ドイツ自動車大手のメルセデス・ベンツは10月21日、自社ホームページ上で、「機械式湿式製錬プロセスを備え、ブラックマスに特化した車載バッテリーのリサイクル工場を、南独クッペンハイムに開設した」と発表した。自社内でバッテリーリサイクル工場までを完備する自動車メーカーは欧州初。
■南ドイツにエコな再生工場
発表によると、新工場のブラックマス年産能力は2500トン。製品は多段階の化学プロセスを経てコバルト、ニッケル、リチウムを個別に抽出、バッテリーセルの製造に回す。生産規模はベンツの新型電気自動車(EV)の5万個以上のバッテリーモジュールの生産に使用できる量だ。
工場開設に当たっては、独機械エンジニアリングのSMSグループとオーストラリアのプロセス技術開発会社ネオメタルズ(Neometals)との合弁会社である、プリモビウス(Primobius)と協力した。投資額は明かしていない。
新工場の特徴は、回収率が96%と高い機械式湿式製錬リサイクルプラントを採用していること。欧州で一般に用いられる乾燥式よりもエネルギー集約度が低く、廃棄物の発生量も少ないなどの利点がある。100%のグリーン電力使用などでバランスシート上のCO2ニュートラルも達成した。
■EUの車載バッテリー基準強化見据えリサイクル市場は急拡大
欧州では車載バッテリーのリサイクル市場が急激に拡大している。欧州連合(EU)が2031年から車載バッテリーに一定程度リサイクル品を使うよう義務付ける方針であるためだ。韓国の中央日報電子版の日本語版は10月23日、「欧州のバッテリーリサイクル市場規模は、2025年の80億ドルから2040年には2089億ドルに急拡大する」とのSNEリサーチの見通しを伝えた。
一方、ドイツでは基幹産業の自動車業の不振も深刻だ。同業の独フォルクスワーゲン(VW)が9月、創業以来で初のドイツ工場の閉鎖を決め、労使と対立したのは記憶に新しい。中国事業が振るわず財政が厳しいのはベンツとて同じだが、ドイツ内での工場開設と再利用への積極姿勢は、ドイツ国民にアピールしそうだ。
(IR Universe Kure)