目標値が50%となると、材料の供給が困難になるでしょう。我々業界もさらなる投資と時間が必要となります。すでに述べましたが、プラスチックリサイクル業界は実際の処理能力の50%しか稼働していないため、常にフル稼働できるような安定した需要が創出されれば、すでに大きな改善です。
しかし、同じ方向を見ていない一部の産業団体によるロビー活動も盛んに行われています。例えば、欧州自動車工業会(ACEA)ですが、この組織はドイツ・フォルクスワーゲンが大きな影響力を持っています。同社は、「再生材義務の目標値などで煩わされたくない。自動車業界は、他にもっと大きなトラブルを抱えている」と訴え、化学的理論を持ち出し、「実行不可能」だと主張する。例えば、プラスチック再生材には懸念物質の問題があるなどです。
残念ながらブリュッセルには、我々が「バブル」と呼ぶ現象があり、そこでは常に嘘や虚偽情報が渦巻いています。パリやベルリンなど、権力が集まる場所では同じ現象が見られます。「できる・できない」がこの権力構造の中で決定される傾向にあり、それは必ずしも真実に基づくものではない。なぜなら、政治家のほとんどは専門家ではないからです。例えば、欧州議会の議員ですが、彼らは当然ながら、我々の事業については何も知らない。論文や資料を読んで、さあ何ができるか?と考えているわけです。現在、ELV規則案の修正作業では、欧州議会は混乱状態です。私が会長を務める欧州リサイクル連盟EuRIC連盟でも、EUに対しできるだけ情報を提供し、説明しようと試みてはいますが、自動車関連業界における数百の声の中で1つでしかありません。
―現在のところ、目標数値の方向性をどう見られていますか?
フランソワ氏:現段階ではなんとも言えません。予測は非常に困難です。当然自動車メーカーも、再生材義務の必要性については理解しています。一方で、彼らは内燃機関から電動車への転換をはじめとする多くの他の課題を抱えているのは事実です。
そのため、理事会や欧州議会からメーカー寄りの決定を得る可能性があります。例えば要件適用の延期です。確かに産業全体が多くの問題を抱えています。関税・国境・エネルギーの問題など、状況は本当に困難で、近い将来についてさえ誰も何も予測できない状態ですから。しかし規制を2、3年延期すれば、その要件自体が「時代遅れ」になる可能性は高い。産業界の変化も常に加速しているからです。
私は過去5年間、欧州委員会委員長フォン・デア・ライエン氏と筋金入りの環境派ティマーマンス氏による欧州グリーンディールの推進を観察してきました。グリーンディールは環境問題に焦点を当てましたが、施行がうまく行ったとは到底思えません。今では誰もがこの5年間が「無茶苦茶」だったことを認めています。その理由は、全ての決定が影響評価なしに行われたからです。こうしたやり方は正当な方法ではない。EU法は、新規則を導入する際は、前もって欧州委員会が影響評価を行うことを義務付けています。だが、これが適切な方法で行われていなかった。実施されたケースもありましたが、非常に簡素で不十分なものでした。この5年間多くの間違いがあったことで、環境保護派にとってはグリーンディールを擁護し続けるのは非常に困難な状況になっています。
グリーンディールは現在非常に「ネガティブ」に捉えられています。化学産業、鉄鋼産業、アルミニウム産業、自動車産業など、多くの大手産業がこの5年間はひどかったと主張し、グリーンディールから遠のくべきだと主張しています。例えば、企業の環境・社会への取り組み報告義務に関する規制・企業サステナビリティ報告指令(CSRD)ですが、施行の延期や要件の緩和により大きく後退したと言えます。こうした傾向は、欧州企業の競争力が現在非常に弱体化しているので、おそらく継続するでしょう。ヨーロッパ企業の競争力を高めるには、官僚主義による負担を取り除かなければなりません。過去5年間、皆の肩にこの巨大な官僚主義の負担がありましたから。
ELV規則案に戻りますが、今後の方向性について今予測するのは正直難しい。9月以降に三者協議により最終化が行われます。EUの現状をみるにつけ、今新車の生産に対し、25%のプラスチック再生材使用を自動車メーカーに義務付けることが優先事項か?残念ながら今日のEUには異なる優先事項があるのです。EUが現在優先項目としているのは、欧州市民全体の大きな関心事項の一つでもある防衛産業の強化と拡大です。これは、25%の目標値設置とは同レベルではないのです。私は当然、EuRIC会長としてそれが優先事項だと言うべきですが、現実的にならざるを得ないのです。
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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