取材に対応してくれた松崎課長(左)と駒野氏
阪和興業はサステナビリティへの取り組みを事業戦略と連動させ、将来の成長に向けた価値創出の基盤作りとして位置づけている。その範囲は鋼材や銅スクラップ、Eスクラップにだけでなく、廃タイヤを破砕して製造されるタイヤチップをはじめとした樹脂・化学原料にも及ぶ。
同社がタイヤチップのリサイクルに着手したのは2010年から。タイヤチップは、石炭よりもカロリー当たりの CO2 排出量が約 50%低く、石炭代替燃料として注目されていることから、国内のタイヤチップの回収・販売から取り組みをはじめ、海外市場のタイヤチップ回収事業にも進出。今ではアメリカやタイ、インドネシアを主とする海外からの回収が約7割を占めるという。現在、阪和興業がサーマルリサイクル向けに取り扱うタイヤチップは国内外あわせて約3万5000~4万トン。現在も供給元の開拓に力を注いでおり、7月には子会社のHANWA THAILAND CO., LTD.(阪和タイランド)を介して、タイの廃タイヤ回収・タイヤチップ製造会社である PRALAN ENERGY CO., LTD.(PRALAN)とR&T (2018) CO., LTD.(R&T)とタイヤチップ供給に関する基本合意書を締結したと発表したばかり。

また、同社は燃料用途のサーマルリサイクルだけでなく、熱分解リサイクルにも手を広げている。食品・エネルギー・生活資材新規事業推進室の駒野新太郎氏は、サーマルリサイクルと熱分解リサイクルについて「両方ともやらなくてはならない」と強調する。足元では、企業が事業活動を行う上で、自社で直接的に排出する温室効果ガスを対象とするScope1の削減に注力することで、産業界全体の課題となったCO2排出を積極的に削減。さらに長期的な観点から、他社が事業者の活動に関連して発生させた温室効果ガス(Scope3)の抑制の必要性を見据え、熱分解リサイクルへの本格的な事業参画に向けた準備を着実に進めているかたちだ。
先述した基本合意書締結の1週間後には、同じくタイにおいて、タイヤ熱分解リサイクル事業者である PYRO ENERGIE CO., LTD.(PYRO)への出資参画を発表した。阪和興業によると、熱分解は海外では主流のリサイクル方法になりつつあるとのことで、熱分解により生成される分解油やカーボン残渣は燃料用途だけでなく、タイヤの原料としても再利用可能だ 。

食品・エネルギー・生活資材新規事業推進課長を務める松崎康志氏は、「ケミカルリサイクルには、石油会社やゴム事業者、カーボンブラック業者など様々なステークホルダーが関わる。その中で、トレーダー(商社)としてだけ関わっていくのではなく、資本参加や業務提携を介して当事者として関わっていくことが重要」と事業展開のこだわりを語る。

阪和興業公開リリースより引用
水産業でもリサイクル事業を展開
同新規事業推進室が手掛けるリサイクルの対象は多岐にわたり、2023年7月からはグループ会社の西部サービス㈱と連携し、使用済み漁網のリサイクルに取り組んでいる。使用済み漁網を回収・破砕・分別し、プラスチック部分を原料に再資源化製品であるRPFを製造・販売している。RPFは石炭の代替燃料として利用され、CO2排出量の削減にも寄与する。
使用済み漁網のリサイクルにおいては、費用対効果が正しく認識されていないなどの課題も多いようだが、循環型経済の構築は世界共通の最優先事項であり、他の先進国に遅れを取ってきた日本政府もようやく重い腰をあげつつある。阪和興業の先を見据えた多角的なリサイクル事業の輪がさらに拡大することを期待したい。
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(IRuniverse K.Kuribara)