中外炉工業(1964) スマートエネルギーWEEK 出展ブース取材レポート
「できない」を「できる」に変える自由形状電池製造の革新装置技術
中外炉工業は「工業炉のデパート企業」
中外炉工業は工業炉および工業用バーナーにおける国内トップメーカーである。1945年の創業以来、100種類を超える工業炉の開発実績を誇り、その製品ラインナップの広さから「工業炉のデパート」と称されている。同社の強みは、長年培ってきた「熱技術(Thermal Technology)」「トータルエンジニアリング(Total Engineering)」「先進技術(Advanced Technology)」という3つの基盤技術にある。これらの技術を核として、鉄鋼、自動車、情報通信といった幅広い産業分野に対し、社会のニーズに適応した製品を提供している。

自由形状電池製造の革新装置技術を搭載した精密塗布装置をパネル展示
幕張で9/17~9/19まで開催されたスマートエネルギーWEEKで、次世代電池製造を視野に、精密塗布装置「RSコーダ」のパネル展示が行われていた。

一般的なスリットコータ(ダイコーター)は、高精度なポンプを用いて塗工液を一定量かつ均一にダイヘッドへ供給し、基材上に塗布する。この方式は均一な膜厚を得やすい一方で、塗布パターンの変更や、塗布の開始・終了時(始終端)の液だれ制御が難しく、材料ロスや補正のための複雑なレシピが必要になるという課題があったとのこと。これに対し、「RSコータ」の最大の特徴は、「独自の幅替え機構」をダイヘッドに搭載している点にあると力説された。

この機構により、塗布中にリアルタイムで塗布幅を変化させることが可能となり、円形やL字型といった複雑な形状(異形塗布)を直接描くように塗布できる。これにより、従来必要だった「全面に塗布してから不要な部分を打ち抜く」という工程が不要となり 、材料の使用効率を90%以上に高めることが可能となったとのこと。ざっくり言うと、RSコーターヘッドは「ヘッド側の機械構造で塗布形状とオン/オフを俊敏に作る」方式。なおポンプ式(ヒラノテクシード、テクノスマート等)は、「ポンプ圧・ダイ内圧・ギャップ制御で連続・均一膜を作る」方式が中心ということになる。ちなみにヒラノテクシードは密閉型ダイ/リップコーターでダイ内圧を専用コントローラで管理し、自動隙間調整や幅方向補正(中央ベンディング)で高精度・高再現性の連続塗工を実現するやり方を採用しており、速度・粘度レンジを広く取り、薄~中厚膜の量産安定性が強み。またテクノスマートはCED(クローズドエッジダイ)方式で、タンク~ヘッド~ポンプまでを密閉、(オプションで)ダイ内圧制御を備え、異物混入や溶剤揮発を抑えながら高品位膜を量産する手法を採用している。
ところで中外炉工業の「独自の幅替え機構」は、高精度ポンプに頼らずとも塗布の開始・終了をシャープに制御できるため、液だれが少なく、始終端の補正レシピが不要という大きなメリットも生み出す。特に「異形塗布」「高粘度塗布」「厚膜塗布」といった点で従来技術に対する優位性を持つ。このポンプに依存しない独自の制御技術こそが、「RSコータ」の核心的な差別化要因と言えよう。なおこの技術は、もともとFPD製造におけるフォトレジストや有機材料(OLED、カラーフィルター樹脂など)の塗布において開発された技術から生まれたとのこと。FPDでは均一な膜厚かつ基板パネルの矩形パターンやマージン制御(表示領域と非表示領域の境界をきれいに分けることが必須で、特に大面積ガラス基板では「端部のはみ出し」「角のだれ」「間欠パターンのつなぎ目」が問題になり、従来のスリットダイやスピンコートでは対応が難しかった。このニーズに応えるため、ヘッド内で吐出幅を可変制御できるRS機構が生み出されたとのこと。特にFPD 基板は切り欠き・異形(端部電極パターンやアライメントマーク)を有しており、スリットダイの全幅連続塗布では「余分な塗布」や「不要領域のマスク」が必要だった。これに対しRSヘッドは「吐出オン/オフの高速応答」や「幅替え機構」によって、こうした異形部分を避けつつ塗布可能となり、省資源、工程短縮が進んだ。
「RSコータ」の持つ高精度なパターン塗布技術は、全固体電池をはじめとする次世代電池の製造プロセスでの活用が期待されている。実際、全固体電池向けの開発、試作ラインでの受注も獲得している。これは、開発、試作ラインでは、プロトタイプや少量生産セル・小型セル(研究開発や先行試作)で、異形なセル形状やカスタム構造が多く、柔軟性を持つ RS コーターヘッド方式が選ばれやすいことが理由と見られる。ただし、固体電解質界面層あるいは電極‐固体電解質間の界面で、厚膜での密着性・形状応答性が重視されるケースが多く、RSコーターヘッドは厚膜時でも重ね塗り無しで対応できる。また電極活物質やセラミック粉などコスト・材料ロスが大きいため、パターン塗布・始終端制御で無駄を減らせるRS方式が有利。製造プロセスではウェット膜の収縮や界面の粗さ・未塗布部・過剰塗布部などがセル性能に大きく影響するため、膜厚のムラや端部の処理精度が要求される点も優位。このようにRS方式は優位な点が多く、量産設備導入においても優位性は変わらず、今後、量産設備向けの導入となれば、大きなビジネスになると見られる。
さらに、その応用範囲は電池分野に留まらない。例えば電子部品分野では積層セラミックコンデンサ(MLCC)の電極パターンや、小型インダクタのコイルパターンなど、微細かつ複雑な形状の導電性ペーストの塗布に応用できる。また半導体分野では半導体パッケージ工程における封止材やアンダーフィル材の精密塗布、FOWLP(Fan-Out Wafer Level Package)のような次世代パッケージ技術での再配線層の形成などへの活用が期待される。医療・ライフサイエンス分野でもマイクロ流路チップや診断用バイオセンサーの電極・試薬パターンの形成、経皮吸収型製剤(マイクロニードルアレイなど)の薬剤塗布といった、高付加価値分野への展開も有望とみられる。

このように、「RSコータ」は、高機能材料の利用が拡大する様々な最先端分野において、製造プロセスの革新とコスト削減に貢献できる高いポテンシャルを秘めており、今後の開発事業セグメントにおける新たな収益の柱となることが期待される。
業績も最高益更新続く見通しで26/3期に売上高378億円、営利30億円計画は上振れ期待
同社業績も好調に推移している。26/3Q1は、売上高が20.2%増の63.47億円、営業損失は3.71億円(前年同期は6.82億円の損失)、経常損失は2.52億円(同5.41億円の損失)となり、大幅な増収と各利益段階での損失縮小を達成した。政策保有株式の一部売却に伴う投資有価証券売却益12.84億円を特別利益に計上した結果、税引利益は7.04億円(前年同期は0.12億円の損失)となり、黒字転換を果たしている。業績を牽引したのは、旺盛な設備投資需要を背景とした好調な受注活動である。当Q1受注高は、前年同期比44.0%増の117.11億円と大幅に増加し、第1四半期末の受注残高は前年度末から57億円増加し、430.37億円に達しており、今後の売上計上に向けた基盤を固めている 。セグメント別に見ると、受注高ではプラント事業が前年同期比96.5%増の63.53億円と全体を牽引した 。これは、国内鉄鋼向け電気炉ダストリサイクル設備といったカーボンニュートラル関連の大型案件や、海外鉄鋼向け加熱炉改造工事などが寄与したものである 。また開発事業もカーボンニュートラルに向けた試験設備などが評価され、受注高は同253.7%増の9.89億円と大きく伸長した 。一方で、熱処理事業の受注高は同19.8%減の36.28億円となったが 、これは主要顧客である自動車業界の一部が、米国の関税政策の動向を見極めるために設備投資を一時的に見送った影響とみられる 。売上高は、熱処理事業が同22.6%増の37.29億円、プラント事業が同31.7%増の20.09億円となるなど、全部門で増収を確保した 。特に、前期から繰り越した豊富な受注残を背景に、電池素材熱処理炉や機能材火炎内処理設備、NEDOの「グリーンイノベーション基金事業」案件などの工事が順調に進捗したことが貢献している。利益面では、売上総利益率が前年同期の9.9%から13.9%へと4.0ポイント改善した。これは、人件費や原材料価格の上昇分を適切に価格転嫁する「適正価格による受注」を推進した成果が現れたものと考えられる 。Q1時点では例年通り営業損失を計上しているが、増収効果と利益率の改善により、損失幅は前年同期から大幅に縮小、通期業績達成に向けて順調な滑り出しと言える。
26/3期業績予想は売上高375億円(3.5%増)、営業利益30億円(9.7%増)、経常利益31.5億円(同4.9%増)、税引利益28億円(同6.6%減)を据え置いた 。税引利益は前年度に計上していた投資有価証券売却益が減少(今後売却の可能性も)しているため。セグメント別の通期予想は開示されていないが、25/3期の状況から大きな変化はないと見られ、26/3Q1の動向から、各事業の貢献が期待される。熱処理事業は、自動車業界の投資再開が見込まれるほか、半導体関連の堅調な需要が継続する見通し。プラント事業は、国内外の鉄鋼業界における省エネ・脱炭素化投資が追い風となり、Q1に受注した大型案件が今期後半から来期にかけて売上に貢献してくると考えられる。開発事業では、カーボンニュートラル関連の引き合いが活発であり新規案件の獲得が期待され、収益上振れが見込まれる。

同社は現在、22年5月に発表した5カ年の中期経営計画「Chugai Ro Break Through (CBT) 2022-2026」を推進している。この計画は、経営ビジョン2026として「自らを変革し、カーボンニュートラル技術で未来をひらく!」を掲げ、2027年3月期に売上高415億円、営業利益36.2億円(営業利益率8.7%)の数値目標を掲げている。

カーボンニュートラルを中心に新市場の創出本計画の最重要テーマであり、同社の成長ドライバーであるとしている。同社が過去に納入した工業炉から排出されるCO2は、日本全体の約1%に相当する年間1200万トン(2013年度基準)に上るとされ、この削減が社会的な要請となっている。同社はこの課題を巨大なビジネスチャンスと捉え、水素・アンモニア燃焼技術や電化技術を駆使した脱炭素ソリューションの提供を強化している。具体的な目標として「2026年度に新商品による売上高40億円」を掲げているが 、2025年3月期時点で関連売上高は10億円に達しており 、順調な立ち上がりを見せている。NEDOのグリーンイノベーション基金事業への参画や、商業用として国内初となる工業用アンモニアバーナの納入 、トヨタ自動車と共同開発した水素バーナーが「トヨタ技術開発賞」を受賞するなど 、具体的な成果が次々と生まれている。2023年11月に開設した新研究所「熱技術創造センター」が、これらの研究開発を加速させる中核拠点となっている。もう一つの重点テーマは既存商品のニーズ適合ブラッシュアップで拡販と利益向上にある。カーボンニュートラルという新たな付加価値を既存製品に組み込むことで、拡販と利益率向上を目指す戦略。目標として「2026年度に売上高112億円、営業利益20.6億円の積上げ」を掲げているが、2025年3月期時点で売上高の積上げ額は98億円に達しており 、目標達成は前倒し達成目前である。特に、EV化の進展を背景に二次電池素材熱処理設備や次世代電池関連製造設備の受注が好調である。また、鉄鋼業界の活発な設備投資を背景に、電炉向け排ガス処理設備や省エネ型連続焼鈍設備なども大きく貢献している。IoTを活用した熱処理設備用パッケージ「CRism」など、サービスの高度化による収益機会の拡大も進めている。このように、既存事業の収益力強化、新製品群の立ち上がりなどが寄与し、中計予想の上振れ達成が期待される。
株価は業績好調を受けて年初来高値を更新中である。現在、26/3期会社予想EPS387.92円に対しPER11.2倍はプライム建設13.4倍に対し割安感があり、類似会社の品川リフラクトリーズ(5351)の10.3倍と似た水準にある。工業炉トップ企業として今後も電池、半導体、水素関連などの事業拡大が期待され、新規にややポジティブとして評価したい。


*各種資料は会社説明会資料、中計資料、HPカタログ、チャートはヤフーHPから添付