2025年9月25日、国際フォーラムにてIRuniverseが主催する「12th Battery Summit in Tokyo」が開催された。本サミットでは業界を代表する13名が登壇し、質疑応答を含めて活発な議論がなされた。
本稿ではバッテリーの再エネ主力化とEV普及を支える次世代電池技術に関する4件の講演内容について紹介する。
■「再エネ主力電源化に貢献するダイヘンの系統用蓄電池システム」
株式会社ダイヘン EMS事業部 営業部 システムソリューション課長 福田康彦氏
ダイヘンは、太陽光発電用パワーコンディショナ(PCS)や超高圧変圧器を中心としたエネルギーマネジメント事業、半導体製造装置用高周波電源やアーク溶接機を手掛けるマテリアルプロセシング事業、アーク溶接ロボットや搬送ロボットを展開するファクトリーオートメーション事業を柱としている。近年、エネルギーマネジメント事業のなかで、リチウムイオンバッテリーを活用した蓄電池システム事業に注力している。
太陽光発電分野では2002年からPCSを製造しており、羽田空港や堺太陽光発電所、有田太陽光発電所、さらには海外のタイなどに納入実績を持つ。経済産業省が策定した第7次エネルギー基本計画では、2040年までに再生可能エネルギー比率を2022年の22%から40〜50%に拡大、太陽光発電比率を2023年の9.8%から23〜29%へ引き上げる方針である。この目標を実現するには送電容量の不足解消や系統の安定性確保が不可欠であり、2022年の法改正により蓄電池単体で系統に接続可能となったことで、系統用蓄電池の役割が一層重要になっている。
太陽光発電の導入拡大に伴い、発電量の変動や系統混雑といった課題が顕在化している。これに対して蓄電池で需給調整を行い、安定的な電力供給を可能にする取り組みが進んでいる。日本卸電力取引所(JEPX)では電力が30分単位で取引されており、系統用蓄電池を活用することで安価な時間帯に充電し、電力価格が高騰する時間帯に放電して取引差益を得る仕組みが普及している。太陽光発電が余り、市場価格が安価となる昼間に充電し、夜間に放電するパターンが多い。
ダイヘンの系統用大容量蓄電池パッケージは、170kWのPCSを6ユニット接続して1MW単位とし、キャビネット型の蓄電池との組み合わせで、分割搬入することを可能とコンテナでは設置できない搬入経路が狭い山間部やゴルフ場跡地といった設置場所にも柔軟に対応できる。さらに、他社製品に比べて騒音レベルが10〜20dB低いため、防音壁(約100万円規模)が不要となる点も強みである。蓄電池やPCSのユニット数を自由に組み合わせられるカスタマイズ性も特長であり、高圧系統用では、2MW/8MWhの引き合いが多い。
また、同社は世界最大手の蓄電池メーカーであるCATL社と定置用蓄電池に関する供給契約を締結しており、エネルギーマネジメントシステム製品の拡充を通じて市場での存在感を一層高める方針である。
質疑応答
Q.御社はこのシステムを輸出して、例えばODAの対象として東南アジアにインストールするという考えはありでしょうか。
A. 活況な国内需要の対応で手一杯という状況。また海外展開には現地のグリッドコードや安全認証を取得する必要があり、その対応に多くのリソースを要するため、現段階では国内を中心に進めていく方針。
Q. 蓄電池もしくはそのシステム、対応年数は?
A. 基本的な対応年数は20年です。蓄電池モジュール自体は20年使用可能で、電源基板やファンなどの小型部品は5年・10年といったタイミングで交換しながら運用している。
Q. 20年間でその採算ペースには十分乗るということなんでしょうか。
A. 採算については市場価格によって変動する。現状の市場であれば十分に採算は取れ流が、この状況が長期的に続くかどうかは不確実。
■「gf.Zの固定電池への挑戦」
gf.Z株式会社 代表取締役 長岡祐樹氏
gf.ZはWeLion製の世界最高峰の固体リチウム電池を広めるため、今年から提供を開始した。高い安全性を備えたリチウム電池システムを世界に展開し、固体電池化の革新を目指している。
gf.Zが提供するのは、セルレベルで世界最高水準の安全性を持つ電池であり、日本をはじめ東南アジアを中心にグローバル展開を目指している。
長岡祐樹氏の発表を引き継ぎ、Welion技術者による電池の紹介がなされた。WeLionは、世界最高峰の固体リチウム電池の提供を今年から開始した企業である。提供するセルは、全固体およびセミ固体の両方のリチウム電池技術を採用しており、全固体セルは液体電解質を一切含まず、理論上は最高水準の安全性能を持つ。セミ固体セルは液体電解質と固体電解質を組み合わせた構造で、すでに量産可能なコスト水準に達している。
昨年度には1GWh以上を市場に供給し、今年度は2~3GWhの供給を見込む。これらのプリズマティックセルは、発電所、電力系統、ユーザー側、さらに産業用機械にも導入されており、日本市場向けにもDC側のシステムソリューションを提供している。
WeLionは、従来の液体電池から固体電池への移行が今後の主流になると考えている。リチウム電池の歴史を振り返ると、性能改善は常に活物質の反復改良によって進められてきた。しかし、次世代材料の多くは従来の液体電解質と互換性がないため、固体電池技術の活用が不可欠である。WeLionはこの技術を用いて、世界中の市場に向けて高性能で安全なセルを提供し、エネルギー貯蔵や産業分野の発展に貢献していく。
コスト面でも工夫がなされており、ESX向けのエネルギー貯蔵ではカソード・アノード材料や製造プロセスを従来液体電池と共通化することで、製造コストを低減している。将来的には固体電池の材料コストや製造コストは液体電池よりも低くなる可能性があると考えている。また、サイクル性能の向上やセル寿命の延長、温度範囲の拡大により、システム全体のコスト削減も期待できる。
WeLionは、固体電池技術を通じて、エネルギー貯蔵分野のみならず、幅広い産業領域における革新を支援していく意向である。
質疑応答
Q1. 負極は何を使用しているのか。リチウム金属か、それともグラファイトか。
A1. ESSセルでは純グラファイトを使用している。シリコンを導入するとサイクル性能が大幅に低下するためである。しかし、EVやUAV、高エネルギー密度を必要とするセルでは、シリコンモノオキサイドや第3世代シリコンカーボンを採用している。リチウム金属負極はセミソリッド技術では安全性の維持が困難であり、大規模生産には向かないと考えている。
Q2. セル内部の界面抵抗はどのように解決しているのか。圧力はどのようにかけているのか。
A2.「インシチュ固化法(in situ solidification)」が最も有効な方法の一つである。従来の材料を工場で混ぜただけでは、セル内部に空隙が生じ、界面抵抗が高くなる。セル内で化学反応を起こすことで化学結合を形成し、界面抵抗を低減している。酸化物系電解質ではナノスケールの酸化物粒子や液体、ポリマーが複雑に相互作用するため説明はやや困難であるが、1+1が2以上の効果となり、イオン拡散を向上させると考えている。
■「テスラのミッションとテスラ系統用蓄電池 Megapackについて」
Tesla Japan合同会社 Sr. Account Manager, Megapack Sales, Energy Products 園田将史氏
テスラおよびテスラジャパンは、「持続可能なエネルギーへ、世界の移行を加速する」というミッションを掲げ、電気自動車、蓄電池、太陽光発電システムなどを展開している。その長期戦略が「マスタープラン」であり、2006年にCEOイーロン・マスク氏が初めて公表して以来、段階的に改訂を重ねてきた。
パート1(2006年):電動車の普及を目的にロードスターを皮切りに、高級セダン・SUVのモデルS・X、さらに普及車モデル3へと段階的に展開する成長戦略を示した。
パート2(2016年):エネルギー事業の統合や完全自動運転の実現を掲げ、電動車の次の進化を目指した。
パート3(2023年)*再生可能エネルギーと電動化全般を対象とするグローバルなロードマップを提示した。
パート4(2025年):「持続可能な豊かさの実現」をテーマに、自動車や蓄電池に加え、家庭用ロボットなど生活分野への拡張を打ち出している。
テスラの強みはスペックやデザインだけでなく、ソフトウェアにある。この「ハードとソフトの融合による持続的進化」こそが、同社の競争優位性の源泉である。
蓄電池事業においては、テスラジャパンは日本市場向けに家庭向け「パワーウォール」と系統向け「メガパック」を展開している。第7次エネルギー基本計画では2030年に再エネ比率を約40%へ高める方針が示される一方、変動性再エネの増加により系統安定化が大きな課題となっている。従来は火力発電所の調整力で対応してきたが、稼働率低下により限界が見え始めた。そこで、蓄電池が需給バランス調整や出力変動対策の切り札として期待されている。
メガパックは大規模の系統用・産業用の蓄電池で、余剰電力を蓄え、不足時に放電することで電力を平準化し、電源価値を高める。用途は系統安定化、マイクログリッド構築、工場併設によるピークシフト、再エネ併設など幅広い。ハワイでは石炭火力の廃止後、太陽光と組み合わせ185MW規模の電力供給を担っている。
製品は2013年の「パワーパック」から進化し、現在は4MWh規模まで拡張。2025年時点で世界60カ国・2100件に導入され、累計36GWhに達している。効率は往復85%未満から93%へ改善され、設置も短期間で可能だ。インバーターを内蔵し、部分的な故障時も稼働を継続できる設計で、寿命は15年を想定する。
特徴的なのが「仮想慣性力」である。発電所停止で周波数が低下した際に、自律的に出力を調整し系統を安定化する機能だ。日本ではまだ市場価値が十分に認められていないが、オーストラリアでは「ヴィクトリアン・ビッグバッテリー」が象徴的事例となり、収益源として確立している。
日本国内でも普及は進みつつあり、関西電力による火力跡地での導入など具体的事例が増加している。仙台パワーステーションをはじめ各地で稼働実績を重ね、テスラの蓄電池は再エネ時代の電力安定化を支える存在となりつつある。
■「日米中の電動車分解解析で見えてきた各社のバッテリースコアと応用技術」
名古屋大学 山本 真義教授
EV普及において最も重要なのは、まず「売れる車」であること。そのためには、搭載されるバッテリー技術や車両設計が市場の要求に応えられるかが鍵となる。近年、中国市場ではXiaomiのEVが1時間で27万台を売り上げるなど、爆発的な需要が生まれている。こうした人気車種を分解・分析することで、EVの今後の方向性が見えてくる。
EVは車体下部に大型バッテリーを搭載するためホイールベースが長くなり、取り回し性能が課題となる。その克服にはフロントフレームの設計変更などが求められ、車両パッケージング全体が影響を受ける。また、現行のリチウムイオン電池は厚みが10〜15センチ程度だが、全固体電池の実用化により5センチ程度まで薄型化できる見通しがある。これにより車高を下げれば空気抵抗(Cd値)も抑えられ、航続距離の延伸につながる。トヨタが4代目プリウスでCd値0.24を実現したように、EVでは空力性能と電池性能の両立が競争力の源泉となっている。
中国のBYD「SEAL」やXiaomiの「SU7」など最新モデルでは、バッテリーを車体構造の一部とする「セル・トゥ・ボディ」方式が採用され、強度確保と軽量化を両立している。冷却方式も水冷・油冷・触媒など各社で戦略が分かれており、温度管理技術が今後の差別化要因となる。さらに、800V系の高電圧バッテリーを搭載する車種が増えており、配線を細くできることで銅の使用量削減にも寄与する。これは資源制約への対応という観点からも注目されている。
次世代技術として期待されるのが「インホイールモーター」である。モーターとインバーターの小型化によりこれらをホイール内に収めることが可能となり、車内空間拡大やバッテリー搭載量の増加につながる。すでにルノーや日立が実証を進めており、冷却方式の革新と組み合わせて新たな設計潮流が形成されつつある。
EVの普及は単なる車の販売にとどまらず、家庭用充電器や再生可能エネルギーとの連携、分散型電源としての役割拡大へと広がっていく。その基盤となるのはバッテリー技術であり、日本の自動車産業が次世代をリードするためには、この分野での競争力確保が不可欠である。今後は分解・分析による知見を共有し、実機に触れられる環境を整えることで、業界全体の理解と発展を後押しする必要がある。
質疑応答
Q. 48Vバッテリー導入の目的は配線重量の削減と理解している。EV普及やPHEVへの適用、さらに12Vから48Vへの統一は進むのか。
A. 配線重量は大きな課題であり、レクサスのハイブリッド車では配線だけで約250kgに達する。これを半減するだけでも大きな効果があるため、ハイブリッド車やRAV4の次世代モデルでも配線の軽量化が求められている。48Vへの統一については、特に欧州メーカーが積極的であり、補機類も含めて48V化が進む方向にある。
Q. 400Vから800V化した場合、安全性や絶縁の問題はどうか。また高電圧化でノイズは減るのか。
A. 高電圧化によってインバーターのスイッチング周波数が上がり、30〜120MHzの領域でノイズが増加する。特にFMラジオ帯域への影響が大きい。その対策としてはマルチレベルインバーターの採用により段階的に電圧を上げ、ノイズ抑制を図る方法がある。絶縁については素材選択が重要であり、アルミから鉄や樹脂、マグネシウムへの移行が進むが、樹脂の絶縁は難易度が高い。日産車で採用されるPPS素材などが現行の解決策となっているが、800V系では課題が残る。
Q. バッテリーを車体構造に組み込む場合、剛性や接合強度はどう確保しているのか。
A. サイドシルを高くするなど設計上の工夫はあるが、接合部の信頼性が極めて重要である。現状では水密性に弱点があり、接合強度も十分ではないと評価している。各コンポーネントの性能は一定水準を満たしているが、構造全体としては改善の余地がある。
Q. インホイールモーターはバネ下重量の増加が課題だが、どのように克服しているのか。
A. イギリスの研究者の見解によれば、車体重量とバネ下重量の比率が6対1以下であれば実用上問題ない。人間が不快に感じる4〜8Hzの振動帯域を抑制できるかが鍵であり、EVは車体が重いため有利である。現状では車体重量を増やすことで比率を調整し、振動を許容範囲に抑える工夫が行われている。
第12回バッテリーサミット東京では、系統用蓄電池や固体電池、EV向けバッテリー技術といった次世代電力・モビリティ分野の最新動向が明らかになった。国内外のメーカーや研究者が議論した知見は、再生可能エネルギーの安定供給や電動車の性能向上に直結するものであり、今後の市場拡大と技術革新を示す指標となるだろう。
(IRuniverse Midori Fushimi)